第22話
取り敢えず、学校に戻ります。
夜、女子寮エミリアの部屋
スレイはベッドの上で頭を抱えていた。
「あぁ~!どうしてこの可能性に気付かなかったのかしら!?そりゃあ、あんな事やこんな事があれば、女として心がときめかない訳無いわよ!そりゃあ、アラタへの好感度だって上がるわよ!動きが更に女っぽくなってるのはまだ良い!でも、言葉遣いが戻らなくなるなんて!実家との話し合いもまだ控えているのに!仕方無い!言葉遣いは何とか誤魔化すしか無いわ!でも問題は私の正体を知ってる人達!今の私の事知ったら、アラタは私の事意識しちゃう!シェーラやカイト達は確実に揶揄ってくる!王宮の皆も絶対に結婚の話を持ち出してくる!絶対にバレない様にしないと!」
「ちょっとスレイ、あんたとアラタが最初から良い雰囲気出してたのは皆気付いてるし、あんたも開き直って、正直に話しちゃえば?」
「出来る訳無いでしょ!?10歳まで男として過ごして、その後、女になってお姫様として過ごして、まだ男として過ごした時間の方が長いのに、女として男にときめく事になっただなんて話、とんでもなく恥ずかしいに決まってるでしょ!?だから絶対にバレる訳にはいかないわ!フィーナも、絶対に余計な事を喋らないで!」
「はいはい…。」
アルテミシア学園、1年1組教室
臨海学校後の休みが明け、生徒達は臨海学校での話をしたり、勉強の日々が戻って来た事を愚痴ったりしていた。
「おはよう、姉さん」
「えぇ、おはよう」
「臨海学校、トラブルもあったけど楽しかったよね」
「(ギクッ!)え、えぇ、そうね。私も楽しかったわ」
「ほら、お前ら席に着け!」
マシューの号令と共に、生徒達も席に着く。
「今日は編入生を紹介する!突然の事だが、王宮の推薦でこの学園に入る事になった!では入ってくれ!」
そう言われて入って来た生徒に、エミリア達は驚きを隠せないでいた。
「本日より、こちらのクラスに入る事になった、レオニー・ブランシェーダ。遠い国から留学して来た!彼女は王宮の推薦と言うだけあって、編入試験も高得点で突破した!以後、お前達も仲良くする様に!」
そして休み時間、エミリア達はレオニーを廊下に連れ出した。
「まさか貴方が編入して来るなんて…」
「お前の兄貴からの指示で、お前の事を近くで守ってやれって言われたんだ」
「って言うかレオニーさん、僕らと同い年だったんだ?」
「まぁな。アタシの両親が事故で死んだ時、親戚も引取先以外、アタシの事引き取るの嫌がってたし。その事で元の学校でもよそよそしい態度取られて、アタシも元の世界の未練無くなったし。何より、この世界は良い。アタシの過去知ってる奴いないから、誰もその事触れないでくれるし。力さえあれば、大抵の事はまかり通る様になってるし。結構気に入ってるんだ」
「そうなんだ。取り敢えず、これから学校でも一緒にやっていきましょう」
「まぁ、そう言う取引だからな」
と、エミリアとレオニーは握手を交わした。
1年2組教室
茶髪セミロングの少女、アリア・ガルウェナーはある事で悩んでいた。
(私、アリア・ガルウェナーは転生者です。私は元々、日本の普通の男子高校生でした。しかしある日、トラックの交通事故で死亡。そしてこの世界で転生し、5歳の時に前世の記憶が戻りました。それからと言うもの、自分が女の子になった事に戸惑いつつも、次第に慣れていき、淑女としての振る舞いを身に着け、この世界の魔法を初めとする常識を身に着け、適応を果たしました。私の家は貴族で、王宮にも足を運んで、王子様やお姫様とも仲良くなってます。しかし、私はある事に悩んでます。それは、私と同じ隠し持ってる話題で話せる人が見つからない事!そりゃあ、中身が男の子だったり、別世界に転生だったりなんて、本来フィクションでしかないし、言ったって分かって貰える筈無いもの!あぁ、話したい!私の本音、ぶちまけたい!)
「所で、レオニーが居たアメリカって、どう言う所なの?」
(アメリカ?何であっちの世界の国名が?)
その言葉にアリアは、急いで廊下に顔を出す。
「どんな国って、そうだなぁ。国土が広くて、世界中から人が集まって、州や都市によって多様な雰囲気があって、エンタメが豊富な、フレンドリーで自由を重んじる国だ。実際、あの国はスポーツや音楽、舞台や映画が豊富で、ハリウッドって言う映画の都市があるくらいだし」
「へぇー、結構面白そうな国だね」
「そうでもねぇぞ。あちこちうるせぇ事に変わりはねぇし。治安だって、初代勇者のいた日本に比べたら、下降傾向とは言え、まだまだ悪い事に変わりはねぇし」
「いや、自分の故郷をそんな悪く言わなくても」
「言ったろ。もうあの世界に未練はねぇって」
この会話を聞いたアリアは、ある事に気付いた。
(あの子まさか、転移者!?そしてそれを平然と聞き入れるエミリア様は、この手の話に確信を持っている!?話したい!あの子と向こうの話をしてみたい!)
