39 この木なんの木
釣りはここでは少ない娯楽の一つだ。
夏は肉より魚の方が食卓に並んだ。
異世界組ではアダチさんが好きで、五日に一度の休みには必ず川に遊びに行く。
「センカちゃん、ちょっといい?」
講義の後、センカはアダチさんに声をかけられた。
「あ~ この前の見回りの時にさ、魚釣りの餌の虫見つけたじゃん。どこで採ったか覚えてる? あ、木の近くまで案内してくれるだけでいいんだけど」
いつもはチャラいと思っていたアダチさんが、気持ち悪い芋虫についてはセンカを気遣ってくれる。
さすが奥ゆかしい日本人だ。
「構いませんけど、馬が必要ですから。貸してくれますかね」
前線基地に向かうには馬で3時間はかかる。
「コウタ殿も魔獣狩りに参加されては?」
ルーギルに相談したら意味深な笑顔で誘われてしまった。
「え、どうしよ」
蒼白になったアダチさんは、とりあえず一回だけ参加を決意する。
「ね、ねえセンカちゃん、今魔獣が少ないのは本当なんだよね? ね?」
アダチさんはやっぱりチャラ男だった。
夜回りでも全然役に立たない。
「無理、無理だよう~ 俺には怖いって!」
周りから白い目で見られる。
(ついて来たなら覚悟を決めればいいのに)
隊を率いるルーギルもため息をついた。
昼の休憩時間はみんな基地周りをブラブラしている。
センカはアダチさんを灌木の茂みに連れて行った。
アダチさんは、幹やツルや緑の実を凝視する。
「やっぱりそうだ‥ センカちゃん、これブドウの木だよ」
アダチさんは目をキラキラさせた。
木についた虫はブドウ虫と言うらしい。
釣り好きのアダチさんは果樹園で採取させてもらっていたとか。
ブドウの木は探したら他にも何本もあった。
「秋になったら採りに来なくちゃ」
(ブドウ好きなんだな)
ニコニコしながら基地に戻ると、無表情のルーギルが待っていた。
「私の目を盗んで、男女が二人で茂みに入るとは何ごとですか」
(うわめっちゃ怒ってる)
「別に何もありませんよ、ブドウの木を探していただけです」
センカはふくれて言い返した。
「しかしですね」
ルーギルはセンカの肩に手をかけた。
「私は今貴方を口説いている最中なのですから、誤解を招く行動はおひかえください」
そしてアダチさんをにらみつける。
「断っている最中だってことも知ってますよね。私だって誤解されたくないんですけど」
センカは腕を振りほどいた。
アダチさんは目をパチパチさせている。
次回、何も解決しないまま最終回!




