第47話
スバル関連の話です。
11月下旬、アルテミシア学園、1年1組教室
今日も朝から生徒達も元気で過ごしており、ソーマ達も教室に入って来た。
「おはようさ~ん!…って、あれ?スバルは?」
「おはよう。スバルなら今日、教会からの呼び出しで欠席よ」
「何の用で呼ばれたんだよ?」
「それが教会上げての会議と集会だって」
「やっぱり教会の方でも、そう言うのがあるんだな」
「何でも集会の方は、教会の人間の間で有名な聖女がやって来るって」
「へぇー、どんな人なんだろう?」
「聖女と呼ばれるくらいだから、清らかな心を持った人だとは思うけど…」
「こっちも何か気になって来たな…」
「お前ら、席に着け。HRを始めるぞ」
マシューがやって来た事で、こちらもHRが開始された。
アルテミシア王国、中央教会
此処では現在、国内の僧侶やシスター達が集まり、今後の運営に関する会議が行われていた。
そして話もある程度纏まって来た為、間も無く終了となる。
「以上をもちまして、今回の会議は終了となります。皆様、ご協力ありがとうございました」
「やっと終わった~」
「これで今後の教会運営は大丈夫だろう」
「スバルもありがとうね、態々来て貰って」
「いえいえ、私も此処のシスターですから」
「あ~、そうそう。お昼休憩の後に行われる集会、興味ある方は是非いらしてくださいね」
「あのラフィニア様の特別講座か~!行ってみたいな~!」
「そう言えばラフィニア様ってどんな人?」
「えっと確か、被災地の支援活動を行ったり、恵まれない子供達の救済活動をしてたり、あらゆる医療機関にも資金や医療設備の提供を行っている、正に宗教活動家の鑑とも呼べる女性って話よ」
「へぇー、そんな人なら、会ってみたいかな」
「なら、折角だし、特別講座に顔出してみる?」
「そうしようか」
そして、昼食を取ってからの大広間、そこに金髪ストレートロングとはち切れんばかりの爆乳に、白のドレス風の修道服に身を包んだ、柔らかい笑みを浮かべる美女が入って来る。
「皆さん、こんにちは。私はラフィニア、世間では聖女の1人として知られている者です。本日は私の特別講座にお集まりいただき、ありがとうございます」
「ラフィニア様、今回の特別講座のお話、引き受けてくれてありがとうございます」
「いえいえ、私も丁度、時間があればこちらの教会に伺いたいと思っていたので、私としても都合が良かったです」
「では、本日の講座の方、お願いします」
「はい。それでは早速、講座を始めたいと思います。今回のお題は、人の在り方についてです。皆さん、人は皆、生まれながらにその身に宿る物が決められ、環境によってその生き方が定められ、それにより、道を決める者と諦める者がそれぞれ現れる様になってしまいます。そして、容姿により讃えられる者と蔑まれる者と分かれる場合もあります。頭脳や才能によって、出来る者と出来ない者の差が広がり、環境によって人の心の形が作られ、前へ進む意志や覚悟が出来る者と出来ない者が生まれます。今回の議題の意図は、例えどんな人間であろうと、意志の強さが確かなら、望む未来を掴む為のチャンスが生まれ、我々もその手助けを行うべきだと言う事です。皆さんの方でも、望む未来を諦めなくて良いと周りに語りかける事を心掛けておいて下さい」
講座が終わり、皆が部屋を出ていく中、ラフィニアがスバルに声を掛ける。
「あの、スバルさん」
「ラフィニア様?どうしましたか?」
「貴方の事、エミリア王女専属のシスターとして、彼女のパーティーで活躍している話を聞いて、私も参考の為に話を聞いておきたいと思っていたんです。構いませんか?」
「えぇ、私も丁度、貴方と話をしてみたいなと思ってましたので、構いませんよ」
そして2人は大聖堂へ向かい、椅子に腰を掛ける。
「それでは先ず、貴方とエミリア王女の関係からお願いします」
