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零 夢見草の盟約
「いつか、自由になったら」
—春
桜吹雪の舞う季節。
咲いたばかりの桜の花弁が、風に吹かれて散ってゆく。
ひだまりのもとで、皆が春の訪れを喜ぶ中。
日陰の中で、憂う者たちがいる。
それは、決して日の目を見ることのできぬ存在。
神仏に祝福されず、神仏に仇なす呪詛を極める、人殺しに長けた者たち。
血湧き肉躍る戦乱の世。
呪い事を用いて戦況を操り、主君に仇なす敵を秘密裏に呪い殺す。
剛健な武将でさえも彼らに助力を願い、その力を用いて勝利を手にした。
だが、彼らの中にそうして生きることを望む者など、誰一人いない。
一本の桜の大樹を、五人の人間が見上げている。
呪い事を操る人間—巫覡たち、信長という将軍に仕える「花喬影」の衆。
大輪を咲かせ、けれど儚く散ってゆく桜の姿に、彼らは自らの様を重ねる。
今だけは、この桜に想いを馳せることを許される。
この時だけは、夢を見る。
桜の花弁に触れ、ひだまりに身を置いて。
—いつか、自由になったら。
—みなで笑い合おう。この桜の木の下で。
これは、盟約。
自由になれぬ彼らが、桜の花弁に想いを託した、儚い盟約。