第3話
今回は実家の兄弟です。
夜、女子寮エミリアの部屋
部屋に入って鍵を掛けたエミリアは仮面を取った。
「ふぅ。こう言う誰も居ない空間なら、気兼ねなく素顔に戻れる。ユフィの時もあるから、事前に探知魔法と気配察知も使ってるから大丈夫だ」
そしてスレイは、ユニットバスでシャワーを浴びて湯船に浸かる。
「首の継ぎ目も元々無いかの様に綺麗に存在しない。そして我ながら、何て巨乳だ。自分でも恥ずかしい」
その後、スレイはネグリジェに着換え、ベットに横たわった。
「…うん。今のお姫様生活、あの家の時よりずっと楽しい。俺は今、本当に満足だ」
翌日、1年1組の教室
エミリアの席の周りに多くの生徒が集まっていた。
「エミリア様、昨日の剣術凄かったです!」
「もしかして、お城でも剣を習ってたんですか?」
「えぇ、魔法と一緒に嗜んでたの」
「凄いです!今度私にも教えて下さい!」
「えぇ、考えとくわ」
そこにカイトが声を掛けてくる。
「エミリア様、改めまして、僕はカイト・ワーグナー。かの剣術の名家、ワーグナー家の三男です」
「改めまして。貴方の家の事は、ちゃんと聞いてるわ」
「失礼ですが、昨日のエミリア様、剣を振るってる姿が失踪した僕の下の兄と重なって見えました。もしかして、兄が姿を消す前にエミリア様に剣を教えていたとか?」
「…気のせいじゃないかしら?私の剣技はアルベルトお兄様に教えて頂いたものよ」
「そうですか…。では、これにて失礼します」
そう言ってカイトはエミリアの元を離れていった。
午前、校外学習
「本日は数ある武器の中で、最も基本である剣の授業を行う。その為に、名家の長男にして、軍の名剣士、アルフォード・ワーグナー隊長に来て貰った」
ケビンの声で、20歳の黒髪の男性が生徒達の前に立つ。
「初めまして、俺はアルフォード・ワーグナー。知っての通り、剣の名家ワーグナー家の長男にして、アルテミシア王国軍1番隊隊長。今後、我が国から排出される可能性のある者がいないか、剣を見ながらの見定めに来た。君達の腕、俺にも見定めさせてくれ。」
そして木剣を持った生徒達が素振りを始めた処で…。
「エミリア様。貴方の剣の腕、弟から聞きました。良ければ、向こうで手合わせ願いたいのですが…」
「えぇ、構いません。では、あちらに」
そう言って2人は移動を始め、カイトもその後を追う。
そして森林の中に入り、2人は木剣を構える。
「遠慮はいりません。全力で来て下さい」
「では、こちらから!」
そう言ってエミリアは踏み込んで剣を振り下ろし、アルフォードも受ける。
それをアルフォードは弾き飛ばして、斜めに振り下ろすが、エミリアは踏ん張ってしゃがんで躱す。
エミリアも距離を詰め、剣を振り上げるが、アルフォードは身を横にずらして躱す。
そして数回振った後に突きを放ち、アルフォードも身体を回転させて背後を取り、剣を振り下ろす。
そこをエミリアは身体を半回転させて背後を取り、柄でアルフォードの腹を殴り、そのまま一閃。
そのまま距離を詰めて剣を振り下ろすが、アルフォードは剣を弾き飛ばし、そのままエミリアの喉に剣を突き立てる。
「…流石軍の1番隊隊長。私もまだまだです」
「これでも軍の人間を預かっている身。責任に応えられる様になければならないからな、スレイ」
「っ!?…な、何の話ですか?私はこの国の王女エミリア・フォン・アルテミシア。何を根拠にいなくなってる弟の名前を…?」
「誤魔化そうとしても無駄だ。俺がどれだけスレイの剣を見て来たと思っている。剣の構え方から所作に至るまで、明らかにスレイのものだ」
そこにカイトが近づいて「やっぱりか」と声を掛ける。
「エミリア様の剣を見た時、何故かスレイ兄さんと重なって見えたと思ったら、やっぱりそうだったんだね。だからアルフォード兄さんに頼んで疑問を確信に変えて貰ったんだよ」
「この目で見るまでは半信半疑だった。それにスレイの失踪の時期と、エミリア様が剣を習い始めた時期もほぼ同じ。今のエミリア様の正体がスレイなら話が早い。…スレイ、こうして我々にバレた以上、ちゃんと話してくれるな?」
