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第15話

真面目な話を出します。

 アルテミシア城、謁見室

 エミリアは4人の事を国王夫妻に紹介していた。


「僕はカイト・ワーグナー。アルフォード兄さんがお世話になってます」


「ハルトマリー・メティーアです。エミリアさんとは魔法関係で手伝って貰ってます」


「スバル・フェニアです。私も教会代表として、お会い出来て光栄です」


「アラタ・ホシミヤです。勇者の血族として、王族にお会い出来て光栄です」


「そんなに畏まらなくても良いぞ。カイト、ハルトマリー、スバル。エミリアが学園で大変世話になってるな。しかし、勇者の血族か。私も会うのは初めてだ。何か特別な事でもして過ごしているのか?」


「いえ、勇者の話はもう500年前の事ですし、最近では形骸化してしまっています。ですので、俺の様に受け継がれた才能を活かせる職に就いている者がいれば、一般社会に入って、日常の中で過ごしている者もいます」


「そうなのか。それは残念な気がするな」


「父上、もうお話は宜しいでしょうか?」


 声のした方に振り向くと、アルベルトが部屋に入って来た。


「おぉ、アルベルト。すまんすまん。そう言えばエミリア達も仕事で一旦城に来たんだったな」


「でしたら、これ以上此処に留まらせる訳にはいきませんね。皆さん、今日の所はここまでにしましょう」


「よし。では皆、俺の執務室へ」


 そしてエミリア達は、アルベルトの案内の下、彼の執務室へ向かう。




 アルベルトの執務室

 そこには既にアルフォードとシェーラが居た。


「さて、今回お前達が持ち帰った情報を整理しよう」


「今回私達が足を踏み入れたアジトは、幾つもあるものの中の1つでしかなかったわ。然も侵入者に敗れた場合の、自爆装置を初めとする保険付き」


「5年前、私の村の近くにもアジトを構えていて、そこから私達姉弟の事も調べていたみたい」


「その場所については、俺も調査隊を派遣しておく。場所も教えといてくれ」


「交流会の時に捕らえた連中だけど、あいつら詳しい事は知らなかった。恐らく何時でも切り捨てる事が出来る下っ端よ」


「私達が奴らのアジトから持ち出したレポートよ」


 そう言ってエミリアは研究レポートを机に出す。


「これは…!?新人類の開発と言い、龍脈や霊類の交信と言い、何とも大掛かりな事を目論んでいるみたいだな」


「異次元間ゲート…。確か、この世界以外にも幾つもの平行世界が存在し、世界観が違ったり、同じ世界でも時代や年代が違ったりと、色々な世界と昔繋がった事があると言われているわ」


「それは、俺達の先祖、初代勇者の事も含まれている。500年前、彼は神に選ばれ、この世界に召喚されて、そのまま勇者をやる事になったと言う話だ。確かその時彼は、"ニホン"と呼ばれる国から来たと言われている」


「貴方のホシミヤって名字、何か変わってるなと思ったけど、もしかして…」


「あぁ、俺の血筋が使ってる名前も名字も、元々そのニホン由来の物が使われている。元の故郷の血筋故か、外見的特徴だけでなく、優しさを初めとする内面的特徴も受け継がれているんだ」


「恐らく奴らは、その世界以外の世界の人間や技術等を取り入れたいと考えて良いだろう」


「取り敢えず、俺達の取るべき行動は、組織の人間の捕縛、奴らのアジトの調査、研究内容の把握とその先の目的に関する分析、それに伴う先手と打開策だ。然も、何時何処に組織の人間が潜んでいるか分からないから、この任務は、それぞれ信用出来る人間だけで行うものとする」


