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第26話

冒頭の回想は、これからも流れます。

 アルテミシア城、謁見室

 勇者降臨の日から1ヶ月、遂に勇者の旅立ちの時が訪れた。


「この1ヶ月、兵達の戦闘訓練にもめげずに戦闘を学び、魔導士達のあまねく知識に基づく勉強方法から魔法を学び、そして最後まで心折れる事無く耐え抜き、勇者に相応しくなってくれた。では勇者タケルよ、魔王討伐の旅、心して行くがよい」


「はい!」


 そして勇者装束に身を包んだタケルが部屋を出ようとすると、アンリエットが声を掛ける。


「お待ち下さい、タケル様!」


「アンリエット様?」


「その旅、私も連れてって貰えないでしょうか?」


「えっ?!」


「お城の方はお父様にお母様、お兄様にお姉様が居てくれれば問題無いですし、何より、私ずっとお城に籠ってばっかりで、外の世界を自由に見て回れないんですもの。ですので、私も一緒に旅に出ます!タケル様が一緒に居て下さるなら、大丈夫ですよね!」


「…どうしましょう、国王様?」


「構わん。折角の機会だ。一緒にこの世界を見て回って勉強して来なさい」


「ありがとうございます、お父様!タケル様、よろしくお願いします!」


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします、アンリエット様」


「もう!折角旅の仲間になるんですから、ため口と呼び捨てで結構ですよ!」


「あ、そう。じゃあ、よろしく、アンリエット」


「はい、タケル様!」


 そうしてタケルとアンリエットが握手を交わした所で、スレイが自室のベットの上で目が覚める事に。


「…アンリエット・フォン・アルテミシア。気になって調べたけど、確か500年前のアルテミシアの王女だったわね。と言う事は、あれは500年前の勇者の夢?でも、何でそんな夢を見てしまうのかしら?」


 目が覚めたスレイは、手元の仮面を被り、ベットから出て、ネグリジェを手に掛けたタイミングでノックが響く。


「エミリア様、お目覚めですか?朝の着替え、手伝いますよ」


「はーい。入って良いわよ」


 部屋に入って来たメイドと共に、エミリアは着替えを済ませた。




 エミリアの執務室

 エミリアはカイト達と共に書類仕事をしていた。


「手伝ってくれてありがとね。流石に1人だと書類の量が多くて」


「構わないよ、これくらい。あ、これ備品管理表」


「こっちも、発注書と作業報告書、粗方終わったよ」


「ゼシカ王女が送って来た例の研究レポートの解析結果、何とか纏めておいたよ」


「ありがとう。お陰で作業が早く進んだわ」


 その時、水晶に通信が入った為、エミリアも繋げる。


「はい、もしもし」


<もしもし、エミリア様。実はヒルダ様が城に来ておりまして…>


「あの人が!?私もそっちに向かうから、引き留めておいて!」


<いえ、もう既に城の中に…>


 そして扉が勢い良く開かれたと思うと、赤髪ショートヘアーのつり目で、引き締まった筋肉の長身女性が入って来た。


「よう、エミリア!顔見に来たぞ!」


「お、お久しぶりです、ヒルダさん…」


「え、誰?」


「ん?お前ら初めて見る顔だな?一体どう言う関係だ?」


「私達、エミリアの学友でパーティーメンバーですけど…」


「何、パーティーメンバー!?お前、遂に自分のパーティー持つ様になったのか!?そりゃあ良かった良かった!」


「…エミリア、この人は?」


「ヒルデガルド・ヴィクティア。Aランク冒険者である、私の指南役だった人よ」


「姉さ…エミリア様の指南役!?」


「えぇ。私が冒険者ギルドに登録した頃、この人が私の指南役を引き受けて、しばらく一緒にやってたの。この人、本当に勢いが凄くて、いい加減で、あの時はこの人の相手するの苦労したわ」