「はい。私も最初は、ある目的の為に彼女に近付いたんですが、私の本心を知ってからも彼女、それを許してくれて、「故郷の皆の分まで本物の聖職者を目指していこう」って言って、パーティーに受け入れてくれたんです。自分の在り方を正し、許してくれた彼女には、本当に感謝してるんです」
「そうなんですか。エミリア王女も、寛大な心の持ち主ですね」
「えぇ、彼女には感謝してるんです。お陰でこうして、聖職者としての道を見定めながら、日々強くなって進んでいく事が出来るのですから」
「どうやら彼女との出会いは、貴方にとっても転機になっている様で」
「そう言うラフィニア様は、どうして聖職者になろうと思ったんですか?」
「私はですね、この手で救える人がいるなら救いたいと思ったからですよ。先程の講座で申し上げた通り、あらゆる要素であらゆる人生を決められている者達がいる。あらゆる理不尽な環境からも先を示して、夢や希望を持てる様にしたい。あらゆる才能や能力に左右される事無く、望む活躍が出来る様にしたい。そう言った理由から、全ての人に救済をもたらす人間になる為に、聖職者を目指し、そしてあらゆる活躍を見せた事で、遂に聖女と呼ばれる様になりました」
「素晴らしい志だと思いますよ、ラフィニア様」
「貴方の故郷の様な事情からも、私は救いたいと思ってたのですよ」
「っ!?…知ってたんですか?」
「えぇ、貴方の村の教会に推薦の話を持ち掛けたのは私です。貴方があの事件の事で、今も心を痛めてないか気掛かりだったのですが、如何やら心配無さそうですね」
「アハハ。その件なら、私ももう立ち直りましたから、安心して下さい」
こうして2人は、しばらく和気あいあいと語り合った。
夕方、アルテミシア学園、中庭
スバルはエミリア達との待ち合わせの為にやって来た。
「お待たせ」
「スバル、教会の方、お疲れ様。ノート、ちゃんと取っておいたわよ」
「で、どうだった、聖女様の方は?」
「ラフィニア様も本当にいい人だったよ。色んな人達の未来を真剣に考えてくれていて、私の故郷の件も、ちゃんと心配してくれてたんだよ」
「そうなんだ~。そんな人がいるなら、皆安心して暮らせそうだね」
「その話は一旦置いといて、ノートの中身のチェックをしようか。授業の内容確認しておきたいし」
「あ、ごめんごめん。それじゃあ、分かんない事があったら私達に聞いて」
「そうだね。それじゃあ、先ずは…」
と、エミリア達はスバルに今回の授業の内容に関する勉強会を開くのだった。
アルテミシア王国、中央教会、釣鐘の塔
そこに鎮座している大鐘の下にラフィニアがやって来る。
「お勤めご苦労様です、ラフィニア」
と、鐘の影に隠れているジルティナが声を掛ける。
「全く、教会の中でも呼び出しをするだなんて、誰かに見られたらどうするの?」
「貴方も私もそんなヘマはしない事くらい、貴方も分かっているでしょう?」
「確かにその通りね」
「で、スバル・フェニアの方ですが、貴方の見立てはどうでしたか?」
「そうねぇ~。うちの実験体としても、確かに上々な出来栄えになっていたし、聖職者としても先ず先ずと言った所ね。あの時、研究所が壊滅するなんてヘマが無ければ、私の助手としても使えたかもしれないのに」
「それはどうでしょう?うちの教育についても、彼女がついて行けたかどうか」
「あの子は今でもシスターとしても冒険者としても上手くやってるみたいだし、見込みは確かよ。私もあの研究所での仕事の最中に、あの姉弟に目を付けただけはあったわ。所でジルティナ、貴方こそ何の用で呼んだの?」
「えぇ、実は今後行われる潜入任務の為に、貴方の方でも世間から得ている信用を利用して、出来るだけ多くの情報を仕入れて来て欲しいのです」
「あらそうなの?仕事ならちゃんとやるけど、あまり期待しないでね」
「いえいえ、私は頼りにしていますよ。双性者諜報員が1人、ラフィニアの手腕は」
「そう。なら張り切っちゃおうかしら」
そう言ってラフィニアは教会の中に戻り、ジルティナも闇の中に消えた。
人には表と裏がある。
それは聖女と謳われているラフィニアも例外では無かった。
聖職者の光と影。




