第20話
海賊との戦闘です。
夜、ジャワイアン海岸
エミリアとアラタは、遠くにある海賊船を眺めていた。
「海賊?この観光地に?」
「あぁ。あの海賊共は、最近この周辺の海を荒らし回ってる奴らでな。襲撃ポイントから計算した結果、このジャワイアン海岸にやって来る事が判明した。奴らも腕が立つ上に、この場所の警備体制、そして観光客に気づかれない様、海賊共を鎮圧しなければならないと言う問題の都合上、俺が出向く事になった。そう言う訳だから、お前は街や他の生徒達を…」
「私も行くわ。人々の生活を脅かす海賊なんて、王女として見過ごせないもの」
「…はぁ。分かった。但し、お前の身に何かあれば、俺もどう言う責任を追及されるか分からん。だから、お前の身の安全を最優先にさせて貰う。そこのお前らも良いな?」
その言葉に、物陰に隠れていたカイト達も出てくる。
「えーと、気付いてたんですか?」
「最初からな」
「えっ、最初?…って事は…」
「あぁ、当然、俺達の誓いのやり取りも見られてた」
その言葉にエミリアは顔を真っ赤にし、マジックバックから剣を取り出し、頬を膨らませて振り被る。
「わぁ、待った待った!ごめんって、姉さん!」
「勝手に覗いたのは悪かったから!」
「私達もこの通り謝るから、今は海賊に集中しよう!」
そして空中を飛んでたフィーナはこう思った。
「…あんたって、本当そう言う所まで乙女に染まってるのね」
海賊船、甲板
一同はエミリアとアラタの転移魔法で潜入する事となった。
「良し、潜入成功。ここからは手分けして船内を動く。全員くれぐれも見つかるなよ」
「分かったわ」
「はい」
「えぇ」
「承知しています」
「分かってるわ」
「良し、では行くぞ」
そう言って、5人で手分けして、物陰を移動しながら動き回る。
カイトは物陰を伝って進み、見つけたクルーを不意打ちで気絶させて引きずり込み、服を奪ってクルーの中に紛れ込む。
そしてクルーの1人がカイトに声を掛ける。
「おい、お前。何処の担当だ?」
「はっ、はい!僕は宝物庫の管理を任されたのですが、道に迷ってしまって…!」
「何だ新入りか?仕方無い。宝物庫まで連れてってやるから、ちゃんと見張れよ」
「はい!ありがとうございます!」
そしてカイトはクルーの案内で宝物庫に入り、1人になった所で物色を始める。
「成程。これが奴らの集めたお宝。この中に過去の襲撃での盗品があれば、立派な証拠になる。気付かれる前に盗品の確認を済ませないと」
ハルトマリーも影の中を移動しながら船内を移動、そして動力室に侵入していた。
「やっぱり魔力反応があったから、魔道船だったか。見たところ、魔法石はBランク。でもって、使われてる機材は型が古い。これは旧式の動力と言った所か」
扉の外に気配を感じたハルトマリーは影に潜り、2人のクルーが部屋に入って来た。
「さぁて、今回の襲撃場所はジャワイアン海岸か。緩~い観光地じゃないか」
「馬鹿、それが良いんだよ。良く考えてみろ。観光地と言う事は、時期によっては人の往来が多いし、その分だけ金の回りが増えている。然もあそこは大きな事件が起きていない為緩み切ってる。つまり、今ならあそこは絶好の狩場だと言う事だ」
「成程~。そりゃあ期待出来そうだ」
(アラタさんの読み通りだった。何とかして上陸を阻止しないと)
スバルも隠れながら進んでいった先に、多くの少女や女性達がいる部屋に辿り着いた。
「この人達、もしかして海賊に誘拐された人達?」
そしてスバルは、近くにいる女性に声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか?しっかりして下さい」
「貴方は?」
「この近くの海岸に来ていた所を、偶然海賊船が来たので対処する事になった冒険者です。私の仲間達も別々に船を回っています。あの、貴方達に何があったのか、聞かせて貰えませんか?」
