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第25話

フィルビアでの戦闘開幕。

 フィルビア王国海域の海岸

 現在、エミリア達のパーティーとユフィは、ゼシカの招待の下、夏のビーチで遊んでいた。


「お姉様~!こっちこっち!」


「急がなくても海は逃げないから落ち着きなさい」


 と、白いワンピース水着姿のユフィにエミリアは引っ張られ、海に足を漬ける。


「それ~!」


「きゃあ!…もう、やったわね!」


 と、エミリアとユフィは海水を掛け合う。

 そんな2人の様子を、カイト達は暖かい目で見守っていた。

 そして、ビーチチェアーに寝そべっている赤のフリルビキニのゼシカも、サングラスをずらして見詰める。


「あらあら、姉妹仲がよろしいですこと」


「あんた、何でこんな所にアタシらを連れて来たんだ?」


 と、チューブトップビキニのレオニーが話しかけ、パーカーと海パン姿のデュークが剣に手を掛けるが、ゼシカもそれを手をかざして諌める。


「私はただ、今年の交流会を優勝したアルテミシア王国との関係を深める為に、リゾートに誘っただけですよ」


「本当にそれだけか?キッチリフル装備でやって来いってのが引っ掛かって仕方ねぇんだが?」


「あらあら、疑り深い方ですこと」


「アタシは元々裏の人間なんでね。疑うべき時に疑っとかねぇと…」


「レオニーさ~ん!スイカ割りやりましょう!」


「あっ、ちょ…!」


 と、花柄ワンピース水着姿のアリアがレオニーの手を引っ張って行く。


「…よろしいのですか、ゼシカ様?エミリア王女達も連れて来てしまって」


「問題ありませんよ、デューク。彼女達なら、バッチリ解決を手伝ってくれる筈ですから」


 そしてエミリア達も夏の日差しの下、海を堪能していく事に。

 それから皆で、ゼシカの別荘で休憩する事に。


「ユーフィリア王女、海は満喫出来ましたか?」


「はい!ありがとうございます、ゼシカ様!」


「それは良かった。…さて、エミリア王女達も付き合ってくださらない?」


「何にですか?」


「これから向かう用事に」




 郊外の森

 冒険者衣装に着替えたエミリア一行は、ゼシカとデュークに連れられ、森の中を歩いていた。


「あの~、ゼシカ王女?私達は何処へ連れられてるのでしょうか?」


「実は最近、この森に隠れて怪しい実験をしている者達が居ましてね。私も王女として、その者達を検挙しておく必要があるのですよ」


「それなら別に私達じゃなくても、城の者か軍に頼めば…?」


「そうも行かないんですよ。表立って城の人間や軍を動かせば、騒ぎになって例の者達に気付かれますし、明確な証拠も無い為、軍とかを動かせない事に変わりはないんです。何より、エミリア王女達に頼んだのは、奴らのエンブレムが貴方達にとっても関わりが深いものだから」


「それってどういう…?」


「天使の羽根と光輪と十字架のエンブレム」


「っ!?まさか…!」


「察しの通り、貴方方が追ってる組織の者達です。ですので、私も信用出来て、腕が立ち、彼等の事を知ってる貴方達にお願いしたのです。奴らに関する情報を集めたい事に変わりはない為、引き受けて下さいますね?」


「…勿論」


「ありがとうございます。ほら、見えてきましたよ」


 と、一同はツタの生い茂った屋敷に到着する。


「此処に奴らが…」


「えぇ。彼等がこの場所で何かしらの研究をしているのは確かです。何の実験かは知りませんが、捕らえる事が出来れば御の字です」


「中に入りましょう。…フィーナ」


「はいは~い」


 と、フィーナが皆に魔法を掛けると、透明になった。


「隠匿魔法よ。これであんた達の姿は、奴らに見えなくなったわ」


「ありがとうございます。可愛らしい妖精さん」


「行きましょう」


 そして一同は屋敷の中へ入って行く。




 屋敷に入った一同は手分けして探索する事に。

 先ず1階、エミリア、ハルトマリー、レオニーは魔法石の貯蔵庫を発見する。


「部屋一面に、魔法石…!」


「この魔法石、よく見たら純度がAランク相当の物ばかり…!」


「確かフィルビアは魔法研究国。その特色の1つが魔法石の流通の良さだ。この国は至る所にマナが満ちているから、当然魔法石も質の良いのが出来る。魔法石を使った実験をしたいのなら、正にうってつけって訳だ」


