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三話:夢の続きを

ここは・・・


 朔の周囲は暗かった。しかし、不思議と自分の体は視認することが出来る。ふいに光が生じたと思うとマンションのリビングが現れた。物は何も置かれておらず生活感がまるで無い部屋。


「うぇぇっ…ぇぇ」


 無機質な空間に子供の泣き声響く。声のする方に振り返ってみると、窓際に泣きべそをかく小さな男の子が立っている。


 男の子は目を両手で押さえ、口は泣く声を噛み殺そうとして食いしばるようになり、涙は幾重にも分かれて流れて頬を伝わって零れ落ちていく。


 朔にはその男の子が誰だか直ぐにわかった。机も本棚も家財道具が置かれていないリビングの中央で窓を背にして泣いているのは自分だと。


 しかし朔には一つ分からないことがあった。


(何で僕は泣いていたんだ?)


 いや泣いていた事は覚えている。しかし、その理由がどうしても思い出せない。


 そのような疑念を持ちつつも未だ泣き止まない男の子にそろそろと歩み寄り男の子まで残り半歩の所まで近づいた時に突然男の子は泣き止んだ。

 急な出来事に朔はいぶかしむも手を男の子の頭に乗せて撫でようとしたがその瞬間に直ぐに手を引っ込めた。

 なぜなら尋常ではない冷気が朔の手の温もりを奪い去ったからだ。


 自分の手に感じた明らかな異変に驚きを隠せず朔は男の子を改めてまじまじと注視した。

 

 相変わらず目は両手で押さえられているが、先ほどまで食いしばっていた口は何事もなかったかのように自然に結ばれており泣きじゃくっていた子供は鳴りを静めていた。


 打ってかわった様子に朔は何もすることも出来ない。さらに言うなら怖くて今すぐにでも走り出して逃げたいのに何かに吸いつけられて体を目を男の子から離すことが出来ない。


 そんな朔に気が付いたのか男の子はゆっくりと手を下ろし、俯いていた顔を上げ朔を見つめ返した。


 男の子の瞳は鮮血の如く赤く染められ、ニターと獰猛な笑みは瞳の異様さを引き立たせている。

 朔はその瞬間に驚愕で目を見開き、息をすることも忘れた。


「嘘つき。」


 耳元まで裂けた口から言葉を発っせられる。その何もかも見透かされたような言葉の音色に心を抉られる錯覚に陥り悪寒が止まらない。そればかりか視界も徐々に霞みだし足も覚束ない。


「くく…くっはあはははははははははあ」



 甲高い笑い声が響きながら再び目の前は真っ暗になっていった。



――――――――――



 シャーとカーテンは開かれた音が聞こえたと思うと暗かった部屋に陽光が差し込み部屋を満たした。


(まぶしい・・・・)


 ハジメの瞼を通して眼球にまで光が照らされる。ベッドの中で目をしょぼしょぼさせながら光が入る窓に背を向ける体勢になった。


(はー、凄まじい夢をみたなあ。しかも二つともなんと強烈な。)


 眠っていたはずなのにドッと身体が疲れていて重い上に心なしか左腕が若干痛い。きっと眠っている最中に自分の腕を無意識に強く握ったせいだろう、そうハジメは結論付けた。

 そして今朝見た夢を反芻してみる。


 目を覚ましたと思ったら森の中で目の前になんかとてつもなく大きなワニが現れて気付いたら空高く吹っ飛ばされて左腕は大変なことになった。ワニが飛び掛ってきたと思ったらすんでの所でワニの首が飛び血のシャワーを浴びて、目の前には美人さんが立っていた。


(怒涛の展開だったなあ。まあ最後は自分の小さい頃のだったけれど気味悪かったわー。)


 あ、でもあの美人な女の子は眼福だったとベッドの中でにんまり顔するハジメなのであった。


ゴソゴソ


 背後の窓側から何やら蠢く物音。


(この音はまさか黒いダイアモンド、Gか!?)


 ガタンと何かがぶつかる。


(いや、Gにしては音がでかい。というよりそんなおっきなGが自分の部屋にいたらきっと発狂する。)


 そこでハジメはふとあることに気付いて冷や汗が垂れる。


(そう言えば、カーテンは一体誰が開けた!?)


 ハジメは高校生ながら一人暮らしをしておりカーテンが一人でに開くことはありえない。ということは・・・・


(泥棒か・・・。いや、しかしこんなご丁寧にカーテンを開けてくれる泥棒さんっているのか!?はっ、待てよ。今入って来たばかりか。入りたてか!?)


パニックに陥りそうになりながらも静かに深呼吸をして冷静を保つ。


 ハジメはごくりとして意を決してゆっくりと細心の注意をはらい寝返りを打つとそこには長い金髪が目に入った。その手触りのよさそうな髪を持った女性がまとうはメイド服。

 その美人(推定)メイドさんはなにやらしゃがんでハジメに背を向けた状態だった。


(うおーー。なにこれ。新手の泥棒か!?)


ハジメ大興奮


 未だかつてこのような事が人生で起こったことがあっただろうか、いやあるまい。朝目が覚めたら目の前にメイドさんなどアニメか漫画か金持ちの世界だけ。それなのに今こうしてメイドさんが確かにいる(泥棒かもしれないが)。


 ハジメの視線に気が付いたのかメイドはゆっくりと立ち上がりハジメも合せて視線を上げていく。


上げていく。


上げていく。


上げていく。


(・・・・・・・・・・・・・・・デカ!!)


 ハジメの目に映るのは身長2メートルの体躯。

 灰色の袖から伸びる巨木のようなたくましい腕。

 膝したまであるスカートからちらりと覗く、引き締まったむくつけき足。

 ハジメに背を向け窓辺に立ち光に照らし出されるその後姿は雄雄しき戦士のようだった。


 そのメイドらしからぬ異様な体躯にハジメは顔を引きつっていた。


 未だかつてこのような事が人生で起こったことがあるだろうか。


(いや、あってたまるか!!)


 「お目覚めになりましたか?」


 丁寧な語調を彩るハスキーヴォイスが部屋中を駆け巡り、こだまの如くハジメの脳内で響きわたる。それは金縛りのようにハジメの動きを奪ったのだった。


三話更新しました。次回から本格的に異世界の生活がスタートします。お待たせしてすみません。

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