第23話
実家の話となります。
7月中旬、中庭
今回も期末試験の為に、全校生徒達が試験勉強に明け暮れ、奮闘して、試験に挑んだ。
そしてエミリア達も力を出し切り、中庭のテラスで日向ぼっこしていた。
「終わった~。今回も何とか乗り切った~」
「はいはい、お疲れ様」
「修行期間で学んだ事も使える所があって良かったよ~」
「うぅ~、貴族も平民も関係無く、求められる力と言うものはあるんですね~」
「はいはい、アリアもよく頑張った」
「レオニーさんの優しさが染み渡ります~」
「ん?そう言えば貴方達の世界の言語って、この世界と同じものなの?」
「いえ、全く違う言語です。私の前世で居た日本は、日本語がメインでした」
「アタシの居たアメリカは英語がメインだ。この世界の言語と似ている言語でもある」
「同じ世界でも国によっては言語が違うのね。…と言うか貴方達、お互いで会話出来てるし、私達とも会話が成立しているわね?一体どういう事?」
「そういや、この世界に来た日、何故か野盗共の言葉を聞いた途端、頭の中に「言語調整完了」って声が聞こえたんだよなぁ。それ以来、何故か意識しなくても、この世界の言語が自然と頭の中に浮かんでくる様になったんだよ」
「私については、前世を思い出す前に、この世界の言語を知っておいたお陰ですね」
「もしかして、勇者物語に出て来た神が関係している?それとも…?」
「さて、期末試験も終わった事だし、アタシも部下達に顔出してくる」
「私はまだ此処にいます。ティティアさんやアリシアさんとか、2組は濃い人達ばっかりなもので…」
「あ、私とカイトは用事があるから」
「用事って何?」
「ちょっとした私用」
そう言ってエミリアとカイトは、中庭を去っていく。
「2人して一体何処へ行くんだろう?」
「さぁ?」
郊外の森
冒険者衣装に着替えたエミリアとカイトは、森の中を進んでいた。
「此処に来るのも、6年ぶりか…」
「姉さん、城暮らししてたもんね。中々1人で出歩く機会が無かったくらい」
「あの時から私もまだ子供だったし、最初の頃は城の警備も厳重だったから。だからAランク冒険者と言う立場になった今なら、こうして此処に顔を出す事が出来る」
そして2人の辿り着いた先には、1つの墓があった。
「久しぶり、サテラお母様…」
2人は墓を掃除し、花を添え、手を合わせる。
「母さんが死んで、もう8年経つのか…」
「あの頃の私は、まだ剣の意味を見出せないくらい子供だった。よくゲイルお父様と平和な世の中での剣の使い方で揉めてて、そんな私達をサテラお母様は仲裁に入って、私の事も気に掛けてくれていた。ゲイルお父様はサテラお母様に頭が上がらなかったし、そんなお母様も私は好きだった。けど私が8歳の時、私が森の奥に咲く綺麗な花を一緒に見ようとした時、魔物の襲撃からお母様が私を庇って、それで大怪我を負って、お父様達が駆け付けた時にはもう、お母様は亡くなってしまっていた。あの頃の私が弱かったせいでお母様は亡くなったと、お父様は八つ当たり気味に厳しい稽古を付ける様になった。途中で泣き言を言っても、腕が中々伸びなくても、お父様は考えを改めようとしなかった。そうして日々のストレスが溜まって、10歳の時にシェーラと会って、私はエミリアになった。こうなった今でも、私はまだお父様を許していないし、今の私の事を話す事には抵抗がある。でも、やっぱり逃げてちゃ駄目なんだよね?いずれ向き合わなくちゃならないんだよね?」
「そうだね。でも父さんもちゃんと聞いてくれるかどうか…」
「何だカイト、お前も来てたのか?」
と、そこに白髪交じりの黒髪の壮年の男性、ゲイル・ワーグナーがやって来る。
「父さん…」
「ん?そちらにいらっしゃるのは、エミリア王女か?何故貴方が此処に?」
「…学友である彼に、私が連れてって欲しいと頼んだからです」
「そうですか。態々こんな所までありがとうございます」
そしてゲイルは墓の前に座り、酒を添え、自分もグラスに入れた酒を飲む。
「…父さん。スレイ兄さんの事なんだけど…」
「あいつの話はするなと言ってるだろ?家を捨てる様な奴の事など知りたくないわ」
「なっ!?何だよ、その言い方!?大体スレイ兄さんが家を出てったのは、父さんのせいだろ!?」
「そもそもサテラが死んだのは、あいつが弱かったせいだ。だからまた同じ事が起きない様鍛えてやってただけだ」
「そうやってあの時の事、兄さんのせいにして、八つ当たりしてただけじゃないか!?」
「だから何だ?剣の名家に生まれながら、家族すら守れなかった腰抜けに変わりはない」
「この…!」
カイトが殴り掛かろうとした所を、エミリアが手を引っ張って止める。