「後でゼシカ王女に確認を取っておきましょう」


 次に2階、カイト、スバルは書斎にて、研究レポートを発見する。


「本棚に不自然な新しい紙があるから何かと思って覗いて見たら、やっぱりあった研究レポートを纏めたファイル…」


「此処で行われる実験は、"転移者の転移座標の調整"と"輪廻転生の概念"。恐らくレオニーさんみたいな異世界人を自分達の下へ集めて働かせる為と、例え死ぬ事になっても、次の生で計画を続けられる様にする為だね」


「転生については、アリアさんの件があるから実感があるし、この概念はこの世界の人達にも適応されていたっておかしくないって事か。折角だから、このレポートも貰おう」


 そしてゼシカとデュークは、リビングの暖炉にあった魔力の痕跡に気付き、そこからゼシカが魔法陣の軌跡を辿って、隠し扉を見つける。


「恐らくこの先は、奴らの研究施設ですね。デューク、皆を通信で呼んで下さい」


「はっ!」


 そして集まった一同は、扉を通って地下へと進んで行く。

 進んで行くと、奥に鉄の扉があり、扉を開けて中を覗いて見ると、黒ローブの者達が、魔法石を触媒に魔法陣を展開、そして中央にある台座に魔力を集めていた。


「この魔力は、精霊と交信する波長に似ている。それに霊に干渉する波長も感じる」


「恐らく、異世界人を招きやすくするものと、霊体に干渉して、生前の記憶を残させる為でしょう。そのレポートの内容から、それくらいの推測は出来ます」


「あの魔法石は、この研究の為だったのね。それよりも、どうやって捕らえましょうか」


「私にお任せ下さい」


 そう言ってゼシカは、部屋にいた黒ローブの者達を、一瞬で氷漬けにする。


『えぇ~…』


「さて、これでこの者達は捕らえました。後は拘束魔法で縛っておきましょう」


 そうして一同が部屋に入ったその時、何処からか蛇腹剣の切っ先が伸びてきて、皆はそれを跳んで回避する。

 そして陰から何かが光ったと思ったら、皆の隠匿魔法が解除されてしまう。


「全く。侵入者の反応を感じたんで昼寝から起きて来て見れば、まさか職員が氷漬けになっている上に、それをやったのがゼシカ・フォン・フィルビアとはねぇ」


 そして暗がりから出て来たのは、蛇腹剣を肩に担いだ、ダークブルーのウェーブロングの勝気のつり目で、エナメルブーツとショートパンツ、黒いビキニと革ジャンの女性だった。


「貴方は…?」


「アタシは此処の用心棒をやってるパチュア・グレーシーだ。とは言っても、最近暇で暇で退屈してたんだけどな。で、此処の勤務になってようやく暴れられる機会が出来た。付き合って貰うぜ」


「…ゼシカ王女、奴は私が引き受けます。貴方方は研究員を…」


「あら、私の事を安く見てませんか、エミリア王女?私だって、自国の領土で勝手されてる以上、引き下がる気はありませんよ?」


 そしてゼシカはパチュアの前に立つ。


「エミリア王女、貴方方は研究員と共に避難を。此処は私とデュークがお相手します」


「良いねぇ。上等だ、掛かって来な」


 その言葉を受け、黒ローブの者達はスバルが精霊に呼びかけて運ばせ、エミリア達も急いで外に出る。


「親切ですね。彼女達が引くのを待つなんて」


「そんなんじゃあねぇよ。邪魔なもんがあっちゃ、派手に暴れられねぇってだけだ」


「同意見ですね。では、参りましょうか」


「その綺麗な身体、斬り刻んでやるよ!」


 パチュアが剣を伸ばし、2人が両サイドに回避。

 そしてデュークが踏み込んで剣を抜くが、パチュアはデュークの剣に蛇腹剣を巻き付け、そのままデュークを引き寄せ腹に膝を入れ、投げ飛ばす。

 その後のゼシカの氷の矢の雨も蛇腹剣を展開して回転させる事で防ぐ。

 そして剣が戻った瞬間、パチュアの腕と蛇腹剣が凍り付いていた。


(っ!?あの氷の雨はフェイク!ワザと防がせ、この罠に誘う為の!)


