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第6話

魔族側の話をします。

 とある洞窟

 とある冒険者パーティーが大蛇を討伐していた。


「ふぅ。これでアルテミシア王国に行く前の仕事はおしまい」


 と、赤髪の剣士の男性は一息入れる。


「おい、リリン!こんな蛇、元の姿に戻って片付けても良かったろ!人間の戦い方じゃ時間が掛かる!」


 と、背中まで届く金髪と麗しい美貌を持つシスターが文句を言う。


「駄目よ。この洞窟じゃそれはかえって動き辛くなるわ。それに他の人間が洞窟に入って来る可能性があるから、素を出さない。今の私は剣士のリーベルよ。そして貴方も、今はシスターのベルマリアとして振舞いなさい」


「分かったよ。…これで宜しいでしょうか?」


 と、ベルマリアは先程と違って、お淑やかな振舞いを見せる。


「2人共、この蛇の死骸をギルドに持って行くぞ」


「魔物の死体って、ちゃんと売れる物でもあるからね」


 と、大柄で黒髪の鎧の男性と、背中まで届く赤髪のハーフアップのローブの魔法使いの少女が声を掛ける。


「あ、悪い、ジーロン、ミニー。今行く!」


 リーベルも先程と違って、好青年な振る舞いになって駆け付ける。


「そう言えば、この後行くアルテミシア王国ってどんな国?」


「色んな人や文化を取り入れる、異文化交流に力を入れてる国だよ。僕の知り合いの魔女も、そこで暮らしている」


「その国って、俺達が元の姿に戻っても大丈夫か?」


「うーん、あんまりオススメしないなぁ。僕達も今、人間として冒険者やってる身だし、下手して妙な噂立てられたりとかしたら、今後の活動に支障をきたしかねないし」


「何だよ。久々に元の姿で酒飲めると思ったのに」


「ミニー、素の性格出てる。女の子が乱暴な口調でそんな事言っちゃダメ。」


「全くだぜ。俺も溜まり過ぎてムラムラしてるっつの」


「ベルマリア、君も。神に仕えるシスターがそういう事言わない」




 こんなやり取りがあったのが3日前。

 そして現在、アルテミシア王国郊外、シェーラの家。


「はぁーい。シェーラ、お久しぶり」


 と、リーベルが元気よく玄関を開けて入ってきた。


「…どちら様?」


「やだなぁ、もう。私よ、リリンよ。貴方の魔力探知なら分かるでしょ?」


「ええ、分かってるわよ。揶揄っただけ」


 そして5人はテーブルを囲んでお茶をする事に。


「で、そちらの3人は?」


「あぁ、そうだったわね。まず、こちらはうちのタンクのジーロン。正体はケットシーのジーナ」


「よろしくにゃ~」


「こちらは魔法使いのミニー。正体はドラゴニュートのミルド」


「よろしくお願いする」


「最後にシスターのベルマリア。正体はオークのベーガー」


「よろしくな。それにしても魔女さん、中々の別嬪さんじゃねぇか。どうだ?今度俺と一緒に…」


「遠慮するわ。しかし貴方達、よく冒険者出来てるわよね?」


「擬態の際に、今の姿に合わせた疑似人格も作ってあるからね。そのお陰で、今の姿に合わせた戦闘スタイルで動けるし、人前でもこの姿に合わせた立ち振る舞い方をしているから怪しまれる事もないわよ」


「そうなの。それは便利。所で、貴方達がこの国に立ち寄った理由は?」


「実はこの国に潜入している魔族の調査に来たのよ。そいつ、この国で犯罪計画を企ててるって話でね。本当にそんな事されたら和平協定に響きかねないのよ。だから、それを阻止する為に私達が来たって訳」


