第1話
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アルテミシア王国、王宮謁見の間
エミリア・フォン・アルテミシアは、両親である国王夫妻と報告会をしていた。
「セフィア王国の会議、ご苦労だったなエミリア」
「ありがとうございます、お父様。…お母様、お兄様はどちらに?」
「アルベルトなら軍務で警備の会議に出席していますよ」
「エミリア、お前も遠出で疲れているだろう。まずは今日1日、身体を休めなさい」
「かしこまりました。失礼します」
そう言ってエミリアはハイヒールを鳴らしながら部屋を出る。
そんな彼女を2人は感慨深く見つめていた。
「…あの子も来月には学校に行くというのに、働き者なんだから」
「そう言うな。あの子もあの子なりに国の為に力になりたいと言ってるんだ」
「そうね。5年前のあの時から、色々頑張るようになったものね」
エミリアの自室
「それじゃあ、私は部屋で休むから、後よろしくね」
「かしこまりました。」
そう言ってエミリアはメイドを下がらせ、扉を閉じた。
人の気配が無くなったのを確認したエミリアは、姿見の前に立ち、仮面を外す。
「…ふぅ。本当に疲れた。セフィアにいる間は中々素顔に戻れなかったからな。しかしセフィアでの会議、無事に終わって良か…」
その時、背後のタンスから物音が聞こえた為、スレイはタンスを開けてみた。
その中に、エミリアと似た顔立ちの、金髪セミロングとショートドレスの少女がいた。
「…ユフィ?」
この少女はユーフィリア・フォン・アルテミシア。この国の第2王女である。
彼女が声を出そうとしたのを感じ、スレイも慌ててその口を塞ぐ。
「わぁー!待て!落ち着け!」
「一体どういう事ですか!?お姉様がいなくて寂しかったから、お姉様のお部屋で気を紛らわして、驚かせようとタンスに隠れて機を伺おうと思ったら、急にお姉様の顔が…!」
「そこら辺もちゃんと話す!話すからちゃんと落ち着いてくれ!」
そして、ユフィが落ち着いた事で、2人はテーブルに向かい合って座る。
「それで、一体どういう事ですか?」
「まずは俺の本名からだな。俺はスレイ・ワーグナー」
「ワーグナー?確か剣術の名家の?」
「そう。俺はそこの次男だ」
「確か次男は5年前に行方不明になったと言う話の筈です?」
「あぁ、そこら辺なんだが実は…。」
そしてスレイは、シェーラとの契約の経緯を包み隠さず話した。
「今まで騙してて悪かった。けど、今の家族が好きだってのは本当なんだ。信じてくれ」
「…貴方の正体の事を、他に知ってる人は?」
「あぁ、一応アルベルト兄さんは知ってる。父さんと母さんはまだ知らない」
「そうですか…」
そう言ってユフィは部屋を出ようとする。
「ちょっとユフィ…」
「近づかないで!」
「っ!?」
「…今まで私の傍にいたお姉様が偽物で、本物が死んでいたなんて、こんな話を聞かされて、穏やかでいられる訳ないでしょう?」
「そうだよな。ごめん俺…」
「気にしないでください。後、貴方の事は誰にも言わないのでご安心を」
そう言ってユフィは静かに部屋を出て行った。一筋の涙を流して。
夜、ユフィの部屋
ユフィは1人、暗い顔をして化粧台に顔を伏せていた。
そんな時、扉をノックする音が聞こえ、彼女は扉に足を進める。
「はい、どちら様で…」
ユフィが扉を開けた瞬間、大きな手が彼女に覆い被さる。
エミリアの自室
スレイはシェーラと通信していた。
「それで妹様の不興を買って嫌われちゃったと?」
「やかましい。一々揶揄うな。早く要件を言え」
「はいはい。近頃、国のあちこちで妙な動きが確認されたわ」
「…何だって?」
「本物のエミリア王女の死因を調べてたんだけど、過去読みを使って覗いてみたら、黒いフードを被った奴に襲われていた事が分かったの」
(やっぱりか。あの時の傷、確かに刺し傷だった。あの時点で俺も人的被害に気付いていた)
「この計画性のある徹底した動き、恐らく相手は組織、実行犯も末端と見るべきね」
「成程。なら犯人も、5年前のあの時、確かに殺した筈のエミリアが生きていた事は、想定外の事態だった筈だ」
「そういう事。私の方でも調べておくから、そっちの方もお願いね」
そう言ってシェーラは通信を切った。
そしたら慌ただしくノックする音が聞こえた為、スレイは仮面を付けて扉を開けた。
「どうしたのかしら?」
「エミリア様!大変です!ユフィ様が…」
「っ!?」
城の廊下を2人の黒いフードの男が駆けており、1人はユフィを抱えていた。
「5年前のエミリア暗殺失敗で城の警備が固くなったから、ほとぼりが冷めたタイミングでのユーフィリアの誘拐だってのに!」
そこに城の兵士達が道を塞ぐ様に立ち塞がる。
「止まれ!無駄な抵抗はせずに、ユフィ様を…!」
1人がその言葉を無視し、火球魔法で兵士達を吹き飛ばす。
そして足を進め、中庭に辿り着くと、剣を腰に掛けたエミリアが立ち塞がる。
「エミリア王女…!?」
「私の城で、私の妹に手を出そうなんて良い度胸ね。話は牢屋でじっくり聞かせてもらうわ。まずはその前に、ユフィを返して貰うわね!」
「ほざけ!」
ユフィを抱えてている1人が火球を放つと、エミリアは抜刀。そのまま火球を斬り捨てる。
