第2話
学園生活の始まりです。
王立アルテミシア学園女子寮、エミリアの部屋
「エミリア様、荷物の手配と配置完了しました」
「ご苦労様。もう下がっていいわ」
そう言ってエミリアは作業員を下がらせ、人の気配が無くなったのを確認して仮面を取った。
「明日から俺もこの学園の生徒か。頑張んないとな」
翌日、王立アルテミシア学園聖堂
そこでは、本日迎える新入生達と、学園長を初めとする多くの職員、そして生徒会長が集まっていた。
「本日、我が学園は、新しく迎え入れる生徒達を歓迎致します。新入生諸君、これからこの学園で勉学に励んで下さい」
壮年の男性の学園長がそう言って下がると、エミリアが壇上に上がってきた。
「皆さん、私はこの王国の第1王女エミリア・フォン・アルテミシアです。私も本日より、この学園の生徒として入学する事になりました。王女だからって遠慮する事はありません。私もこの学園の生徒ですから、周りの生徒と同じ様に接して下さい。私も広い視点で皆さんを見ていますので」
そう言ってエミリアは壇上を降りて自分の席へ戻っていく。
「続きまして、生徒会長の挨拶です」
そのアナウンスと共に、壇上に栗色のロングヘアーをカチューシャで纏めた女性が上がる。
「初めまして新入生の皆さん、生徒会長のラウディー・ビーネットです。因みに言っときますけど、私は男です」
『っ!?』
「ハハハ。まぁ私が好きでこの様な格好をしているのもあるが、それでも学校中の信用を勝ち取り、こうして生徒会長になった。だから君達だって、自らを恥じる事無く努力していけば結果を手に出来る。自分自身に自信を持てば、周囲も認めるし、君達も安泰だ」
そう言ってラウディーは自分の席に戻っていった。
「以上を持ちまして、入学式を終了致します」
生徒達はそれぞれ割り当てられた教室へ移動する。
エミリアは1年1組の教室で、生徒達に囲まれていた。
「エミリア様、同じクラスに慣れて光栄です」
「俺もエミリア様と共に精進します」
「ありがとう皆」
そんなエミリア様の元に歩み寄る人物がいた。
「エミリア様」
「…生徒会長?」
「今から生徒会室に来てくれるかい?是非王女様と顔合わせがしたくてね」
そして連れてこられた生徒会室。
「そこのソファーに掛けて。お茶も出すよ」
「失礼します」
そう言ってエミリアはソファーに座り、ラウディーも少ししてティーセットをテーブルに置いてソファーに座る。
「会長、私と何の話がしたいのですか?」
「さて、周囲に人がいない内に大事に話をしようか、スレイ君」
「っ!?」
「驚かなくて良い。実は俺も、彼女との契約者でね。君の事も彼女から聞いていたんだ。だから同じ契約者同士、気兼ねなく話そう」
この言葉を聞いてエミリアも仮面を外す。
スレイがシェーラとの契約から今に至るまでの経緯を話し終えた頃となった。
「成程。君もすっかりお姫様生活を満喫しているみたいだ。素顔でも座り方もカップの持ち方も完全にお姫様だ」
「揶揄わないで下さいよ。それよりも、やっぱり会長のその見た目も?」
「ああ。あれは8歳の頃だったかな。その時まで俺も普通の男の子だった。しかしある時、思ってしまったんだ。「やっぱりいつ見ても女物の服は羨ましい。僕も堂々とスカートやワンピースを着てみたい」って。そしたら急に現れたシェーラがその願いを聞いて、そして叶えた。男らしく見られる事を捨てる対価として、私から男性ホルモンと余分な骨格等を持っていった。以後、私の身体は男らしくなる事はなく、常に美女の見た目になる様になった」
「成程。でもやっぱり今まで苦労した筈では?」
「いや、そんな事はない。周囲も結構理解を示してくれたから、そんなに苦労はしなかった」
「それはそれは。まぁ見た目が美女でも、その胸とかは…」
「あっ、これは本物だ」
「…は?」
「持ってかれた男性ホルモンの代わりに、女体化ホルモンってのを入れられたんだ。その影響で、内蔵や脂肪、骨格に至るまで浸食され、それにより、アレ以外はスタイルの良い美女の身体になったんだ」
(その見た目で生々しい事を…。)
「まぁそのおかげで堂々と女性服が着れる様になった。それは下着も含まれているよ。今でも女として見られる事に興奮して…」
「わぁーわぁー!何かヤバいのでそこまで!お互い、契約者同士での顔合わせも済ませましたし、ここまでにしましょう」
「はは。すまない。後、当然ながら、君の実家の方の双子の弟も入学しているぞ」