「成程。しかし貴方達、擬態するなら別に元の姿をベースにしても良かった筈よ」


「それじゃ、種族特有の癖が出ちゃって、勘のいい人間にバレちゃうかもしれないでしょ?だから全員、性別も戦闘スタイルも真逆の人間を割り当てたって訳よ」




 王立アルテミシア学園

 リーベル達は見学者として学園に入れて貰っていた。


「ここが、人間社会の中で比較的高い評価を得ている学校かぁ」


「あらゆる人種が交流し合える環境が物語っているな」


 そこに4人の元にラウディーが駆け付ける。


「お待たせしました。私が生徒会長のラウディー・ビーネットです」


「(確かこの子、シェーラの契約者だったわね)初めまして。僕がパーティーリーダーのリーベルです」


「それでは皆さん、学園の案内を致します。どうぞこちらへ」


 そこから4人はラウディーの案内の元、教室、聖堂、食堂、中庭と庭園、実習場と案内される。

 そして学生寮を経て生徒会室へ。


「如何でしたか?」


「うん、実に良い学校だよ。設備は勿論、生徒達も充実出来てる」


「それは良かったです」


「それじゃ、僕達はエミリア王女に挨拶してくるから」


「はい。またのお越しをお待ちしております」


 そのまま4人は生徒会室を出て、中庭にいるエミリア達の元へ。


「あ、貴方達確か会長が言ってた冒険者パーティーの人達でしたね。初めまして。アルテミシア王国第1王女エミリア・フォン・アルテミシアです」


「(確かこのお姫様もシェーラの契約者、こっちの子はシェーラの弟子だったわね)初めまして。僕がパーティーリーダーのリーベルです。パーティー共々、流浪の身ですが、今後、仕事で会う事があれば、よろしくお願いします」