「アタシの指南に着いて来られたお陰で、早いペースで一人前の冒険者になれたんだし、こうしてAランクにまで上り詰められたんだから良いじゃないか!」


「貴方に振り回されたお陰で、私もあちこち苦労する羽目になったって言ってるじゃないですか!私、本当に貴方のそう言う所、苦手なんですからね!」


「まあまあ、細かい事は気にすんなって!それよりもお前と久々にクエストがやりたくなってな。これからアタシのクエストに付き合え!」


「いや、私、この書類の山、片付けておきたいんですけど…」


「大丈夫大丈夫!アタシとお前なら直ぐに終わらせられるから!さっさと支度済ませろ!アタシは先に冒険者ギルドに行ってるぞ!」


 そう言ってヒルダはそそくさと部屋を出ていく。


「…はぁ。皆も付き合ってくれる?」


「え?そりゃあ勿論」


「あの人、言い出したら聞かないから。急いで支度しましょう」


 そしてエミリア達も冒険者衣装に着替えて城を出る事に。




 冒険者ギルド、受付カウンター

 ヒルダは先に選んだクエスト受注書をエミリア達に突き付ける。


「そんじゃあ、今回はこれを受けるぞ!」


「どれどれ…?ちょっ!?タイラントボアの討伐って、難易度高い方じゃないですか!?」


「アタシと今のお前なら余裕だろ?」


「私、この国の王女なんですけど!?」


「すんませ~ん!アタシら、このクエスト受けま~す!」


 エミリアの言葉を無視して、ヒルダはカガリの下へ受注書を持って行く。


「はい、ライセンスをご提示下さい」


「はいはい。…お前さん、強いだろ?今度模擬戦しないか?」


「冗談言ってないで、さっさとクエストに向かって下さい」


 そしてエミリア達は、タイラントボアの出る森の街道に到着した。


「よ~し、とっとと片付けて肉貰いますか!」


「ちょっと姉さん、あの人どう言う戦闘スタイルなの?」


「あの人は大剣を盾としても使うパワー系タンクで、力でゴリ押しするタイプ。基本大胆な動きをするけど、力の込め方や大剣の振り方を的確に見極められるセンスの持ち主よ」


「お、来た来た!」


 と、そこに森の奥からタイラントボアが勢いのままに走って来た。


「よ~し、アタシが奴の動きを止めとくから、お前らは奴の側面叩いておけ!」


「あの、ちょっと!」


 そしてヒルダはタイラントボアへ突撃し、大剣を構える。


「こっちに来い、猪!」


 ヒルダの叫びで軌道を変えたタイラントボアがヒルダ目掛けて突進。

 ヒルダも大剣で受け止める。


「今だ、お前ら!」


「あ~もう!本当に勢い任せなんだから!」


 そしてエミリアとカイトがタイラントボアの側面を斬り付け、怯んだ所をスバルが拘束。

 そこからハルトマリーが影から触手で串刺し、空中へ放り投げる。


「落下軌道と落下速度、計算よし!剣を振るうタイミングよし!ぶった斬る!」


 そして落下地点に先回りしていたヒルダが大剣を振り下ろし、タイラントボアを真っ二つに斬り捨てた。


「いよっしゃあ!いっちょ上がり!」


「はぁ…」




 アルテミシア城、城門前

 タイラントボアの解体及びクエスト成功報告を済ませた一同は、お開きの流れとなった。


「いやぁ、金も肉も手に入った!でもって、エミリアもちゃんと腕を上げてる様で良かった良かった!」


「もう、本当にヒルダさんは。振り回されるこっちの身にもなって下さいよ」


「悪い悪い。しっかし、お前も色恋沙汰に現を抜かしてる様じゃなくて良かったよ」


「えっ?」


「ギルドでも噂になってるぞ。お前と星空の勇者(ナイト・ブレイブ)は恋仲だって。」


「だから私とアラタは恋人同士じゃありませんし、私達も仕事はキッチリこなしてますって!」


「分かった分かった」


「…まさかヒルダさん、私が真面目に生活してるかどうかを確認する為にクエストに付き合わせたんですか?」


「ま、そう言う事だ。兎に角、お前の仕事ぶりも確認出来て良かったよ。じゃあな!」


 そう言ってヒルダは街の方へ走って行く。


「…何かあの人、凄い嵐みたいな勢いの人だったね」


「そうね。基本勢い任せだけど、ちゃんとした大人である事は確かよ。さ、私達も残りの書類片付けましょう」


 そしてエミリア達も城に戻り、書類仕事を再開する。

 エミリアとヒルダ、お互いの信頼関係は確かにそこにあったのを感じたのだった。

こう言った関係性もいいものです。

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