「なっ…!?」
男が呆気に取られている間に、エミリアは魔力強化で接近。
そのまま男を斬り捨て、ユフィを奪い取り、近くの柱に寝かせる。
「…お姉様?」
「安心してユフィ。貴方は私が守るわ」
そしてエミリアはもう1人の男と対峙し、男も剣を構える。
「畜生!こうなったらお前から先に始末してやる!」
「やってみなさい。出来るものならね」
「舐めるな!」
男は雷を放ってけん制。エミリアもそれを防壁で防ぐ。
その隙に男は横へ飛んで剣を振るい、エミリアもそれを剣で防ぐ。
数回剣を打ち合った後、男が下段を払い、エミリアはそれをバック転で回避。
着地と同時に剣が交差、男が空けた手に魔法陣が展開され、それを見たエミリアはすぐさま男を蹴り飛ばして距離を取る。
「くっ…!まさかお前がここまで強いだなんて!」
「それはそうよ。これでもAランク冒険者をやってる魔法剣士だもの」
「なっ!?Aランク!?」
「陽光の姫君って言えば分かるかしら?」
「…思い出した!エミリア王女は王族の業務の傍ら、冒険者としても名を馳せていると!」
「不利を悟ったなら、大人しく投降しなさい」
「クソがぁー!」
男が手を掲げると、頭上に幾つもの魔法陣が展開。
そこから放たれる火球の雨をエミリアは避け、ジャンプして魔法陣を一閃。
そのまま炎の斬撃を飛ばして男を気絶させ、着地を決めた。
そしてエミリアはユフィに近づき、腰を下ろした。
「大丈夫、ユフィ?」
「…何で、私を助けたんですか?私は貴方を遠ざけたんですよ?」
「それは…」
「私は!…貴方が本物のお姉様じゃないと知ってショックだったんです。だってそうでしょう!?ずっと信じていたのに裏切られたんですよ!?だから本当は貴方の顔なんて見たくなかった!なのに何故私を助けたのですか!?本物のお姉様じゃない癖に!偽物の癖に!」
短い静寂の後、エミリアは静かに仮面を取った。
「…確かに俺は、あの家から逃げたいと言う考えで、死んでしまったエミリアの代わりの生活を望んだ。ユフィの言う通り、確かに偽物の家族かもしれない。でも…、それでも俺は、本当に心が暖かくなったんだ。あんな家と違って、俺の事をちゃんと見れくれる両親に、兄に、妹に、家族に恵まれた生活を手にする事が出来た。例え偽物でも、そこにあった心の繋がりは、確かに本物だった。だから俺は、王族としての仕事だって頑張ったし、魔法剣士の道も進んだ。本当に好きになった家族を守る為に」
スレイがユフィの頬を撫でると、ユフィは泣きながら抱き着いてきた。
「うぁああん!ごめんなさい!スレイお兄様、あんな事言ってごめんなさい!そして、助けてくれてありがとうございます!」
「よしよし…」
そしてスレイも、ユフィを優しく抱き留めた。ユフィが落ち着くまでずっと。
ユフィの自室
エミリアとユフィが楽しくくつろいでいると、そこにアルベルトが駆けこんで来た。
「ユフィ!無事か!?」
「あ、お兄様」
「お帰りなさい、アルベルトお兄様」
「ユフィ、お前が賊に拉致されたと聞いて、急いで駆けつけて来たんだぞ!」
「ご心配なく。賊ならお姉様が倒しましたわ」
「そうか。エミリア、お前もよくやった」
そしてエミリアもアルベルトの前に立ち、仮面を取った。
「ありがとう、アルベルト兄さん」
「っ!?…そうか、ユフィにも知られたか」
「そう言えばアルベルトお兄様はスレイお兄様の事知ってましたわね。何時から知ってたんですの?」
「剣術の稽古をつけた時からだ。あのエミリアが剣を教えて欲しいだなんて、変だったからな。長男の俺だから気付けた事だ。いきなり基礎が出来ていれば尚更な」
「お陰で俺も、立派な魔法剣士だよ。」
「立派な姫でもあるだろう?素顔の方も、ドレスが違和感なく似合うし、何より、素顔になってもお姫様の振舞い方のままなんだから」
「言わないでくれよ。城での生活で完全に癖になっちゃったんだから」
「あ、それ私も思った」
「ユフィまで!?」
こうして3人の笑い声が部屋中に響いた。
城内地下牢
今回捕らえられた2人の男の傍に、何処かの空間が映し出されていた。
その空間に移る人影が、2つの赤い玉を割ると、男達は息絶えた。
完全なる口封じの為に。
それから時は流れて謁見の間
エミリアは国王夫妻に挨拶していた。
「ではエミリア、お前も学園に入る時が来たな」
「はいお父様。私も学生としての務めを果たしてきます」
「エミリア、貴方なら大丈夫かもしれないけど、くれぐれも気を付けてね」
「ご心配なく、お母様。ちゃんと勉学に励みますし、長期休暇になったら城にも帰ってきますよ」
「それではエミリア、気を付けてな」
「はい。行って参ります」
そう言って、白いブレザーとミニスカートの制服姿のエミリアは、ローファーを鳴らしながら部屋を出た。
そして廊下で、アルベルトとユフィが待っていた。
「行ってらっしゃい。エミリアお姉様、スレイお兄様」
「行ってらっしゃい。エミリア、スレイ」
そしてエミリアも仮面を外して「行ってきます」と言い、仮面を付けた。
そしてエミリアは城門にて待たせている馬車に乗る。
その行先は、王立アルテミシア学園。
国中の若者達が集う学校である。
基本ファンタジー学園もののつもりで書いてます。