「えぇ、こちらこそ」


 そうして握手を交わし、4人が去った後、ハルトマリーが声を掛ける。


「エミリアさん、あの方達、高度な魔力隠蔽をしてるけど、魔族よ?」


「あ、やっぱり?」


「姉さん、ハルトマリーさん、何で分かるの!?」


「今の私は王女よ。警戒は常にしておかないと」


「俺もシェーラ先生の弟子よ。魔法の技術は高い方だから」




 夕方の街の食事処

 4人は食事をしながら仕事の話をしていた。


「で、手分けして街を探ってみた訳だけど、どうだった?」


「あたしも武器屋や鍛冶屋を見てみたけど、怪しい履歴は無かったにゃ。暗器とかを使う気はなさそうだにゃ」


「俺も魔力感知を使って、潜伏先を掴んどいた。目立たない役職を選んで、ひっそりと影を潜めてるみたいだぜ」


「俺も外面と美貌を使って男共から聞いて回った。兵士達の巡回パターンを観察してる奴がいたって話だ」


「私もギルドに顔を出したけど、不審な人物は国に出入りしてなかったって話よ。仲間はいないと見て良さそうね」


「それじゃ、この仕事が終わったら酒飲ませろよ。もう1週間も飲んでないんだから」


「はいはい。それじゃ仕事が終わったらこの街で休みましょうか」


「本当かにゃ?ここの森を駆け回ってみるにゃ」


「俺も久しぶりに百合プレイが出来るぜ」




 夜、王立アルテミシア学園女子寮

 そこに1人の男が忍び寄ると、その姿を悪魔に変えて、翼を広げる。

 そこに突如として光の鎖が拘束、森の中へ引きずられる。


「一体何が…!?」


 その途端、結界が張られる。


「この結界がある間、外にバレる事は無いぜ」


「成程。現在城の外にいるエミリア王女が暗殺され、魔族の痕跡が見つかれば、お互いの信用に瑕がつくし、和平協定も白紙になり兼ねないわね」


「ちぃ、仕方ねえ!テメエらから先に始末してやる!」


 そう言って悪魔は黒い魔力弾を放つが、ジーロンが盾で防ぐ。

 その後、ミニーが小さい火球の雨を降らせ、悪魔も避ける。

 幾つか被弾した所をリーベルが駆けるが、悪魔も影を使って反撃。

 そこをベルマリアが防壁で防ぎ、光の鎖で悪魔の手足を縛る。

 そのままリーベルが剣を一閃、悪魔も膝を着く。


「くそぉ。この俺が人間なんぞに」


「下級悪魔である以上、こうなるのは当然。それと私達、人間じゃないわよ」


 リーベルがそう言うと、身体が黒い霧に包まれる。

 そして霧が晴れると、そこに妖艶な身体をボンテージに包んだ、ピンクのロングヘアーのサキュバスが現れた。


「っ!?まさかお前ら、高度な擬態魔法が使える魔族!?何で俺の邪魔をする!?人間に味方する理由は何だ!?」


「何って、あんたが折角の人間と魔族の歩み寄りに水を差そうとするからでしょ?」


「俺達魔族は本来、この世界の頂点に立つ存在だ!だと言うのに、大半の魔族も今の魔王様も人間と仲良しごっこする始末。だから俺が魔族のプライドを取り戻そうと…!」


「あのねぇ、そう言うのは500年前の話で、もう終わってる事でしょ?今の私達は過去の話を何時までも引きずり続ける気は無いの。私達は、今のこの平和を満喫出来ればそれで構わない。だから今の魔王様も和平協定を守る為に尽力してくれている。それを脅かすなら、私達穏健派は許さない」


 そう言ってリリンは結晶を投げつけ、転移魔法陣を出す。


「後の事は魔族の法廷の仕事よ」


 そして悪魔は姿を消し、魔法陣も消えた。

 その陰にはエミリアの姿があった。


「…何だ。ちゃんと共存を考えてくれている魔族もいるのね。妙な魔力を感じて来たけど、心配無かったみたいね」




 翌朝、宿屋

 リーベルとジーロンの部屋


「ん、朝か…」


 リーベルが起きると、隣の茶色の毛並みのはねっ毛のケットシーの少女を起こす。


「ジーナ、朝よ。起きなさい」


「んにゃぁ、もう朝にゃ?」


「後、寝る時も擬態を解かない様に言ってるでしょ?」


「そんな事言ったって、あの姿はデカくて重いから寝苦しいんだにゃ!」


「それくらい我慢しなさいよ」


 ミニーとベルマリアの部屋


「ふぁ~、よく寝た~」


 ベルマリアも起きるが、隣のミニーから香る酒の匂いに顔を歪める。


「うっ!ミルド!テメエ起きろ!」


 そしてベルマリアはミニーをベッドから蹴落として叩き起こす。


「いって!何すんだ、ベーガー!」


「お前、また酒飲んで酔い潰れてたな!酒臭くて敵わねぇんだよ!」


「別にいいだろ!仕事が終わった後の酒だったんだから!」


「そうやって一々酒の匂いを漂わせたら、俺だって溜まったもんじゃねぇよ!」


「お前だって夜中に女侍らせてる癖に!」


 そこにリーベルが入って来て2人に拳骨。

 そしてそのまま正座させた。


「他の利用客の迷惑を考えなさいよ!みっともない!」


『はい。こちらも大人気無かったです』




 冒険者ギルド受付

「やって欲しい仕事?」


「はい。実は今度学園で行われる行事に参加する予定だったパーティーが、直前で行われていた依頼で怪我をしてしまい、キャンセルになってしまったんです。代わりに参加してくれるパーティーが中々見つからず、それで申し訳ないのですが、手伝って頂けないかと」


「仕方ないですね。分かりました、引き受けましょう」


「ありがとうございます。報酬も弾んでおきますね」


「森を駆け回…うぉっほん!仕方ないな、これは」


「折角百合…コホン。えぇ、神に仕える者として、困ってる人々を助けなくては」


「それで、やって欲しい仕事とは?」


「はい。アルテミシア学園1年生の3日間に渡る、野外訓練のオリエンテーリングです」

彼らの話はまだまだ続きます。

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