第19話
7月のエピソード開始。
そして臨海学校。
7月頭、海開きの日
アルテミシア学園の1年生達が魔導列車に揺られ、そして1時間掛けて辿り着いたのは、海の観光名所として知られる、ジャワイアン海岸である。
そしてホテル前に1年生一同が整列すると、マシューが声を掛ける。
「良し、全員揃ってるな!これから2泊3日で、このホテルのお世話になる!そう言う訳だから、先ずは挨拶を済ませる様に!」
『よろしくお願いしまーす!』
「さて、先ず1日目は、午前は全員海で自由時間とする!水着で思いっ切り遊んでも良し!午後になったら、日が出てる内にクラス毎に分かれて、海岸の奉仕活動を行う!2日目には、午前に海洋水族館に行って、海洋類に関する勉強!レポートに書いて提出して貰う!午後には、潜水艇に乗って、海中鑑賞となっている!海の中の生活について勉強して貰う!3日目には、午前の内にホテルのチェックアウトを済ませ、帰り支度!そして各々の身支度の最終確認が完了次第、学園へ帰還する!以上がこの3日間の日程だ!全員理解したら、チェックインに入れ!」
そして各々、男女別の部屋割りの通りにチェックインを済ませ、部屋に荷物を置いていく。
荷物を置いた生徒達は、海の公共脱衣場で水着に着替え、海へと向かう。
海岸、砂浜
水着に着替えた生徒達は、準備運動を済ませ次第、海岸で遊び始める。
紺の海パンと灰色のパーカーとなったカイトは、シートとビーチパラソルを設置していた。
「ふぅ…。やっぱりこう言うのは必要になってくるよね。さて、姉さん達は…?」
「カイト君ー!」
そこに、青のチューブトップのビキニとなったスバルが駆け付けて来る。
「どう、この水着、似合ってる?」
「うん、バッチリ」
「えへへ、ありがとう」
「2人共~!」
更に、麦わら帽子と黒のフリルビキニとピンクのパレオ姿のハルトマリーもやって来る。
「ハルトマリーさん、その水着、上品なお姉さんって感じが出てて良いね」
「え、そう?そんな事言われたら、俺もアレが…。待て、ハルト!私としてもそれは生理的にもTPO的にもアウトだからやめろ!」
その時、急に遠くから歓声が上がって来たから、3人も発生源へ振り向くと、白のスカート付きフリルビキニとなったエミリアが衆目の的となりながら3人の元へ歩いていたのだった。
「キャー!エミリア様、素敵です!やはり私の目に狂いは無かったです!」
と、白のビキニにシュシュを付けたティティアが声を荒げる。
「姉さん、やっぱり注目の的になっちゃってるね」
「仕方無いよ。エミリア、群を抜くレベルの美少女なんだし」
「けど目立つってのは、あんまり良いものじゃないわよ。それとカイト、はいこれ」
と言ってエミリアはカイトにサンオイルの瓶を渡してシートに寝そべり、ブラを外す。
「私の身体にサンオイル塗って頂戴」
「えっ、姉さん!?」
「何よ~。こう言う時は、男が女にサンオイルを塗ってあげるのが解消ってものでしょ?」
「うぐっ!…分かった分かった。直ぐ塗るよ」
そう言ってカイトは手にオイルを垂らし、キチンと人肌に温めてからエミリアの身体に塗っていく。
「…姉さんの身体、肌が白くて綺麗ってだけじゃなくて、本当に小さいんだね」
「それ、どう言う意味?」
「6年前の時と違って、手足も細いし、腰も括れてるし、胸と尻も大きいし、肩幅も狭いし、こうして触れて見ると、やっぱり女の子になっちゃったんだなって思うよ」
「そうね。今の私はもう男の子に力や身体の大きさで勝てなくなっちゃったわ。今じゃあ誰もが羨む美貌を周囲に見せつけるお姫様になっちゃったもの」
「ハハッ、確かに」
「塗ってくれてありがとう。残ってる部分は自分でやるわ」
「カイト君、次私もお願い」
「あっ、俺も!」
そしてエミリアが残りの部分を自分で塗ってる間、カイトはハルトマリーとスバルの身体にもサンオイルを塗っていく。
「こう言う時、本当男って損だよね」
と、カイトは溜息を吐いたのだった。
そして4人は、砂浜でのビーチバレーに、海辺での遊泳にビーチボール、海水の掛け合いに興じていた。
そして周囲の人の流れを見計らって、4人は海の家に入って行く。
「海の家か~。どんなのがあるんだろう?」
「確か焼きそばにカレーライス、イカ焼きにフランクフルト、かき氷もあるよ」
「私は焼きそばとラムネで軽く済ませとくわ」
「俺はカレーライス!」
「僕はイカ焼きと浜焼きにしておくよ」
「私はフランクフルトとフライドポテトで」
「あたしは焼きもろこしをお願いね!」
と、鞄から顔を出したフィーナも注文を出す。
「はいはい。分かったから大人しく…ん?」
店の中に入ったエミリアは、黒の海パンと黒の袖無しジャケットのアラタが席でカレーライスを食べているのを見る。
そして4人は注文を済ませたら、直ぐにアラタと同席した。
「何でお前らが此処に居る?」
「臨海学校でやって来たのよ。そう言うアラタは?」