1年1組教室
迎えた放課後、レオニーの座ってる席にアリアが駆け寄って来た。
「あの、レオニー・ブランシェーダさん!私は2組のアリア・ガルウェナーと言います!」
「ガルウェナー…。確かこの国の貴族の1つ。お貴族様がアタシに何の用だよ?」
「実は私、さっき廊下でエミリア様と別の世界の話をしてるのを聞いて!それで私も居ても立っても居られなくなって!」
「あぁ、まさかお前、この手の話に興味あるのか?こんな普通は信じられない話に」
「大丈夫です!私も別の世界の転生者ですから!それも貴方と同じ世界の!」
「…何だと?」
その言葉にレオニーはアリアの首を腕でホールドして、廊下へ連れ出し、途中にいたハルトマリーにも声を掛ける。
「おい、今すぐエミリア達を連れて中庭に来い」
「レオニー?」
そして中庭、エミリア達も遅れてやって来た。
「で、お前が転生者ってどういう事だ?」
「はい!私は元々、別の世界の日本と言う国で男子高校生をやっていました!5歳の時に前世の記憶が戻った時は、本当に色々な事で苦労しました!しかし、この世界に適応したとしても、元男の異世界人と言う話題を出せない事に変わりはありません!そんな時、レオニーさんが向こうの世界のアメリカの話をしているのが聞こえて、これは運命を感じました!ですのでお願いです!レオニーさん、私と向こうの世界の話し相手になって下さい!私、ずっとこの手の話題が欲しくて仕方無かったんです!お願いします!この通り!」
「…って言われてもなぁ。アタシ、元の世界でもこの手の話受けた試しねぇし。アタシも口と態度悪い方だから、ちゃんと相談に乗ってやれねぇかもしれねぇし」
「良いじゃない。引き受けてあげなさいよ。これも立派な更生活動よ」
「お前なぁ、他人事だと思って…。…はぁ、分かった。愚痴くらいなら付き合ってやっても良い」
「本当ですか!?やったぁ!ありがとうございます!」
「しかし、元男の要素を持ってる女の子がまだいたなんて」
「ちょっとスバル!」
「あっ…!」
「っ!今の発言、詳しくお願いします!」
そしてエミリア達も、仕方無く自分達の事を話した。
「スバルさんは、お姉さんの胴体と妹さんの性器を移植された男の子。ハルトマリーさんは、双子のお姉さんと弟さんが、中身の性別逆になって融合した雌雄同体。更にエミリア様は、カイトさんのお兄さんが本物のエミリア様の胴体を移植され、頭から作った仮面で顔を覆っていると。何ですかそれ!?この世界でも実際にTSFが存在していたなんて!」
「あぁ、そう言えば前に本物のエミリアとか言ってたし、そいつもお前の事姉さんって呼んでたな…。」
「お願いだからこの事は…」
「言いません!後、折角だからエミリア様の素顔を見せて貰っても!?」
「うっ!?…はぁ!」
そしてエミリアも観念して、仮面を外して見せる。
「うわぁ!本当に男の顔だぁ!」
「もう満足したかし…か?わ、俺も早く顔を戻したいんだけど…」
(ん?何か兄さん、喋り方に違和感が…?)
「うはぁ!本物のTSFシンデレラストーリー!こんな間近で拝見出来るなんて!」
「シンデレラ…。確か継母や義理の姉達に意地悪されてる女の子が、魔女の力で舞踏会に行き、魔法が切れる深夜0時に慌てて去った時に落としたガラスの靴で王子に特定されて、そのまま結婚する事になったっておとぎ話だったな」
「あぁ、確かに先生の力で幸せな暮らしを手にしているね」
「然も、ずっとお姫様をしている上に、結ばれるのは勇者だけどね」
「だから私とアラタはまだそこまで行ってないわよ!」
「兄さん?今の言葉遣いは?」
「あっ!」
うっかりして素で喋ってしまったスレイは、自身の変化を白状した。
「へぇ~、好感度が上がった事で、女言葉が固定されたんだ~」
「然もよく見たら、動きも前以上に女っぽくなってるねぇ~。お姫様としての立ち振る舞いが、完全に浸透しちゃったんだ~」
「うぅ~。こうなるのが分かってたからバレたく無かったのに~」
「まぁまぁ兄さん、僕としてもアラタさん程の人なら、結構お似合いだと思うよ?」
「元男が女として恋して、身も心も完全に乙女に染まる!TSFラブストーリーの定番です!」
「いやぁ、アタシがとやかく言える事じゃないけど、まぁ落ち込むな」
「うぅ~、恥ずかしい~!」
そしてスレイの恥ずかしがる声が空へ響き渡った。
翌日、校門
レオニーが登校して来た所に、アリアが抱き着いてきた。
「レオニーさん!」
「うぉっ!?急に抱き着くなよ!」
「えへへ。この世界で初めて出来た異世界人の友達だったから~」
「ったく、しょうがねぇ奴だなぁ」
「それじゃあ早速、好きなアニメの話でも~」
「はいはい」
2人は和気あいあいと話しながら、校舎の中へ入って行く。
こうして、レオニーのこの世界での初めての友達が出来たのだった。
と言う訳で、転生者も出しました。