「姉さ…」
「ゲイル御当主、私からすれば、次男に責任を押し付けてる貴方も十分腰抜けでは無いでしょうか?カイト君から当時の事を聞きましたが、ご婦人が亡くなった時の事は、誰も予想出来なかった事故であり、貴方方の誰にも非は無い筈ではないでしょうか?」
「…何が言いたいんです?」
「貴方はただ、やり場の無い怒りを次男にぶつけて、それで当時の事を誤魔化そうとしているだけです。本当にその時の事を悔いているなら、先ずは教会に行って懺悔でもして来なさい。何時までも次男のせいにして、向き合おうとしないその態度は、ご婦人に対しても失礼です」
そう言ってエミリアは、ゲイルに背を向けて、その場を去る。
「貴方が何時までもそんなんじゃあ、お母様だって浮かばれないわ」
「あっ、待ってよ!」
その後ろをカイトも慌てて追い掛ける。
「…それくらい、俺だって分かってるよ」
あれから2人は、森の中をかなり歩いていた。
「何で止めたの!?1番怒ってたのは姉さんの筈なのに!」
「確かに私だって怒ってたわよ。けど、あのお父様を見てたら、殴る価値も無いって思ったから。お母様を1番愛してたのはお父様だから、やり場の無い怒りを私にぶつけてただけだもの。そう思うと、怒りよりも呆れの方が勝って、怒る気も失せたわ」
「姉さん…」
その時、遠くから女の子の悲鳴が聞こえたので、2人が駆け付けると、大型熊の魔物グリズリーに女の子が襲われてる所だった。
「危ない!」
そしてグリズリーが腕を振るうが、間一髪でエミリアが少女を抱えて回避する。
「貴方、大丈夫!?」
「う、うん…」
「大丈夫。お姉ちゃんに任せなさい」
少女を笑顔で頭を撫でたエミリアは、グリズリーに向かい、剣を抜く。
(グリズリー…。あの時、サテラお母様を殺したのと同じ魔物。でも、私はもう、剣が弱いスレイじゃない。アルテミシア王国第1王女エミリア・フォン・アルテミシアとして、守るべき人民を、脅威から守る為に剣を振るう!)
そして駆け出したエミリアは、グリズリーの爪を跳んで躱し、左目を突き刺す。
痛がるグリズリーの横なぎを跳んで躱し、風の刃でその身体を斬り付ける。
着地と同時に膝を着いたグリズリーの首を一瞬で斬り落とした。
「やったぁ!お姉ちゃん強~い!」
その様子を、ゲイルは陰から見ていた。
森の入口
無事女の子を森の外に出した2人は、女の子を見送る。
そして2人の後ろからゲイルが顔を出す。
「父さん!?何で此処に!?」
「いや、何。さっき俺もあの女の子を助けようとしたが、先越されたんで、見守るだけにしておいた。さっきの戦闘、見事でしたエミリア王女。…いや、スレイ」
「えっ…?」
「誰がお前に剣を教えていたと思っている?息子の剣技を見間違う訳なかろう」
そしてエミリアも観念して、仮面を外す。
「まさか覚えてくれていたなんて…」
そしてスレイも、この6年間で何があったのかをゲイルに話した。
「そうか。それでお前はエミリア王女として生きる事にしたのか」
「えぇ。私もあれから色々あって、王女としての生き甲斐を見出せる様になり、色々な縁にも恵まれました。だから、もうワーグナー家には戻りません」
「そうか。…すまなかった。確かにお前達の言う通り、俺はお前に八つ当たりしていた。サテラの死とちゃんと向き合おうとしてなかった。あいつは怒ってただろうな…」
「いや、恐らく呆れてますよ。こんな私達2人に、あの世からずっと」
「そうだろうな。…なぁスレイ、俺は今でも、お前の事を息子或いは娘として見ても良いか?」
「えぇ。もう私はスレイ・ワーグナーとして、ワーグナー家にはいられないけど…」
そしてスレイも仮面を被って言葉を続ける。
「アルテミシア王国第1王女エミリア・フォン・アルテミシアとしても、貴方の事を父としてお慕いしております。ゲイルお父様、私、この国の王女として、この国を更に良くして参ります。国の皆が本物の自由を手に、笑顔で過ごす事が出来る国として。後、実は私、気になる殿方がいるんです。その人は勇者の血族で、私の事も夢も受け入れて、私の勇者として傍にいてくれると言ってくれました。まだ関係は深くありませんが、私の婿の筆頭候補として、周りも彼との関係を気にしてくれています。もし私が結婚式を挙げたら、お父様も来て下さいますか?」
「あぁ、ちゃんと参列すると約束しよう」
「ありがとうございます。それではお父様、私も王女として、あるべき場所に行って参ります」
「あぁ、頑張れよ」
カーテシーでお辞儀したエミリアは、カイトと共に学園へ戻る。
こうして、エミリアの本当の父とのわだかまりは消えたのだった。
これにて、7月のエピソード終了。




