4 魔法
長文が読づらければ読み飛ばして下さい。
「え、ちょっといいですか」
センカはイスから立ち上がって、もう一度念じながらジャンプした。
周りがセンカにギョッとする。
「ええ~」
高校生君が声を上げる。
そりゃそうだ。センカの体はゆっくりと1メートルほど浮かび上がり、ゆっくりと下りてきたのだ。驚かない方がおかしい。
「俺も」
茶髪さんも試してみた。ピョンとはねると、高い天井に頭が届くほどのジャンプになる。
「オリンピックで金メダルじゃん」
みんなが魔法を試しだす。
広間の中に魔法陣が出現する。炎が上がり、雪が舞った。
「何でもできるの?」
センカがぼうぜんと尋ねると、アノールとルーギルは首を振った。
「そうでしたら良いのですが」
使う人によって発動できる魔法は違うそうだ。
「身体能力の強化は、やりすぎると体の負担になります。炎は見えているだけで、ほとんど熱くありません。無い物を出現させるのは難しいかと」
「え、ショボい」
思わずセンカの口から悪口がこぼれてしまった。
「本当だ‥ さわれる」
男子高生が炎を出してつぶやく。
「こんなんじゃ戦いにならないじゃん」
センカは抗議した。
戦えと言われるのなら、それなりの準備くらいは整えてくれないと。
「そうおっしゃわれましても、魔術に関しての研究は資料がほとんど残されておらず‥」
アノールのことばによると、何でも今は魔力を持つ戦士が少なくてデータもほぼないらしい。
「皆さまには魔法の研究も行っていただきたい」
「いや、待てって。そもそも人殺しなんてできませんよ」
マッチョさんが声を上げる。
それはそうだ。みんなザワザワさわいだ。
「それならご心配はいりません。みなさんに戦っていただくのは人間ではないからです」
アノールは冷静に周りを制した。
「人が相手でしたらまだ簡単なのですが‥。今、我々の敵は人間ではなく魔獣なのです」
(マジュウ‥ 魔物? 魔法に続いてファンタジーだな)
アノールはゆっくり語りだす。
「昔、世界は広く人々は同じ言葉を使っていました。争いは起こらず暮らしも豊でしたが、ある時、森の一部が灰色に染まり、そこからたくさんの魔獣が生まれ、人々を襲い始めたのです」
魔法の研究も、その時までは盛んだったらしい。
「戦士たちは魔獣と戦いましたが、悲劇はそれだけでは終わりませんでした。恐ろしいことに大地が揺れ裂け目が生まれ、人々や家を飲み込んだのです」
その混乱により研究が失われたそうだ。
「動ける者は無事な町に移りましたが、そこでも疫病が流行り、大勢の人々が亡くなってしまいました。その後捨てられた土地には灰色の木が生まれ森になり、魔獣の勢力は広まりました」
みんなは静かに聞き入った。
「そして国はバラバラになり、いくつもの王国が誕生し言葉も変わってしまいました。しかし魔獣の襲来が止んだ訳ではありません。国王陛下は信頼できる諸侯を国境の近くに配置し、守らせることにしました」
このセタカの町もそんな辺境の一部だとか。
「私には魔獣から領民を守る責務があります。どうか皆様のお力をお貸し下さい」
アノールの物語は終わった。広間は静まり返る。
「まあ、大変だったんだな」
サラリーマンさんが口を開いた。
「助けるって、私たちにできることでいいのかな」
ワンピース女子のつぶやきに、オジサマとイケメンがうなずく。
「もちろんでございます」
「それくらいならやってみるか」
ほとんどのメンバーは納得したみたいだ。
センカにはまだ戦う決心はできない。ただ異世界の話が聞けて楽しかった。
(異世界に行きたいって願いが本当にかなうなんてね)
炎はほんのり暖かく氷はヒンヤリする程度。