第69話
ダブリスでの後日談。
ダブリスでの調査から3日、"天の笛"があの街を放棄した事によって、アルテミシア王国の管理下となった。
当然、ワープゲートの使用履歴も確認したが、既に対策をされた後であった。
ダグとジェシーの方も、結局上層部に信用されてなかった様で、あの後遠隔の呪術で始末されてしまった。
そして現在、アルベルトの執務室にて、レオニーの入手した情報が開示されようとしていた。
「それでレオニー、今回入手した奴らの情報についてだが…」
「アタシが簒奪者の手を使ってケイリーを喰って、奴の全てを奪ってやった。それによって得た情報なんだが、大まかな情報しか得られなかった。先ず、奴らの拠点だが、基本的に人目の付きにくい所を中心に点在している。そうする事によって、表側の動きを把握しながら実験や研究を進めているんだ。肝心の本部についてだが、それが厄介でな。此処とは別の次元に存在しているんだと」
「別の次元!?何処かの国とかじゃなくて!?」
「あぁ。この世界だが、どの場所にも存在しない。だから奴らも足を掴まれる心配は無い。何せそこに行くには、専用のパスや特殊な術式等が必要だからだ。そう言う訳なんで、今のアタシらには行く手段が無い為、手の出し様が無い。だから本部に関する話は今は置いておく方向で」
「構成員については?」
「取り敢えず、調査員や研究員は何人も存在しているのは確かだ。でもって、戦闘員については、双性者や合成獣みたいのが居れば、普通の人間だっている。普通の奴ですら、Bランク以上の実力を持っている事に変わりは無いから、油断は禁物だ。双性者や合成獣ですらピンキリで、結局ケイリーもキリの方だった。しかも厄介な事に、奴ら、既に転生者や転移者を何人か組織に引き込んでやがる。こいつらもアタシ同様特典持ちで、その力を使って暗躍をしていると来た。ただでさえ双性者だけでも頭が痛い事に変わりは無いってのに、本当に厄介極まりない」
「それで、最も重要なボスについては?」
「あぁ、それがボスも基本的に自分以外誰も信用してなくてな。それで幹部クラスしかボスの正体を知ってる奴がいなくて、それ以外は顔も知らないと来た。全く、本当に秘密主義で閉鎖的なボスときたもんだ」
「いや、それだけ分かれば充分だ。次元移動については、今後の課題としておこう」
「それでお兄様。私達はまだ受け身の姿勢を続けなくてはならないのですね?」
「仕方ないだろう、他の構成員にどんなのがいるのかすら把握出来てない以上は。それよりもシェーラ、ダブリスの人達の件も頼むぞ」
「えぇ、勿論」
(そうなんだよなぁ。ケイリーの奴、他の構成員について全然興味を持ってなかったみたいだったから、構成員のリストを入手出来なかったんだよなぁ。だから知ってる顔以外、把握出来てないんだよなぁ)
メルティ王国では現在、大人気アイドル"ラーナ・レクルド"のライブツアーが開催されていた。
会場でも現在、ラーナの歌やパフォーマンスに、観客達も盛り上がっていた。
<皆~、お待たせ~!今日も盛り上がって行こう~!>
『うぉおおおお!L・O・V・E、ラーナちゃぁああああん!』
そしてステージを終えたラーナは、控室で休息を取っていた。
「ラーナさん、ステージお疲れ様です」
「ありがとう、マネージャー。こっちもアイドルとしてステージに立った甲斐があるってものだよ」
「そうですね。"天の笛"の今後の活動の為に、芸能界に潜り込んでおけと言う上からの命令も遂行出来てますし」
「それだけじゃないよ。私もあのごみ溜めの中の毎日から、光り輝くステージの上で人々を魅了し、多くの人達を虜に出来る様になった事で、優越感に浸れて、見返してやる事も出来たんだから」
その時、ラーナの水晶に通信が入り、軽く対応して直ぐに通信を切る。
「お姉ちゃん来てるみたいだから、迎えに行ってくれる?」
「あ、はい!今すぐ向かいます!」
と、マネージャーが迎えに行き、控室でラフィニアと2人きりになる。
「久しぶりね、ラーナ。貴方も随分大人気になってる事で」
「お陰様でね。今の人生を与えてくれた"天の笛"には感謝してるよ。誰にも見向きされなかった日々から、一気に大逆転出来たんだから。そう言うお姉ちゃんこそ、聖女として大活躍してるみたいじゃない」
「そうよ。私も"天の笛"の力のお陰で、今の人生を謳歌出来てるわ。こうして誰もが私に向こうから寄ってきてくれる様になったんだから」
「それよりも、お姉ちゃん何しに来たの?顔見に来ただけじゃないよね?」
「そうそう、先ずジルティナからの報告なんだけど、貴方着信拒否してる状態だったって話だったから、偶然表の仕事でこっちに来ていた私が伝えに来たって訳」