「はい、分かりました。実は…。」
「…何ですって?エミリアが危ない!」
エミリアはクルー達の目を盗みながら船内を進んでいた。
「フィーナ、生体感知をお願い」
「分かったわ」
そうしてフィーナに部屋の中の人の状態を確認して貰いながら進んでいき、そしてとある部屋の前で立ち止まった。
「部屋の中に反応が1つ。それも隅っこで縮こまっている」
「入って確認しましょう」
そう言って部屋に入ると、倉庫らしき部屋の隅で、少女が身を縮こまっていた。
「貴方、大丈夫?」
その少女を見たエミリアは、直ぐに駆け寄り、頭を低くして目線を合わせる。
「安心して。もう怖がら無くて良いわ。私が貴方を助けてあげるから」
そう言ってエミリアが肩を抱き寄せた途端、少女は隠し持ってた針をエミリアの首筋に打ち込み、エミリアは身体が痺れて、その場で倒れる。
「エミリア!?」
「…何で?一体どういう事?」
「フフフ。やっぱり油断して、あっさり隙を見せてくれたな、エミリア王女」
そして、赤いウェーブロングの少女は立ち上がり、エミリアを見下ろす。
「貴方は一体…?」
「待っててエミリア!今すぐ回復を…むぎゅ!?」
フィーナも部屋に入って来たクルーに捕まり、籠に入れられる。
「へへへ。妖精なんてレアな存在、こいつは高く売れるぜ」
「出せ!あたしをここから出しなさいよ!」
「上手くいきましたねぇ、お頭」
「お頭!?まさか…!」
「そう、あたしがこの海賊団『紅玉旅団』の船長、レオニー・ブランシェーダだ。あたしの方でも、そろそろ冒険者の連中が先回りしてるんじゃないかと読んでいたんだよ。で、何らかの方法で侵入してくる事を見越して、1人此処で被害者のふりして侵入者を誘い出し、油断した所を捕らえたって訳さ。いや~、あの陽光の姫君もこうなっては何も出来まい」
「お頭、こいつらどうします?」
「あたしの部屋に運ぶ。でもって、こいつの事も利用させて貰う」
「へい!」
そしてエミリアはレオニーに担がれ、船長室へ連れて行かれる事に。
船長室
縛られたエミリアは机の前に放り出され、フィーナの籠も机の上に置かれ、そしてレオニーは椅子に座り、片足を机に放り出し、足を組んで、片腕で頭を支える。
「後はあたしがやるから、お前は持ち場に戻りな」
「へい!」
そう言ってレオニーはクルーを下がらせ、部屋は3人だけとなる。
「さて、打ち込んだ痺れ薬が効いてる内に、やるべき事はやっとかないとなぁ?尋問の時間と行こうか?さて、エミリア王女、お仲間は何人いる?お前だって、海賊相手に妖精と2人だけで乗り込んで来る程馬鹿じゃない。絶対にパーティーで乗り込んで来た筈だ。でもって、潜入方法は転移魔法。現在、船の中を把握する為に手分けして探索してると言った所か」
「私だって王女よ。仲間の事は絶対に売ったりしないし、海賊にも屈しない。民の生活と安寧の為に、貴方達を捕らえてみせる…!」
「まぁ良いや。喋らなくても、その綺麗な顔を奪っちまえば良いだけだから」
そう言ってレオニーは席から立ち上がり、片手を挙げて、禍々しいオーラを放つ。
「簒奪者の手。この手に捕らえられた者は、容姿、記憶、能力に至るまで、そいつのありとあらゆるものを奪い取り、自分のものに出来る能力。あたしが女の身で海賊団の船長が出来てるのは、こいつのお陰だ。あたしが気に入ったものを持ってる奴や、気に入らない奴も、この手で全てを奪い取り、自分のものとして取り込んだ。それで容姿も全身或いは部分的に変えられるし、記憶もあるから成りすましも簡単。更に奪った能力を使って、どんな事もやりたい放題だ。いや~、この世界に来た時、どうしようかと思ったが、この手の力に助けられたぜ」
(この世界…?)