「まぁ、それは分かってる事ですし、別に気にしてませんが、分かりました」
翌日、1限目の時間
灰色のオールバックと口髭の40代男性教師、ハルトマン・ウィジータの魔法学。
「では今回、魔法に関する基礎知識から始める。先ず魔法とは、大気中のマナに呼び掛けたり、体内に宿る魔力を使って、術式を構築し、あらゆる事象を引き起こすものである。それにより、自然の力を引き出したり、身体を強化したり、回復させたりが出来る。中でも、魔法石と呼ばれる魔力を帯びた結晶は、内蔵された魔力を使って、あらゆる物の動力になったり、術式を書き込む事で、魔力回路の中心として使う事が出来る。この魔法石の技術を基盤に、あらゆる魔道具や魔導工学も発展して行く事になった」
「先生、魔法にも起源というものは存在しているのですよね」
「エミリア君の言う通りだ。魔力は本来、誰でも持ってるものだったが、それを扱う技術は元々エルフしか持ってなかった。しかし500年前、エルフの神官が神の啓示を受け、これから来る厄災に備えて、自分達以外にも魔法を教えようとエルフ達は魔法技術を伝えていった。魔法以外の技術も、エルフの影響を受けて伝達されていき、魔導工学を初めとする技術が誕生した訳だ」
「確かそれって、勇者関連の…」
「それについては歴史の授業で取り扱っている。それでは、一般的な魔法の紹介をしておくぞ」
2限目
30代の眼鏡のウェーブロングの女性教師、シトリー・ジレーの生物学。
「では今回は、人々の生活圏外に生息する魔物についてよ。魔物とは、大気中に存在するマナを取り込んだ生物が変異したり、マナの影響で変化した非生物達の総称よ。生活圏内にいる魔物は比較的友好的だけど、生活圏外にいる魔物は、気性が荒い者に、臆病な者、明確な意思もなくただ単に人を襲う者もいるわ。それ故に、冒険者と言った、魔物の生息圏でも活動する者達が現れた訳ね」
そこに緑髪のエルフの少女が手を挙げる。
「アミティー・フォルドニアさん」
「確か魔物には、高い知能を有する者がいて、対話が可能な者もいると言う話でしたよね?それらとの対話についても、何か意識しなくてはいけないんでしょうか?」
「確かに知能を有しているが故に、集落を作ったり、魔法が使える者もいるわ。しかしそう言った魔物にも善悪の分類が確かにある。害を成す気が無いなら、双方の合意の上、交流を行う事が可能だし、害ある存在だったら、人々の生活が脅かされる前に対処しなくてはならない。冒険者の存在についても、そのリスクを認識した上だからね。それじゃあ、質問が無いなら、生活圏内の魔物を紹介するわね」
3限目、校外
40代の筋肉質の男性教師、ケビン・マルトンの実技。
「何時如何なる時でも、最低限の自衛は出来なくてはならない。では順番に、模擬戦を開始してくれ」
そして順当に模擬戦が行われ、各々の技能等が確認されていく。
そして10戦目、赤髪の不良少年バザーグ・スレイトが尻餅をついた少年に木剣を振り下ろすが、それをエミリアが防ぐ。
「邪魔すんな、お姫様!」
「戦意を失った相手に止めを刺す様な真似は、人としての心を捨てる行為であり、憎しみを生みかねないわ」
「上等だ!元々俺はテメエが気に入らなかったんだ!テメエを倒して、俺に跪かせてやる!」
そう言ってバザーグは荒々しく剣を振るが、エミリアはそれを悠々と受け流す。
「どうしたどうした!?逃げる事しか出来ないのか!?所詮は温室育ちのお姫様…!」
バザーグの振り下ろした剣をエミリアは受けると、絡め取る様に剣を手放させ、その隙に連撃を決めて膝を着かせる。
「上手い…。彼女、バザーグの動きを見極め、大振りで隙だらけになった所を狙った」
「勝負あり。それでは、諸々の謝罪を」
「チッ!…分かったよ、俺が悪かった」
その光景に周囲からのエミリアへの歓声が上がる。
その後、バザーグはケビンに厳重注意され、医務室に連れて行かれた。
そんな中、スレイと似た顔立ちの穏やかな顔付きの少年が、エミリアの事を不審な目で見る。
「エミリア様の剣技、何故かスレイ兄さんの姿と重なって見えた。まさか兄さんの失踪に何か関係が…?…丁度明日、アルフォード兄さんが剣の授業の特別講師に来るって話だし、その時に探りを入れるか」
そう言って黒髪の少年、カイト・ワーグナーは明日の予定を視野するのであった。
こうして読み返すと、やっぱり学園ものの要素は苦手に感じます。




