第40話
融合に関する話から。
アルテミシア学園、中庭
双性者の話で気になる事が出来たエミリアは、ハルトマリーとレオニーにある事を尋ねる。
「アタシの簒奪者の手と融合の違い?」
「えぇ。今回の双性者の件で、明確な違いが気になって」
「えーと、融合については、まず専用の術式を構築して魔法陣を展開、そして魔法陣の中にいる者同士を混ぜ合わせて、1人の人間の形に構築し直すと言った感じだわ」
「アタシの簒奪者の手は、能力を発動させた状態で、取り込みたい対象に触れる。そしたらオーラが飲み込んで、アタシの中で力として吸収される。融合との違いは、肉体の状態が維持されていれば、死体でも構わない事だな」
「それじゃあ、その2つの完了した後の違いについては?」
「そうだなぁ。簒奪者の手で取り込んだ要素は、体内に残しておく必要が無いと判断したら、必要な要素だけを残して、それ以外は体の中から消す事が出来るぞ。必要なものだけ奪って、それ以外は捨てる。正に、裏の人間の思考らしい能力だ」
「確かに融合と違うわ。姿形だけじゃなくて、記憶も力も人格も全て、一纏めに混ぜ合わされて、全部を統合させた上に、人格も多重人格になったり、メインの人格に取り込まれたりするから。複数の人間の何もかもを粘土細工みたいにくっつけて作り直すのが融合の特徴だから」
「成程。つまり"天の笛"は、その人達の優れた部分を掛け合わせて混ぜる事で、1人で多くの成果を上げる事が出来る優秀な兵士の軍隊を作りたかったって事ね」
「だろうな。アタシの簒奪者の手は元々転移者特典で、アタシの中の黒い衝動から生まれた固有能力な上に、術式さえ知っていれば誰でも使える融合の方が効率が良い」
「こちらでも、お兄様達とも相談しつつ、対策を練っておきましょう」
そう言ってエミリア達は、校舎の中へ戻るのだった。
夜、女子寮、エミリアの部屋
エミリアは現在、アルベルトと通信をしていた。
<了解した。こちらでも"天の笛"の警戒を行っておく>
「ありがとうございます、アルベルトお兄様」
<しっかし、こちらも指南役の確保が間に合って良かったよ>
「指南役?」
<あぁ。何でも王宮騎士団2番隊隊長の推薦で、田舎の実家の道場で剣術を教える毎日を過ごしていた所を、王宮騎士団の剣術指南役として抜擢される事になったんだ。最初は彼に不信感を抱いていた者もいたが、木剣を用いた試合で負かした事で、その態度を改めさせる事に成功したんだ。彼は40代ながら剣の基礎が完璧に仕上がっていて、既に剣聖と呼べるレベルであり、推薦も頷ける。しかもかなりの人格者で、女性人気も高い。確かに、田舎でくすぶらせるには勿体無い逸材だ。…っと、まぁ兎も角、これなら"天の笛"が動き出した際、王宮騎士団も対処が可能になるだろう。と言う訳だから、こちらの事は気にするな。おやすみ、エミリア>
「おやすみなさい、お兄様」
と、エミリアは通信を切った。
「あの第1王子も、ちゃんと動いてくれてるみたいね」
「お兄様だって、政務だけでなく、戦力の方でもキチンと対応してくれてるから、お父様だって安心して任せられるし、城や民達からの信頼も確かなのよ」
「それじゃあ、城の方はアルベルトに任せて、私達の方でも好きに動いておきましょう」
「そうね。私達の方でも色々動いておきましょう」
そして夜も更けてきた為、エミリアとフィーナもベッドに入るのだった。
翌日、1年1組教室
エミリアは、昨夜の通話内容をカイト達にも話していた。
「あぁ、その指南役の人、アルフォード兄さんも話してたよ。2番隊隊長が推薦するのも頷けるって」
「やっぱりアルフォードお兄様も、その人の事知ってたんだ」
「それで兄さんもその人と軽く話してみたけど、弟子からの誘いついでに王都で嫁見つけるまで帰って来るなって、実家を追い出されたみたいだけど、兄さんもその人の両親にコッソリ話を聞いてみたら、息子さんは田舎にずっと留まらせて良い人間じゃない、ちゃんと世界を見てきて欲しくて巣立ちを促したって話だって。あぁ、この事、本人に知られない様にって話だから気を付けてね」
