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第21話

やっぱりこの手の話も苦手分野だ。

 ジャワイアン海洋水族館

 水族館前で、アルテミシア学園1年生達は集まっていた。


「これより、水族館の中に入る!此処で海の生物達を鑑賞し、勉強して貰う!生物鑑賞だけでなく、ステージでのショーも楽しめる様になっている!各々、水族館で見て回ったものは、レポートに書いて、後日提出する様に!」


 それから生徒達は、思い思いに水族館を回っていく。

 浅瀬で泳ぐ小型魚に、深い水辺で泳ぐ大型魚に哺乳類、珍生物に至るまで。


「綺麗~。海の魚達が私達の周りを泳いでる~」


「普通の魚以外にも、水棲系魔物も一緒に居るね~」


「幻想的な空間だね」


「そうね~。…あっ、こっちこっち!」


「ちょっと待ってよ、姉さん!」


 そしてエミリア達も水族館をあちこち見て回りながら、レポートの方もしたためておく。

 後のステージショーでも、海の生物達の魅せるパフォーマンスに、エミリア達も笑顔を見せるのであった。

 生徒達がお土産を確保した所で、生徒達も近くの食堂で昼食を済ませる。




 潜水艇乗場


「では、これから一般観賞用潜水艇に乗船する!海の生物達が自然の中で生活する様を観察して貰う!海の中でのありのままの姿をしっかり見届けろよ!」


 そして迎えた海中鑑賞、生徒達は思い思いに海の生物達を眺めていく。

 自然の中でありのままに過ごす魚や哺乳類、水棲系魔物達の姿に目を輝かせる。


「ねぇカイト!海の中もキラキラしてる!魚達も凄く泳いでる!」


「ちょっと姉さん!楽しいのは分かったから落ち着いて!周りに姉さんの事バレちゃう!」


 そんなエミリアを遠くで見ていたアラタも、彼女の楽しそうな姿に笑みを浮かべていた。

 当然、生徒達もレポートをしたためておく事を忘れてはいない。

 それから下船を迎える事に。


「良し!これで2日目の日程は終了だ!全員、キチンとレポートは書いてあるな?では明日、帰宅する事になってるから、思い残す事の無い様に!」




 夜、ホテル

 それから迎えた自由時間、月見風呂をしたくなったエミリアは1人浴場へ。


「良い眺め~。やっぱり夜の海と月を観ながらのお風呂は最高ね~」


 そしてエミリアが湯船に入ると、既に1人先客が居た様であった。


「あっ、すみません!お邪魔しま…」


 と、エミリアが声を掛けると、そこに居たのはアラタだった。


「きゃあ!」


「エミリア!?何で此処に!?」


「私は月見風呂をしに来たのよ!そう言うアラタこそ、何で此処に!?」


「此処今、男湯だぞ!?」


「しまった!時間帯で入れ替わるの忘れてた!」


「取り敢えず、俺、先に出てるから、お前も頃合いを見計らって…!」


「ま、待って!私大丈夫だから!一緒に入ってて良いから!」


 そして2人は背中合わせで湯船に浸かる事に。


(どうしよう~。アラタに悪いから、つい引き止めちゃったけど、改めて考えると恥ずかしい~)


「そう言えば、今日、エミリアの事ずっと見ていたけど、お前、あんな風にはしゃぐんだな」


「えっ?あぁ、実は私、水の中とか空の上とか結構好きなのよ。ほら、地上じゃあ絶対に味わえない自由に3次元を動き回れる感覚に憧れてて。…私ね、実家にいた時、息苦しい思いで過ごしていた事があったの。もう逃げたかったくらい。その影響かな、海や空に憧れる様になったのは。だからエミリアとなった事で、飛行魔法と水中防護魔法も覚えたの。魚や鳥達の見てる景色、直に味わいたくて。そしてそれも気持ち良く感じた。だから私も、魚や鳥達の様に、皆が自由に生きられる国にしていこうって思える様になったんだ」


