9 城の夜
(眠れない)
センカは寝返りを打った。
バスの中でかなり眠ってしまったらしく、眠いのに意識が消えてくれない。
(ここってたぶんお城だよね。使用中のお城なんてめちゃくちゃレアじゃん。は、ルーギルさんてリアル王子?武器とかも本物? あー 観光したい。勝手に動いたら怒られるかな)
考えが止まらなくなって余計に目がさえる。
(トイレ行きたい‥ それくらいならオッケーだよね)
もぞもぞ部屋を出て、手探りで先ほど案内された原始的なトイレまで歩く。
ロウソクはなかったけど、トイレの窓から星明りが見えるから十分。
(せっかく魔法が使えるんだから、もっときれいにしてほしいよ)
ひしゃくの水で手を洗いながらセンカはため息をついた。さすがに水洗トイレは存在していないようだ。
部屋に帰ろうかとも思ったけど、好奇心がわいた。
(廊下の突き当りに扉があるはず)
手探りで扉を探し当て、かんぬきを外す。
星が見える。城壁のシルエットがハッキリ分かる。
所々にたいまつの火があり、兵士らしき人影も見える。センカはこっそり近づいた。
「なぁお前、異世界人は見たか」
兵士はセンカ達の話をしている。
「ああ、変な服だったぞ。本当にあんなのが役にたつのかね」
「さあな。上の方の考えは分からんよ。魔法で何とかするんだろう」
一般の兵士からの心象は良く無い様だ。
センカはそこを離れ、違う明かりに向かった。
「どうですか様子は」
こっちにも二人いる。話しかけられた方が首を振る。
「戦士としては期待できない。だが魔法の飲み込みは良かった。要は使いどころだな」
火がゆれて顔が見えた。一人はルーギルだ。
(うちらって失望されてたのか)
そりゃ戦いなんてテレビでしか知らない人間が、戦場で役に立つ訳がない。
「明日から訓練だが、そこで物に成らなければ‥」
「全滅ですね」
もう一人のさわやか君が怖い事をサラッと言った。
(ぜ、全滅)
聞いてない。センカは真っ青になった。
「向こうの人間が亡くなった場合、どうなるのでしょうか」
「さあ。生きていれば元の世界に戻されるそうだが‥ 途中で死ぬケースはどうなんだろうな」
センカの心臓がバクバクする。
「その時になって騒がれても困る。こちらで死ねば向こうに戻れるとでも思わせるか」
センカは後ずさりして扉に戻った。
(怖い。イケメン王子怖い)
大体、今の話を聞いたところでセンカには何も打つ手が無い。
戦わされるのは決定事項なのだ。
(後方支援の魔法を覚えて、前線から外されるようにするか)
作戦を練りながら扉に手をかけ力を入れる。が、開かない。
ガタガタさせても無理。どうやら中から誰かに閉められてしまったようだ。
(どうしよう)
センカはパニックになった。今まで手探りで来れたのは、一回通った道だからだ。
(別の通路を探すしか無いの?)
できなくはないが、時間はかかる。
さっきの場所まで行けば誰かに助けてもらえるだろうが、こっそり出てきたのはバレたくないし。
「どうしたの」
声が聞こえる。センカはビクッとした。
(見つかった)
センカは観念して声の方を向く。星明りの下には誰かが立っていた。
「すみません、トイレに行ったら、帰り迷っちゃって」
誰かは近づいて来る。センカと同い年くらいの男の子だ。
「ふうん城の外まで。それは大変だね」
彼はニヤッとした。
(うっこっそり探検したのバレてる)
「ボクなら魔法で開けるけどね」
彼は楽しそうに笑うと、そのまま歩いて闇に消えた。
(ああ、そっか)
かんぬきを持ち上げるイメージを作ると、コトンと音がして扉が開いた。