「さて、それじゃああんたの全てを奪うとするか。へへっ、王女の立場を使って良い思いさせて貰うぜ」
そしてレオニーの手がエミリアに差し迫った瞬間、急に爆音と共に船が揺れる。
「何だ!?」
そしてクルーが慌ただしく扉を開けて入って来る。
「大変です!甲板で爆発が発生!現在、現場の者が消火に当たっています!」
「何!?…ちっ!引き続き、そのまま消火作業に当たれ!海風にも気を付けろ!風で火は燃え上がる上に、他の場所にも燃え移るぞ!後、爆発の規模も報告!下手してたら、空いた穴から海水が流れ込むぞ!」
そしてレオニーも事態収拾の為、急いで甲板に向かう。
そして静かになった部屋にスバルが入って来る。
「スバル!?」
「エミリア、大丈夫!?今縄を解くから!」
そう言ってスバルはエミリアの縄を解いていく。
「何で此処が!?って言うか、どうやって私の状態知ったの!?」
「精霊達に聞いたから」
そして2人は、フィーナの籠を開けてる精霊に目を向ける。
「さっきこの船に捕まった人達から、船長の話を聞いて、急いで海の精霊に頼んどいた。そしてハルトマリーに甲板のボヤ騒ぎを頼んで、こうして助けに来た」
「そう。ありがとうスバル。私達も反撃させて貰うわ!」
甲板
元の格好に着替えたカイトとハルトマリーが、陰から火を覗いていた。
「良し、クルー達も火に駆け付けて来ている。揺動は成功よ」
「あの女の子が例の船長か。って事は、今頃スバルさんも姉さんを助け出してる筈だ。僕達も早く合流を…!」
火災現場を観察していたレオニーはある事に気付く。
「この火の規模…。恐らく、この爆発は囮だ!あのお姫様の仲間がアタシらの動きを知って、アタシら全員をこの場に集めさせたんだ!ボヤ起こした奴はまだ近くにいる!この周辺を探し出せ!」
「不味い、バレた!こっちも早く…!」
「…そこか!」
レオニーが銃を取り出し、カイトの直ぐ傍の樽を破壊。
そして2人は取り囲まれてしまった。
「あたしの船で、随分舐めた真似してくれたねぇ。この落とし前、どうつけて貰おうか?」
「何て勘の良い奴だ…!」
「さて、まだ仲間はいる筈だろ?あのお姫様の縄を解く役に最低1人は必要だからな。お前ら、こいつらを痛めつけて、牢屋にぶち込め!こいつらの力も使えそうなら、またあたしの手で奪う!」
そしてクルーが襲い掛かった途端、クルーが突風に吹き飛ばされる。
「何だ!?」
風の発生源を見やると、そこにエミリアとスバルが立っていた。
「随分お早い到着じゃねぇか、お姫様」
「姉さん!」
「2人共、大丈夫?囚われてる人達なら、今アラタが保護している所だから!」
「…ちっ!まさか星空の勇者まで乗っていたとは…!まぁ良い!先ずは目の前のお前らからだ!お前らの容姿も力も立場も、全部あたしが奪ってやるよ!」
「私だって奪われる気はないわ!本物のエミリアの為にも!」
そしてエミリアはレオニーに突撃し、引き離していく。
「この女は私が引き受ける!皆は他の奴らをお願い!」
『了解!』
そして残った3人も、修行で培われた力を以て、クルー達を戦闘不能に追いやる。
それから船首にて、エミリアは剣を構え、レオニーもサーベルと銃を構える。
「本当に気に入らないねぇ。何も不自由の無さそうな、綺麗な顔したお姫様は」
「それは偏見よ。王族は国のトップ故に、公務の量も、教育の仕方も半端じゃないし、常に見張りや護衛を用意される毎日を過ごさなきゃならないんだから」
「そう言う話をしてんじゃねぇんだよ…。分かるか?急に何も知らない場所に放り出された気持ちは?急に何も分からず、襲われる身になった気持ちは?正当防衛とは言え、人を殺した気持ちは?そのまま悪の道を進む事になった私の気持ち、テメェに分かるのか、あぁん!?」
そこからレオニーは銃を発砲。
それをエミリアは身を躱し、レオニーの振り被ったサーベルを受け止める。
エミリアは彼女を弾き飛ばして風の矢を放ち、レオニーもサーベルで全部叩き落す。
「やるねぇ、流石陽光の姫君。あたしも出し惜しみ無しでいくか…!」
そう言うとレオニーは足元に小さな穴を空ける程の跳躍で距離を埋め、サーベルを振り被り、それを受け止めたエミリアも、予想以上の重量に膝を曲げる。
「言った筈だ!あたしの簒奪者の手は能力も奪えると!当然、この手で喰らった奴の力も、頭脳も、能力も、あたしの思いのままだ!」
そしてレオニーはエミリアを上空へ弾き飛ばし、火炎弾を一斉掃射。
エミリアも防壁で防ぎ、甲板へ着地。
一気にレオニーまで距離を詰める。
レオニーがサーベルを振り被るが、エミリアは直ぐ後ろへ回って横なぎ、レオニーも側転で躱す。
そしてレオニーが放った弾丸をエミリアが弾くと、レオニーは風を纏ったサーベルを一振り、吹かした突風でエミリアを海へ放り出す。
「あばよ、お姫様!溺れ死んだ所を、テメェの死体を喰らってやるよ!」
しかしエミリアも飛行魔法を使って甲板へ戻る。
「言ったでしょ?エミリアと言う立場を私以外に使わせる気は無いって」
そしてエミリアは剣をレオニーに向かって突き立てる。
「そろそろ終わりにしましょうか」
「お高く止まりやがって。ズタズタに引き裂いてやんよ!」
レオニーも足元を壊しながらエミリアに突進して来る。
(やっぱり彼女、筋力を上げている間は身体の方も重くなってる。そう言えば、筋肉の比重は脂肪の3倍って話を聞いた事があるから、そのせいね。だったらこっちも魔力強化を使って…!)