「ギルドから受けた仕事でやって来たんだ」
「へ~、あんたが例の勇者の血族?初めて見たわ」
「…この妖精は?」
「あたしはフィーナ!先月からエミリアのガイド妖精をやってるわ。後、ちゃんとエミリアの正体知ってるから」
「そうか、まぁ良い。俺も仕事に専念するから、お前らも臨海学校に専念しとけよ」
「えぇ、そうさせて貰うわ」
そしてエミリア達も注文の品が来たので直ぐに食べ、締めのかき氷も頂いておく。
「それじゃあ私達は午後の奉仕活動だから」
「あぁ、またな」
そう言ってエミリア達はアラタと別れて、集合場所へ向かう。
「よし、全員集まったな!それではクラス毎に分かれて、海の奉仕活動だ!」
マシューの掛け声と共に、生徒達はクラス毎に分かれて、それぞれの持ち場での海の奉仕活動を行っていった。
夜、ホテル
皆が夕方の入浴時間と夕食を済ませ、自由時間に入った中、エミリアは1人、マジックバック片手に夜風に当たっていた。
「やっぱり、夜風は気持ちいいわね」
「ちょっとエミリア。こんな時間に外で何の用なの?」
「それは…あっ、いたいた。アラタ~!」
そしてエミリアは、海岸で1人海を眺めているアラタを見つけ、駆け寄る。
「エミリア?どうして此処に?」
「ホテルのスタッフにアラタの事聞いてやって来たのよ。そう言うアラタは何してるの?」
「海岸を見張っているんだ。仕事の関係でな」
「ふーん。…ねぇ、ちょっと話さない?」
その言葉と共にエミリアは砂浜に座り、アラタもその隣に腰掛ける。
「アラタはさ、何で冒険者になろうと思ったの?」
「そうだな。嘗ての初代勇者の様に、人々の生活を守りたいと思ってるが、1番は独立の為だな。俺の親父も、今の平和な時代でも勇者の血は残しておくべきだと考える人でな。上の方の兄貴も、勇者の存在は後の世にも残し続けるべきだと考え、家督を継ぐのに必死になって、下の方の兄貴は、まぁ今時勇者の必要性は無くなってるだろうと、勇者の血に興味が無い。それで俺も、将来を見据えて、独り立ちの為に腕を磨き、12歳で冒険者ギルドに登録、そしてSランクにまで登り詰め、独立の為の準備も整えた。後はSランクの腕前さえあれば、何処かの職場への内定もスローライフも自由に選べる。…どうだ?よくある話で、何も面白味も無いだろう?」
「…それ、分かる気がする。私もまだスレイだった時、実家から逃げる為に冒険者になって独立しようと思ってたから。けど今はシェーラのお陰でエミリアとしての人生を手に入れて、そのままお姫様をする事になった。そりゃあ王族の暮らしは色々な事をやらなくちゃならないけど、それでも私は楽しくやれてる。シェーラの言ってた通り、やっぱりお姫様は私の天職だって思えるから。だから私も政治や武力でアルテミシア王国を更に良くしてみせる!そして、私の目指す理想に向かって突き進んでみせる!それが私の今やりたい事よ!」
「…フフフ。フハハハハハ!」
「何よ?」
「あぁ、いや、悪い悪い。お前は俺と違って、王族の立場を凄く気に入ってるんだなと思ってな。何かお前を見てたら、将来を明確に見てない俺の宙ぶらりんな状態が馬鹿らしくなって。まぁそうだな。俺もSランクの腕があれば、王宮お控えの身になる事も出来る筈だよな」
「アラタ?」
その時、アラタは身体の向きを変え、エミリアの手を取る。
「そう言えば、勇者は元々、お姫様と共に立っているものだと言う話があったな。勇者と姫、黒と白、男と女、俺達は丁度対となる者同士だ。エミリア王女、どうか私を貴方様の剣として、共に力を使わせて頂けますか?」
「貴方の忠誠、確かに受け取りました。貴方こそ、私の理想とする勇者です。勇者アラタ、その力、私の理想の為に奮って下さいね」
そう言ってエミリアはアラタの手の甲に口付けをした。
そんな2人を物陰でカイト達は覗き込んでいた。
「来た~!勇者と姫の誓いのキス!」
「姉さん、かなり乙女チックに染まってたみたいだね」
「夜の海も良い雰囲気を出してて、凄いドラマチックに仕上がってる!あの2人の距離感も縮まって来てるし、勇者と姫のカップルが成立するのも夢じゃない!」
そして2人は手を放し、エミリアとアラタも顔を赤らめていた。
「ふぅ~、つい雰囲気であんな事しちゃったけど、やっぱり恥ずかしいわね~」
「そうだな。俺も恥ずかしくなって来た。…あっ、所でお前、仮面の方は?」
「あっ、大丈夫。まだちゃんと外れるのは感じるし、お遊び程度の事なら問題無いのかも」
「そうか。…ん?」
「アラタ、どうし…?」
「しっ!」
アラタが静かにする様促し、エミリアも同じ方向を見ると、海の向こうから大きな船がやって来た。
「船?一体何処の?」
「海賊船だ」
「海賊!?」
「あぁ。俺が受けたこの海での仕事、それは夜に現れる海賊を捕縛する事だ」
これより、エミリアとアラタの長い夜が始まる。
海のトラブルの1つと言えば、海賊である。




