第35話
文化祭前日談。
アルテミシア学園、生徒会室
エミリアは文化祭の出し物の準備に関する書類の提出に来ていた。
「はい。書類、確かに受理しました」
「君のクラスは『執事&メイドカフェ』か。君は接客と厨房、どっちに入るんだい?」
「一応厨房です。私も接客に入ろうかと思いましたけど、周りに止められてしまって…」
「そうか。一応、生徒会でも見回りのついでに顔を出すつもりだ」
「そう言えば生徒会は学園の見回りだけですか?」
「いや、一応、生徒会でも教師陣と連携して、聖堂のイベントの設営、そして生徒会主催の特別イベントをやるつもりだ」
「それだけでなく、こちらも各クラスや研究会、クラブ等の企画の審査や予算の見積もり等、学園全体の進行も管理しておく必要があるのよ。だから生徒会も毎年忙しくて」
「そう言う訳だから、君もクラスでの仕事をしっかりやっておいてくれ」
「はい。失礼します」
そう言ってエミリアは生徒会室を出て、学園内の準備に励む者達の姿を見る。
アルテミシア学園は現在、あらゆる場所で文化祭の準備が始まっていたのだった。
「皆も文化祭を楽しみにしてるのね。準備する姿勢からちゃんと伝わるわ」
「前々から思ってたけど、人間って、お祭り騒ぎ好きよね」
と、フィーナがエミリアの胸元から顔を出して言う。
「皆こう言う楽しく過ごせる時間が好きなのよ。普段から抑圧されている分、笑って騒げる機会を欲しがるものなの」
「そう言うものかしらね~」
「そう言う訳だから、私も文化祭を楽しく過ごせる様にしないと。フィーナ、貴方も羽目外し過ぎて、あちこち飛び回っちゃ駄目よ」
「分かってるわよ。私をそこら辺の虫と一緒にしないでくれる?」
と、フィーナはエミリアの胸の中に戻り、エミリアも歩き始める。
「ピアーちゃん、機嫌直してママに甘えて来て頂戴」
「やかましいわ!アタシはアンタのその態度が嫌だって言ってんでしょうが!」
と、そこに機嫌の悪いピアーと、平謝りしているマミが来る。
「ピアーさんに学園長?どうしましたか?」
「あっ、エミリアちゃん聞いて。さっき私がピアーちゃんに抱き着こうとしたら殴られちゃって。私もこうして謝ってるんだけど、この子中々機嫌直してくれなくて」
「当たり前でしょうが!赤面の笑みで涎垂らして舌べろべろさせながら、全力疾走で迫ってくれば、アタシじゃなくても全力で逃げ出すわ!」
「うわぁ…」
「そう言う訳だから、アタシもう自分の教室に戻る!」
「あっ、待ってピアーちゃん!」
と、2人は走ってその場を去った。
「…さて、私も自分のクラスに戻らないと」
1年1組教室
このクラスも現在、メニューの案及び接客担当の衣装の採寸が行なわれていた。
「ただいまー。こっちも書類を出して来たわ」
「あっ、エミリア、お帰り~」
「姉…エミリア様、メニューの方のチェックお願い。ちゃんと材料費や適正価格が合ってるか見て」
「はいは~い」
「サーシャ様、やはり私も執事をやらなくてはならないのですか?」
「貴方が駄々をこねるから、その妥協案として提案した筈でしょう?」
「ミュリナ、お前のメイド姿、似合ってるぜ!」
「そう?一応、褒め言葉として受け取っておくわ」
「やっぱりサーシャ王女が接客する以上、私もそっちやった方が…」
「エミリア様はあくまで最終手段として控えていて下さい!」
「厨房の主任を任せられるのは、現在エミリア様だけです!」
「そうです!全体の様子を伺った上で、エミリア様に手伝って貰います!」
「なら、一応そうしておくわ」
その片隅で、カイト達もひそひそ話をしていた。
「やっぱり皆、エミリアに接客やらせるのは気が引けちゃうみたい」
「アイツ、見るからにメイド稼業もそつなくこなせそうだもんな」
「しかも、相当の美少女だから、仕上がりも最高点に達しているし…」
「他の人達が萎縮しない様、配慮しておかないといけないからね」
それから1週間、どこもかしこも準備に追われ、機材や設備のチェックに加え、各担当の教師の下、文化祭の準備が入念に行なわれていた。
そして1年1組の方でも、現在担当の衣装チェックが行なわれていた。
「執事服、結構様になってる~!」
「メイド姿の方も可愛い~!」
「作業用の服良し、機材の手配良し、材料の手配良し、店の内装良し!これで準備OK!」
と、エミリアも店に使う事になった部屋で、最終チェックを行っていた。
「一応、私の方でも自前でメイド服作っといたけど…」
「エミリア様は本当に最終手段でお願いします!」
「ですので、厨房の方に専念しておいて下さい!」
「やっぱり…?」
(姉さん、本当にそこら辺自覚してよ…)
「よ~し、皆準備は良いみたいだな?」
と、職員会議を終えたマシューが部屋に入って来る。
「皆、カフェの準備ご苦労さん。こっちの方でも、教師達の間での話し合いも済んだ。皆も、文化祭大いに働き、そして遊び倒せる様になれ」
『はい!』
「それじゃあ、明日からの文化祭に備えて、今日はもうしっかり休めよ!」
女子寮、エミリアの部屋
お風呂から上がったエミリアは、ハーブティーを飲んで落ち着いていた。
「エミリア~、そっちの調子はどう?」
「バッチリよ。万全の体制で仕事に励めるわ」
「仕事も良いけど、遊ぶのも大切にね。アラタだって来るし」
「フィーナってば、私だって別にカップルイベントに興じるつもりは無いってば」
「どうだか。臨海学校の時に好感度が上がった事で、素顔でも女言葉のまま固定される事になったし、今回もまた好感度上がって、同化を進めちゃう事になり兼ねないわね」
「だからそれ言わないでったら!気にしてるのに!」
「まぁ冗談はこれくらいにして、そろそろ寝たら?」
「って、あぁそうね。それじゃあ、もう寝ましょうか」
と、エミリアは歯磨き、洗顔、ヘアケア等を済ませ、ベッドに入る。
「お休み、フィーナ」
「えぇ、お休み」
と、フィーナは人形用ベッドに潜り、エミリアも仮面を外して眠りにつくのだった。
文化祭1日目、朝
生徒会より、開催前の挨拶が行なわれていた。
「皆、今日から待ちに待った文化祭だ。この日は学園内の生徒に教師、国内の人間だけでなく、外国の人間もまたやって来る。それ故に我々一同も、騒ぎの取り締まりにも注力しなければならない。そして、全校生徒と教師、そしてお客様達に安心して楽しく過ごして貰える様、我々も一丸となって、この2日間を乗り切ろう!」
その号令と共に、生徒や教師達も自分達の持ち場へと向かって行く。
そして1年1組『執事&メイドカフェ』にて、開幕の挨拶が行われる。
「皆!今日までの準備、本当によくやってくれたわ!けど、ここからが本番よ!スタッフ一同、お客様に満足して貰える様、自分達の仕事をこなし、お客様にもマナーやコンプライアンスを守って頂き、店の売上も確保!そして、オフの時くらいは楽しく遊べる様、文化祭を盛り上げていきましょう!」
『はい、エミリア様!』
「1年1組、文化祭1日目の開幕よ!」
こうして、1年1組もまた、文化祭を盛り上げる為に動き出す。
アルテミシア学園文化祭、生徒も教師も楽しみ、楽しませる為に一丸となって始動されるのだった。
いよいよ文化祭開幕。