レオニーが振り下ろしてきたサーベルをエミリアは受け流し、そのまま足をレオニーの顔面に当て、そのまま船体目掛けて蹴り飛ばし、レオニーも気絶する。
「レオニー・ブランシェーダ。貴方がどれだけ強くても、所詮は他人の力。キチンと自分の弱さを認め、真面目に修行した私に敵う訳が無いわ」
人気の無い海岸
エミリア達は海賊達を捕縛、囚われてた人々も救助していた。
「助かった。お陰で海賊共を捕らえられた」
「いえ、こちらも先生達の点呼の時間までに終えられて良かったです。…姉さん?」
エミリアはレオニーに歩み寄り、目線を合わせる。
「何だよ、お姫様?あたしを笑うのか?」
「…貴方もしかして、この世界の人間じゃないのかしら?」
「えっ!?」
「貴方はさっき口を滑らせた。この世界に来た時と。つまり貴方は初代勇者と同じ異世界人だって事でしょ?」
「…あぁ、そうだ。あたしは半年前、別の世界のアメリカと言う国からやって来た。ある日突然、学校の帰りに足元が光ったと思ったら、見た事も無い場所に立っていた。そして野盗共に襲われた時、急に腕から禍々しいオーラが出て、直ぐ簒奪者の手の使い方が分かった。そして助かりたい一心で野盗共を喰らい、その全てを吸収した。その後、酷く後悔したよ。結局は人を殺した事に変わりはないんだから。だからあたしはそのまま悪党をする事になり、行き場の無い連中を集めて海賊になった。どうだ?滑稽だろ?人殺しに開き直って悪党に成り下がるなんて」
「いえ、貴方はただの被害者よ」
「何だと?」
「貴方だって、いつも通りの日常を過ごしていた筈なのに、急にこの世界にやって来て、理解出来てない内に、結果的に人殺しの業を背負う事になってしまった。そうなる前に、私達も貴方の事を見つけていれば、海賊をやらせる事も無かった。ごめんなさい。謝ったって許される事じゃないし、貴方のやった事は消える訳じゃ無い。それでも謝らせて頂戴。私の方でも、王宮に口利きして、情状酌量の余地が出る様掛け合っておくわ。出来れば、貴方が元の世界に戻れる様、手伝っておくから」
「…本当、お人好しなお姫様だ。良いよ、元の世界に帰れなくても。あたし元々親死んでるし、学校も仲良い奴いなかったし、何より、この世界であたしの事慕ってくれる奴らに出会えたし」
『お頭~!』
「そうね。貴方悪党を自称してるけど、根は優しい人なんじゃないの?」
「俺の方でも裏取ったが、ターゲットも元々裏で悪事を働いてた奴らばっかりだったって話で、それ以外についても、被害が出ていなかったって話だったからな。後、此処で悪事を働いてた奴も、俺の方でもうしょっ引いておいてある」
「私の方でも囚われてた人達から、彼女らは元々その裏で悪事を働いていた人達の被害を受けていた所を、海賊団で保護してたって話だったし」
「ほら、やっぱり人殺しを自覚しても、優しさはちゃんと残ってるじゃない」
「うるせぇ!お前らみたいないい子ちゃんに悪い奴は殺せねぇ筈だから、悪党を殺せる悪党を目指して海賊やってただけに過ぎねぇよ!」
と、レオニーは顔を赤くしながら声を荒げて、エミリア達もそんな彼女の態度に笑い出した。
警備隊駐屯地前
エミリア達は、海賊達を引き渡した所だった。
「これで海賊騒ぎも解決ですね」
「そうだな。折角だし、お前らの臨海学校、俺も陰で見守っといてやるぞ」
「そうね。私もお願いしようかしら」
「レオニーさん達、どうなるんだろう?」
「そうだね。ちょっと心配だね」
「あぁ、それなら大丈夫。私の方でもちゃんと取引しとくから」
「えっ、でもそれって、王宮も許可出してくれるの?」
「あいつらだって、元がごろつきだってんなら、裏でもちゃんと顔が効くだろうし、レオニーも異世界人だ。アルベルト王子も、裏用の部隊として、重宝するだろう」
「そう言う事だから、私達も急いでホテルに戻るわよ!じゃあね、アラタ!」
「あぁ、またな」
「あっ、ちょっと姉さん!」
そう言ってエミリアは駆け出し、カイト達もそれを追う。
そして臨海学校1日目の長い夜は終わったのだった。
転移者の存在が明らかに。