「あぁ、そう言えば私もステージ前の調整で忙しかったから気付かなかった」
「ダブリスがエミリア王女達の手に渡った上に、ケイリーもやられたって話よ」
「あぁ、それは仕方ないかな。ケイリーも双性者最弱クラスでしかない以上は。それにダブリスが使えなくなったって事は、しばらく融合魔法の実験はお休み?」
「そうよ。あそこに代わる保管場所をまた設けなくちゃならないんだから」
「他には?」
「向こうでケールとヴェルナンデも負ける事態になったから、人員の見直しもやっておくって」
「ケールまで負けちゃったの!?それにあのヴェルナンデまで!?それ不味いんじゃあ…!?」
「だからこその見直しなのよ。まぁ、あの子達も私達も見切りを付けられる事は無いでしょう。何せ私達は、それ程の価値がある人材なんだから」
「それもそうだね。上だってそこら辺、ちゃんと分かってる筈だし」
「それじゃあ、私もここで失礼させて貰うわね」
「ちょっと待って、お姉ちゃん。またおっぱい大きくなってるでしょ?抜くならちゃんと人目の無い所でやってよ?ただでさえ性的興奮が盛んな上に、直ぐ発情しやすいんだから」
「私だって、そこら辺ちゃんと弁えてるから安心しなさい」
そう言ってラフィニアは控室から去っていき、入れ替わりにマネージャーが入って来た。
「ラーナさん、そろそろ次の予定に入りますので、準備お願いします」
「はーい!今行きまーす!」
"天の笛"本部、修練所
ビームサーベルを構えていたミルザは、目の前に置いていた石柱を斬り落とした所だった。
そして構えを解いたミルザに声を掛ける者がいた。
「随分と精が出てますね、ミルザちゃん」
「あぁ、アンタか。一体何の用?」
「いやぁ、この前ケイリーちゃんがやられたって報告が上がったでしょ?ほら、ミルザちゃんもあの子と仲良かったじゃん?それでどうなのかなって気になって」
「別にアンタに心配される言われは無い。アタシもアイツもこうなるのは覚悟の上だったし、何より、私も別に気にしてないし」
「へぇー、それはそれは殊勝な事で」
「で、何しに来たの?冷やかしなら帰ってくれる?アタシも暇じゃないんだけど」
「まぁまぁまぁ、そんなに睨まないでよ~。これでも僕、ミルザちゃんの事気に掛けてるんだからさ~。取り敢えず、僕と一戦交えない?」
と、その茶髪で糸目の少年はミルザの前に立つ。
「まぁ取り敢えず、僕も君の稽古には付き合うよ。ほら、君だってケイリーちゃんと同じで最弱クラスの1人でしょ?当然、君の身だって危うくなる。だから僕の方でも、直ぐにはやられない様に鍛えておいておくよ~」
「…舐めた口聞いてくれるじゃない。転移者だか何だか知らないけど、叩きのめしてやるよ!」
30分後、地に伏したミルザを少年が見下ろしていた。
「う~ん、筋は悪くないし、力も問題無し。うん、これなら何とか成果は挙げられる筈だよ」
「その態度、どこまで舐め腐った態度なんだ…!?」
「まぁまぁ睨まない睨まな~い。折角の可愛い顔が台無しだよ~。この僕のお墨付きなんだから、大丈夫だって~」
「本当に生意気な奴…!」
「それじゃあ、僕はこの辺で~」
と、少年はその場を去っていった。
「…拾って間もなく訓練してこの強さ。これが転移者なのか…!」
メルティ王国、とあるカフェ
その店の中に設けられてる一室に、ラーナはミコノとイクトと会談していた。
「それで、今回私を呼んだご用件は何でしょうか、ミコノ王女、イクト王子?」
「ラーナ・レクルド、貴方もアイドルとしてかなり売れて来て、もうこの国の代表格にまで上り詰めたじゃない?だから貴方にも、我が国のVIP待遇の権利を与えようと思ってね」
「エンタメの国であるメルティ王国としても、我々も無下に扱う事は出来ませんからね。当然、あらゆる施設で好待遇を受けられるし、王宮への立ち入りも許可される事になります」
「つまり貴方は、それ程までの価値を見出したって訳。王族のお眼鏡に叶ったんだから、貴方も誇らしく胸を張って良いわよ!」
「成程、それは光栄です。私としても、王族からの好意を無下にする気はありません。ですので、喜んでお受け致します」
「そう、ありがとう」
そして会談を終えたラーナはマネージャーと共に路地裏に入る。
「やりましたね、ラーナさん。これでメルティ王族の信用を確保出来ました」
「そうだね。これでこの国での活動がやりやすくなった。これで上も満足してくれるでしょう。さぁて、更に身を引き締めて行きますか」
と、ラーナも今後の活動に更に力を入れる事にする。
"天の笛"の方も、新たな動きを見せていく事になるだろう。
"天の笛"も水面下で動いている。




