8 ヒメコ 2
健気でかわいい女の子役は脇役に丸投げします。
戦えって言われた時は頭が真っ白になった。
(私に? 無理だよ、怖い)
領主はため息をついた。
「魔法とは不安定な力でして、こちらから選ぶことはできかねるのでございます。ただあなたがたは、けして非力な存在ではありません。あれを」
開いた扉から誰か入って来る。
(あの人だ)
ヒメコのほっぺたはまた暖かくなった。
さっき手を取ってくれた男の人と長いドレスを着た女の人がきれいな箱を持ってくる。
「妻のオルハと息子のルーギルにございます」
おじさんと彼は親子らしい。奥様は優雅におじぎする。
(ルーギルさんって言うんだ‥)
ルーギルさんが箱から小袋を出して、一人ずつに配りだした。ヒメコにも渡される。
ししゅうで飾ったかわいい袋の中には水晶みたいな小石が入っていた。
「魔法石にございます。お手に取り、願いをおかけになってみて下さい。みなさまそれぞれの魔法が使えるでしょう」
(魔法‥石?)
ヒメコは信じられずに小石を見つめた。異世界とか魔法とかそんなアニメみたいなこと本当だなんて思えない。
でもすぐに考えは変わった。目の前で人が宙に浮かび、魔法陣から火花がはじけたりしたのだ。
「石が与える力は持つものに作用されます。色々お試しになって下さい、ただ身体能力の強化は体の負担になります、お控え下さい。炎は見えているだけで、ほとんど熱くありません。無い物を出現させるのは難しいかと」
ルーギルさんが優しく注意してくれる。
「我が国の戦士でも魔力を多く持つ者は少なく、我々にも魔術は未知の部分が多すぎるのです。皆さんにはぜひ術の研究をしていただきたい」
「いや、待てって。そもそも人殺しなんてできませんよ」
マッチョなホテイさんが声を上げる。
こんな強そうな人でさえ無理なんだから、ヒメコには絶対できない。
「それならご心配はいりません。みなさんに戦っていただくのは人間ではないからです」
アノールの冷静に周りを制した。
「人が相手でしたらまだ簡単なのですが‥。今、我々の敵は人間ではなく魔物なのです」
魔物は動物みたいなのかなと思ってすぐ頭を振る。
(動物と戦うなんて、嫌)
アノールはゆっくり語りだす。
昔は豊かだったこと、灰色の森から魔獣が襲ってきたこと。
ここの人たちの生活が大変なこと。
「助けるって、私たちにできることでいいのかな」
ヒメコは思わずつぶやく。ルーギルさんはうなずいてくれた。
「もちろんでございます」
(私にできることって何なんだろう?)
そのまま夕食になる。そこでヒメコを最初の試練が襲った。
(うっ)
口に含んだ液体のまずさにカップを落としそうになる。
周りの反応を確認するとクセの強いビールらしい。すぐに水に替えてもらった。
でもその水すら苦い。
料理は薄味で固いお肉ばかり。慣れない発酵食品のにおいにヒメコは食欲を無くしてしまった。
(私にできること‥まず料理から変えなくちゃ!)
経験がさほどないことは置いておく。
食事の後案内された部屋はとても質素。同室の女の子は同い年らしい。
「センカって呼んで」
(ちょっととっつきにくい子だけど、仲良くなりたいな)
今の日本人が中世ヨーロッパの料理を食べたら‥ 絶対マズいと思います。
美味しいのはイタリアくらいでしょう。
中世のイギリスに現代イタリア人シェフが転生したら‥
神の使いとあがめられるか、料理を麻薬扱いされるか、発狂死するかのどれかでしょうね。