「なら私達は、方針内容が決まるまでは、学生らしく日常を過ごしておくわ」


「私も、色んな伝手を使って探りを入れておくわ」


「俺の所属している隊については、問題無い筈です」


「さて、全員理解したら、この会議はここで終了とする」


 そのタイミングで扉が開いたと思ったら、ユフィが部屋に入って来た。


「お姉様、おかえりなさいませ!」


「ユフィ!えぇ、ただいま」


「聞きましたよ、勇者の血族の方が来ていると」


「あぁ、アラタ・ホシミヤと言う」


「ユーフィリア・フォン・アルテミシアです。早速ですが、一緒にお茶会どうですか?」


「そうだな。折角だから皆で頂こうか」




 食卓の間

 エミリアもドレスに着替えて、皆でお茶会を開いていた。


「お姉様、今日はお城にいてくださるのですよね?」


「えぇ、ユフィが顔を見たがるだろうと思って、寮にも外泊申請を出しといたの」


「それじゃあ今晩のお相手、お願いしてもいいですか?」


「仕方ない子ね。付き合ってあげるわ」


「わーい!ありがとうございますお姉様!」


「…一応聞くが、ユーフィリア王女はエミリアの正体を知っているのか?」


「あぁ、ちゃんと知ってる」


「私もエミリアお姉様もスレイお兄様も、どっちも同じくらい好きですから!…所でお聞きしますが、お姉様って、男性と女性どちらをお好きになるのですか?」


 その言葉に、エミリアもむせた。


「…ま、まぁ私も、男としての身体をシェーラにあげちゃってるし、今使ってる身体も完全な女の身体だから、今後好きになるなら、男の人になるかなとは思ってるわよ」


「まぁ俺も、エミリアがちゃんと選んだ相手なら文句は言わんが、そいつが不逞な輩だったり、エミリアの心を傷つけようものなら、刑罰も辞さないがな…」


「こちらも家との縁を切られてるとは言え、兄弟なのに変わりは無いから、俺もその手の輩だったら、我が剣で斬り落とす所存ですよ…」


「僕もそう言う話なら、同意見を出してるかな…」


「私も大好きなお姉様を泣かせる様なら、同じくらい怒りますけど…」


「…なぁエミリア、お前の兄弟達、凄い物騒な事を言い出しているんだが…?」


「えぇそう?私もこの4人に近づいて来る人がそうだったら、権力と武力両方使った制裁も辞さないけど…」


 この兄弟達を見た一同はこう思った。


(似た者5兄弟…)


 そこにシェーラが口を挟んでくる。


「男の人を好きになるなら、貴方は完全なエミリアになりそうね」


「それってどういう…?」


「おとぎ話によくある話よ。その仮面が自由に付け外しが出来るのは、女としての幸せをまだ感じていない段階だから。貴方が自らの女の身体を完全に受け入れ、そして男に恋して、最終的にお互いで愛を誓い合ったその時、その仮面は完全に貴方と同化し、晴れて貴方は完全なエミリア・フォン・アルテミシアとなる」


「…えっ?スレイとしての私が無くなる…?」


「そう言う事になるわね。と言う訳だから、貴方もこの話、ちゃんと考えるのよ」


 そして時は流れて、お茶会はお開きとなった。




 夜、バルコニー

 エミリアは1人、夜空を眺めて、物思いに耽っていた。


(私が女として男に恋して、完全に両想いになったら、私は完全にスレイじゃなくなる。そんな事考えた事も無かった…。確かに今の生活は、自分で望んで手に入れたものよ。そうなるのも仕方ないかなとは思っている。でもやっぱりモヤモヤする)


「こんな所で一体どうした?」


 そこにアラタがやって来る。


「あぁ、アラタ…。実は昼のシェーラの話の事を考えてて…」


「あぁ、その仮面が外れなくなるって話か?」


「えぇ。自分で望んだ事とは言え、やっぱり寂しく感じちゃって…。そりゃあ、もう男で無くなった以上、もう女の人を愛せないのは変わりないし、この身体も女である以上、男の人しか愛せないのは受け入れている。でも、いざその時が来ると、未練が残らずに済むのかなって思っちゃって…」


「だったら、未練を作らない様にすれば良いだろう」


「それってどういう…?」


「まず、心のつっかえになってるものを1つずつ片付けて行けば良い。例えば、国王夫妻にちゃんと正体を明かして、実家との因縁に決着を着けるとか」


「えっ!?でもそんな事してあの2人にちゃんと受け入れてくれるかどうか…」


「結果がどっちに転がろうと、覚悟を決めて対決しなければ前に進めない。初代勇者だって、そうやって運命を切り開き、今の世界の礎を築き上げたんだからな」


「…分かった。2人には明日ちゃんと話す。でも実家は考えさせて。まだ踏み込む気にはなれないから」


 そんな2人の会話を、シェーラとハルトマリーは影から覗いていた。




 翌朝、謁見室

 今、この空間は王族とワーグナー兄弟だけが存在していた。


「エミリア、人払いをしてまで話したい事とは何だ?」


「私がお2人に隠している事についてです」


 そう言ってエミリアは仮面を取る。


「これが本当の俺、スレイ・ワーグナー。剣の名家ワーグナー家の次男です。5年前のエミリアが城から姿を消した日、あの日本物のエミリアは既に何者かに殺された後で、それを偶然見つけた俺が、そこを通りがかった魔女に頼んで、俺の男としての身体を差し出す事を条件に、俺の頭をエミリアの身体に繋がれ、このエミリアの顔になる仮面を持たされました。あの時俺も、実家の事が嫌いになってた上に、国中大騒ぎになる可能性もあったので、仕方のない事だったんです。確かに俺は貴方達の本当の娘では無いです。でも、此処での生活は、実家の時と違って本当に楽しくて、暖かくて、幸せな日々だったんです。2人が受け入れられないなら、俺はこの城から出ていきます。けどこれだけは言わせて下さい。今まで俺の事、愛してくれてありがとうございました」