「自由か…。お前もかなりロマンのある理想を持ってるじゃないか。なら俺も、その期待に応えてやる必要があるな」


 そう言ってアラタは立ち上がり、湯船から出ていく。


「そのロマンに満ちた心躍る理想、俺も君の勇者として付き合う。皆の自由の為に、俺も一緒に戦ってやる」


「アラタ…」


「それじゃあ、他の客が来る前に、お前も風呂を出ろよ」


 そう言ってアラタは浴場を出ていく。

 その背中を、エミリアは真っ直ぐ見つめ続けていた。


「…ありがとうアラタ。貴方は私の勇者だわ」




 翌日、ホテル前

 生徒達は帰り支度の最終確認を済ませ、集合していた。


「良し!全員身支度の確認は済ませたな?では、学園へ帰還する!」


 マシューの号令と共に一同はホテルを後にし、魔導列車に乗り込む。

 そして1時間後、アルテミシア王国に到着。

 そして学園前に辿り着いた。


「皆、3日間の臨海学校、ご苦労だった!では学園前に辿り着いたので解散!各々、キチンと身体を休める様に!」


 その号令と共に解散、各々臨海学校での思い出の語らいをする者達や、そそくさと寮に戻る者達等、様々な行動を取る者達もいた。


「さて、私達も冒険者ギルドに行きましょう」


「海賊の件だね。分かった」


 そしてエミリア達も冒険者ギルドに行き、先に来ていたアラタと合流する。


「来たか」


「レオニー達もこっちに来てるのよね?」


「あぁ。ギルドの方でも、ちゃんと交渉の席を設けてくれている」


「そう。行きましょう」


 そしてエミリア達は、ギルドの取調室に入り、レオニーに向き合う。


「貴方と取引がしたい」


「取引?アタシは海賊だぞ?アタシに何を求めるってんだ?」


「貴方に王族直属の暗部になって貰いたい」


「は?一体何言ってんだ?」


「実は私達、この世界の裏で暗躍しているとある組織を追ってるの。然もそいつら、この世界を大きく揺るがす事を企てて、その為に異世界とのコンタクトまで行おうとしている。一応、王宮の方でも調査をしてるけど、立場の都合上、あまり表立って大きく動く事は出来ないし、派遣出来る範囲だって限られている。だから裏にも通じている人間の手も借りる必要があるの。そう、裏に身を寄せながらも性根は腐らず、人望も持ってる貴方の手を借りたいの」


「…成程な。本来なら突っぱねてぇ所だが、如何やらお前の甘ちゃんな考えに感化されてるみてぇだ。アタシや部下達の事も気に掛けてくれた借りだってある。良いぜ、付き合ってやる。但し、取引である以上、アタシも相応の見返りを要求させて貰う」


「当然の権利ね。何が欲しいの?」


「アタシらが表で生きてく権利と、衣食住の保証。そして表での仕事の紹介だ。アタシらだって、元々生きるのに必死な連中だったんだ。それくらい良いよな?」


「…分かったわ。後でお父様に通信で頼んでおく」


「取引成立だな」




 ギルドカウンター

 エミリアもレオニー達との取引内容に関する手続きを行っていた。


「…と言う訳で、彼女達の身柄を王族の預かりにしたいのだけど」


「かしこまりました。必要な手続きはこちらで済ませておきます」


 手続きに関する話が終わり、エミリアがアラタ達の下に戻る。


「お疲れ様、姉さん」


「えぇ、後はお父様に通信でレオニー達の事話しておかないと。…ん?」


 そこに、黒髪ストレートロングと藍色の瞳の受付嬢がイライラした様子で通り掛かる。


「…お前、カガリか?」


「アラタ?貴方何で此処に?」


「仕事で捕らえた賊の身柄の取引の為だが、お前此処の勤務になってたのか?」


「アラタ、知り合い?」


「あぁ、こいつはカガリ・ツキムラ。勇者の血族の分家の1つの家系だ」


「彼女も勇者の血族!?」


「あぁ、けどこいつは血生臭い雰囲気が嫌だからって、安定した公務員を目指して、福利厚生、安全保障、定時退社が出来る受付嬢になったんだよ。まさか此処の勤務になってるだなんて知らなかった」


「ただの偶然よ、偶然」


「お前こそ、イライラしてたみたいだが、一体どうした?」


「…残業続きだったからよ」


「…は?」


「ダンジョンのボスやら、無能な冒険者のせいで討伐が遅れている魔物やらの処理に追われて、書類が溜まって、3日も残業する羽目になったのよ!定時で帰れないのよ!分かる!?私の残業によって溜まるストレスの量がどれ程か!?」


「あぁ、うん。分かったから落ち着け」


「と言う訳だから私、これから今回の大量発生の原因であるボスを狩って来る」


「えっ!?ちょっと待て!確か此処副業禁止…!」


 その時、カガリが何処かから出した大剣がアラタの前方ギリギリに突き刺さり、それに5人も青ざめる。


「大丈夫。ちゃんと偽名で冒険者カード作ってるし、顔もちゃんと隠すし、誰も受付嬢がソロ討伐するなんて思わないし。後は貴方達がちゃんと黙ってれば問題無い筈でしょう?お願い。私、受付嬢辞めたくないから」


『は、はい…』


 そしてカガリは大剣を何処かにしまい、その場を去る。


「あの~、カガリさんってそんなに強いんですか?」


「あぁ、一応勇者の血族だからSランク相当の強さはある」


「あの人の事、怒らせない様にしましょう…」




 アルテミシア学園女子寮、エミリアの部屋


「ふぅ~。これでやる事は一通り終わった~」


「ちょっとエミリア。もう仮面取ったら?今なら人の気配無いし」


「あっ、そうね」


 そう言われてエミリアも仮面を取る。


「久しぶりに素顔に戻れたわ。臨海学校の間、ずっとつけっぱなしだったもの」


(あれ…?)


「どうしたの、フィーナ?」


「スレイ、あんた素顔に戻ったのに女言葉のままよ?」


「一体何を言ってるのかしら?…って、噓!?まだ女言葉のままだわ!?」


「それだけじゃないわ。素顔での動きも、前以上に更にお淑やかで女っぽくなっちゃってる。…あっ!そう言えばあんた、アラタとの好感度、上げちゃってたわよね?更にあの仮面との同化の話。もしかして、精神の方から徐々に浸食が始まっちゃってるんじゃないかしら?」


「私が、徐々に完全なエミリアになり始めてしまっている…?」


 急な自分自身の変化に、スレイは戸惑いを隠せないのであった。

と言う訳で、臨海学校終了。

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