 その隙にゼシカがパチュアの足元を凍らせ、デュークが斬りかかろうとした時、パチュアはニヤリと笑う。

 そしてパチュアが凍った剣で防いで、その衝撃で腕と剣の氷を剥がし、デュークの事も弾き飛ばす。

 そこから剣を足元に突き立て、足の氷も砕いて自由になる。


「残念だったなぁ。この程度の氷じゃあ、アタシは止められないよ!」


 パチュアもまた、意気揚々とゼシカに向けて蛇腹剣を伸ばしていく。


「仕方無い。本当は最初はエミリア王女に見せたかったけど、使いますか」


 その時、ゼシカの全身を氷の戦乙女の鎧が覆い、攻撃を防ぐ。


「何だと!?」


極寒の戦姫(ブリザード・メイデン)。私の全身を氷で覆い、更に魔力を張り巡らせ、形を鎧に整え、防御力だけでなく、戦闘能力を向上させる、私の奥の手。本当はエミリア王女とのリベンジまで取って置きたかったけど、そうも言ってられませんね」


「良いねぇ。なら、お前のプライドごと、その氷も砕いてやるよ!」


 刀身を戻したパチュアが距離を詰めて剣を振り被り、ゼシカも氷の剣を出して防ぎ、そこからお互いの剣が何度も打ち合われる。

 そしてまた剣がぶつかる瞬間、蛇腹剣が展開、ゼシカの身体を縛り上げ、パチュアはゼシカを後方へ投げ飛ばす。


「アタシも魔力を解放させて貰う!」


 そう言ったパチュアは闇属性の魔法を刀身に張り巡らせ、斬撃を飛ばす。

 ゼシカの影が縫い付けられ、彼女の胸元に魔力を帯びた切っ先が伸びようとしていた。


「さっきから肌寒いなと思いませんか?地下とは言え、今は夏なのに」


「何を言って…っ!」


 その時、部屋全体が凍り付き、蛇腹剣が切っ先から凍っていき、パチュアも反射的に剣を捨てる。


「この鎧を纏った私は、この部屋ぐらいの広さまでの空気中の水分までも凍らせる」


 ゼシカもまた、凍った影の帯を砕いて、パチュアに近付く。


「私が鎧を纏った瞬間、この空間は私の氷の絶対領域となった。凍てつく氷河にさらされ、その身を冥界の冷気に震わせながら、この場で果てなさい」


 そしてゼシカもスケートの様に滑り、氷の剣で斬り付け、パチュアも全身が凍り付いた。

 それを見届けたゼシカも鎧を脱いで、部屋の氷もまた溶けていき、倒れそうになったゼシカをデュークが受け止める。


「お見事です、ゼシカ様」


「いえ、まだまだね。今の私じゃあ、精々10分といった所よ。これからも魔力量を増やしていかないと」


「そうですね。相手も油断していたお陰で、何とか時間内に倒せた訳ですし」


「そうね。…それにしても、エミリア王女の魔力量はやっぱり異常だと思うわ。フィルビアの王女である私の魔力量は、上級魔導士と同じレベルはある。ハルトマリーさん、スバルさんも同様で、レオニーさんは精々Cランク冒険者レベル。でも、エミリア王女は成熟したドラゴンに匹敵するレベルはありました。恐らく、星空の勇者(ナイト・ブレイブ)も同じかと。…陽光の姫君(シャイニープリンセス)、人間の身であれ程の魔力を扱えるなんて、とんでもないくらいです」




 屋敷の入口

 パチュア達組織の人間達も、拘束魔法で縛られた状態で座らされていた。


「助かりました、エミリア王女。お陰でこの者達を捕らえるのに成功しました」


「いえいえ、私達の方こそ組織の情報を掴めて僥倖でした」


「情報と言えば、貴方の城でも前に見つけたアジトから持ち帰った情報の写しを貰ったんです。今回もまた、新しい資料の写しをくださいますよね?」


「…はぁ、分かりました。カイト、研究レポートを」


 カイトからレポートを受け取ったゼシカは、複製魔法でレポートをコピーし、原本をカイトに返す。


「では、この資料もフィルビア城で解析をしておきますね」


「お願いします。…ふぅ、これでフィルビアでの面倒事は片付いたわ」


「そうですね。こちらも他国の事とは言え、手を貸して下さり、ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ」


「なぁエミリア、そろそろ別荘に戻ろうぜ。アリアとユフィが待ちぼうけてる」


「あぁ、ごめん。そうだったわね」


「では、この者達は私が城へ引き渡しますので、皆さんは先に戻って下さい」


 そしてエミリア達も、城に通信するゼシカとデュークを置いて、別荘に戻る事にした。

 こうして、フィルビアでの一波乱は幕を閉じたのだった。

当然、ゼシカとデュークも強くなってます。

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