「分かったわ」
「王宮お控えの剣術指南役かぁ。何か会ってみたくなっちゃったなぁ」
「何なら頼んでみりゃ良いじゃねえか。あの王子達だって軽くOK出してくれるだろ?」
「うーん、今はまだ良いかな。本人の都合ってのもあるし」
「ほらほら、お前ら席に着け」
と、マシューが来た為、HRに入る事になった。
商店街
アラタは現在、昼食の為に飲食店を探している所だった。
「さて、何処かで軽く食事にするか。…ん?」
と、アラタは目の前の白髪混じりの茶髪の40代の男性に気付き、声を掛ける。
「あの!」
「ん?お前さんは?」
「やっぱり!貴方、ベイル・ヘンブリー先生ですね!俺です、アラタ・ホシミヤです!」
「…あぁ!お前、あのアラタ!?久しぶりだな!」
こうして2人は、酒場で昼食を共にする。
「しっかしお前さん、Sランク冒険者としてかなり難しい仕事する事になるだなんて、流石は勇者の血族!星空の勇者の二つ名を持つだなんて、大したもんだよ!」
「それについては、あの時先生の家で剣を見て貰ったお陰でもありますよ!そう言う先生こそ、どうして王都に?」
「あぁいや、実は王宮騎士団2番隊隊長をやってる元生徒に、王宮で剣術指南役をやって欲しいって頼まれてな」
「成程。確かに先生の剣は、基本に忠実で毎日の稽古も欠かさない。それ故に、その剣術も力強く洗練されている。そんな先生なら、王宮騎士団からの推薦を貰えてもおかしくありません」
「いや、こっちも本当困ってんだよ。それで親からももういい歳なんだから、ついでに嫁も探してこい、見つけるまで帰ってくんなって、半ば追い出されたんだから」
(あの2人の事だ。恐らく先生をこのまま田舎に留まらせたく無かったんだろう)
「こっちはもうこんなおっさんになっちまったんだから、嫁なんて見つかるかどうか…。…って、お前さんに言っても仕方ねえか。お前さん、女に興味なさそうだし」
「失礼ですね。俺だって女性に興味くらい持ちますって!」
「いやぁ、悪い悪い。って事は最低でも一緒に飯食うとか出来てるって事か?」
「まぁ、その、お互い一応好きって言い合いました」
「マジか!?相手は一体誰なんだよ?」
「…アルテミシア王国第1王女、エミリア・フォン・アルテミシア」
その言葉に、ベイルも飲んでた酒を盛大に吹いた。
「はぁ!?一体何をどうしたら、この国のお姫様とそんな関係になるんだよ!?」
「最初はただの友達感覚でしたよ。でも、一緒に過ごしていく内に、そうなって」
「まぁ、確かに勇者と姫なら別に悪くねぇか。見たところ、お前さんも色恋に現を抜かす事なく真面目に仕事してるみたいだし、恐らく王女様もそうなんだろ?俺も他人の色恋に口を出す気はないし、まぁ何だ、その、頑張れよ」
「はい。頑張ります」
そう言って2人は食事を進めるのだった。
こうして、食事を済ませた2人は別れる事にした。
「じゃあ、俺はこれで失礼しとくわ」
「えぇ、今日は話せて良かったです、先生」
そしてベイルの姿が消えた所で、水晶に通信が入る。
「はい、もしもし」
<もしもしアラタ?エミリアだけど、例の組織の件で話したい事があるの>
「分かった。直接話したいから、待ち合わせをしよう」
<それじゃあ、放課後に学校に来て。今の私、生徒会だから、新会長に頼んで密会用の部屋を用意して貰うわ>
「了解。また後で」
<うん。じゃあね>
そう言って通信が切れた所で、アラタは水晶をしまい、その場を動く。
「その通りですよ、先生。俺もエミリアも、ちゃんと真面目に仕事してます。俺もアイツの理想の為に、この剣を振るい続けます」
こうしてアラタも気を引き締めて、更に励む事になった。
アラタにも師匠はいます。