「…そうか、やっぱりか」


「やっぱり?まさか気付いてたんですか?」


「薄々な。今まで剣を取ろうとしてこなかったエミリアが、急に剣を習い始めた時点で気付いていた。でも、お前も何か事情があってエミリアの振りをしてるんじゃないかと思い、黙っていた」


「自分の子供の変化くらい気付きますし、貴方が悪い子ではないのは、これまでの日々で分かってますよ。それに、私達もちゃんと貴方の事を私達の子供として受け入れてますよ。素顔になっても、お姫様の挙動のままなのも、貴方がちゃんと幸せな日々を過ごせている証拠です」


 そしてオズワルドはスレイの頭に手を置き、エルメシアもスレイを抱きしめる。


「これからも、お前は私達の娘であり、息子だ。改めてよろしく頼むぞ、スレイ」


「私達も、これからもずっと貴方の事をちゃんと愛してあげますからね」


「…ありがとうございます、お父様、お母様…」


 その言葉にスレイも涙を流し始めた。

 そしてスレイが落ち着き、仮面を付け直した。


「…あの、私が使ってるこの仮面ですけど、例の魔女の話によると、私が女として男の人と両想いになった時、これは完全に私の顔になり、私も完全なエミリアになると言う話なんですけど、2人は私と、私の見染めた人を祝ってくれますか?」


「あぁ、構わん。お前がそうまでして一緒にいたいと思ってるならな」


「私達も貴方の親として、貴方の幸せを祝ってあげますよ」


「ありがとうございます」


「それはそうと、ワーグナー家についてはどうする?お前の事を教えなくていいのか?」


「…あそこについては、決心が付いたら、私の口から直接話します」


「そうか。…所で、婿の話なんだが、アラタ君はどうだろうか?彼は勇者の血族だし、Sランク冒険者。然もギルド職員を初めとする人達からの信用も厚く、見たところ、彼も確かな人格の持ち主だ。私達も、彼を婿養子として迎え入れても構わないと思っている」


「えっ!?ちょっと、それはまだ早いです!彼とはまだ知り合って間もないですし!」


「貴方も彼の事、意識してるんじゃないの?」


「お母様まで!」


 エミリアの恥ずかしがる声が部屋中に響いた。




 城門前

 エミリア達5人が間も無く出立する所だった。


「それでは、私達は学園に戻ります」


「俺もギルドに行って、仕事の確認をしておく」


「うむ、気を付けてな」


 そして5人を見送り、ユフィも城の中に戻った後、アルベルトが声を掛ける。


「父上、先程の本物のエミリアが殺されたと言う話ですが、どうも大きな組織が関わっているそうです。然も奴ら、この世界そのものに大混乱を招く様な事態を引き起こしかねません」


「何!?…分かった。その件は私の方でも秘密裏に動いておこう」


 その時、その場にシェーラが転移して来た。


「そなたは?」


「私はシェーラ。先程のスレイをエミリアに変えた件に出て来た魔女で、ハルトマリーの師匠よ。今の話については、私の方でもキチンと仕事として引き受ける気でいるわ」


「そうか。今後ともよろしく頼むぞ、シェーラ殿」


「はい。お願いしますね、国王陛下」




 ギルド、食堂

 エミリア、カイト、ハルトマリー、スバルで昼食を取っていた。


「所で姉さん、さっき国王様に言われた事なんだけど、アラタさんを意識してたりは…?」


「またそれ?さっきも言ったけど、彼の事は何とも思ってないわよ」


「でもお似合いだと思うわよ?あの人本当にカッコイイし、強くて優しいし」


「ハルトマリーまでそんな事言うの!?」


「私もエミリアが幸せなら、式場で目一杯祝福してあげるね」


「スバルもまだ早いってば!私もまだ気の良い相談相手ぐらいしか思ってないわよ!」


「何か賑やかだな?」


 そこにアラタがやって来た。


「あっアラタさん、実は…」


 エミリアは慌ててハルトマリーの口を塞ぐ。


「実はね、これからの為に鍛錬でもしようかなって~。良かったらアラタも付き合ってくれる?」


「ん?あぁ、別に構わんが」


「やった~。ありがとう。それじゃ食事済ませたら修練所ね」


「あぁ」


 そして食事を済ませた5人は、修練に励むのだった。

 エミリアの周りの者達も、エミリアの恋の行方を期待しているのだった。

ここら辺もどう転ぶかは分からない。

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