エミリアも観念した様に、仮面を外した。
「…久しぶり、アルフォード兄さん、カイト」
そしてスレイは、2人にシェーラとの契約の経緯を話した。
「そうか。それでスレイは…」
「勝手にいなくなってごめん。でも仕方ない事だったんだ。あの時、本物のエミリアは何者かに殺されていた。シェーラも何者かの陰謀だと言っていた。下手してたら国は大混乱になっていたかもしれなかったんだ。その場の勢いとは言え、家に何も言わずに去ったのは悪かったとは思ってる。でも…」
「それでも!」
「っ!?」
「それでも、俺達にはちゃんと相談して欲しかった。そりゃ親父もあんなだからそうなっても仕方ない。でも俺とカイトはちゃんとお前の事を見ていた。だから愚痴に付き合うくらいなら問題無かった。けど、何も言わずに去っていったのは悔しかった。たった3人の兄弟なのに…」
その言葉を聞いて、スレイはアルフォードを抱きしめた。
「…ごめん兄さん。兄さんは今でも俺の事心配していたのに、ちゃんと見向きもしなかった。そりゃ俺だって2人の事はずっと考えてた。けど、これは俺が自分で決めた事だし、今の生活も満足している。これは俺の、噓偽り無い本音だ。今までありがとう。これからも、俺達は兄弟で良いよな?」
「…あぁ、勿論だ」
そしてスレイはカイトの頭を撫でる。
「カイト、お前もありがとう。これからも、俺の弟でいてくれるか?」
「勿論だよ、スレイ兄さん」
「この事を他に知ってるのは?」
「城ではアルベルト兄さんとユフィの2人だけだ」
「あのお二方も知ってるのか」
「後、学校では現在ラウディー生徒会長だけ。あの人も契約者なんだよ」
「…あぁ、アイツか。何で男なのにあんな女にしか見えない見た目なんだと思ったらそう言う事だったのか」
「あ、兄さんもここの生徒だったから知ってるんだっけ?」
「それにしてもスレイ、素顔に戻っても動き方1つ1つ、お姫様のままなんだな。」
「確かに。スレイ兄さん、素顔でも女の体でも違和感無いくらい似合ってる。お姫様は天職だったんじゃないの?」
「2人共、俺を揶揄わないでくれよ!」
そうして3人の笑い声が森林に響くのだった。
その陰で3人の様子を伺う者がいた。
「フフフ、スレイさんとは、あの人の関係者同士仲良くなりたいな」
そして実習終了時間
「では本日の授業はここまで!」
『ありがとうございました!』
そして生徒達が各々解散する中、エミリアはアルフォードに声を掛ける。
「アルフォード隊長、宜しければ弟君と一緒に昼食でも如何ですか?」
「あぁ、丁度近くの飯屋で食べようと思ってたし、構いませんよ」
そして庭のテラスで3人は食事にする。
「アルフォードお兄様、このサンドイッチどうですか?」
「うん。美味い」
「それにしても姉さん、料理出来たんだ。食事も様になってるし、作法の勉強も頑張ったんだね」
「今の私はこの国の王女ですから。料理については、城の厨房に頼んで勉強させて貰ってるし、家事も一通り出来るわよ。それとアルフォードお兄様、私の事はワーグナー家には…」
「分かってる。親父にはちゃんと黙ってる」
「まさかスレイ兄さんが姉さんになって、しかもお姫様になってるなんて驚いたよ」
「あら。だったらお姉さんらしく、この胸で甘えさせてあげましょうか?」
「やめてよ姉さん!僕もうそんな歳じゃないんだよ!」
「フフッ、さっきのお返し」
「…そうだな。では改めて、このアルフォード・ワーグナー、この国の軍人として、兄として、生涯エミリア様を守り抜くと誓いましょう」
「えぇ、これからもよろしくお願いします。アルフォードお兄様」
「エミリア姉さん、僕も弟としてちゃんと力になるから、何時でも言ってね」
「これからもよろしくね、カイト」
その時、エミリアのポケットから音が鳴り、彼女も入れてたケースを取り出して、中の水晶を出す。
この世界の通信用水晶は、大型の設置型、小型の携帯型が存在する。
要するに、現実世界の固定電話と携帯電話の魔法の水晶版である。
「はい、もしもし。…ギルドマスター?」
「エミリア様、実はご相談に乗って欲しい事があるのですが…」
次は冒険者となります。




