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35 ヒメコ 9

 ヒメコは嬉しかった。自分にもできることがあったって。


 それからは治癒魔法の練習をした。もちろん、気のせいかもしれないから、こっそりと。

 


 毎日訓練はある。自分たちもお城の兵隊さんたちも生傷が絶えない。

 毎日みんなの快癒を願ってから自分の身体に治癒魔法をかける。



(私の力が本物で上達したら、ルーギルさんに褒めてもらえるかな、エヘヘ)


 そんな妄想を抱いていたのに‥




「ヒメコ殿、少しよろしいだろうか‥」

 ある日ルーギルがヒメコに声をかけてきた。


(え、え、こんなの初めてだよね)

 真剣なルーギルのまなざしに射すくめられてヒメコの頭はホワホワする。


「センカ嬢に‥ 贈り物をするとしたら‥ 何が良いだろうか?」



 頭の中が真っ白になった。



「か、髪がのびてきたから、まとめるリボンとか」

 かすれ声をしぼりだす。



「なるほど、ありがとう」


 ルーギルは頬を染めている。

 ヒメコの心臓が、ギュウッと痛くなる。


(ルーギルさんはセンカのことが好き‥?)



 頭の中がグルグルする。

 


 確かに最近、ルーギルとセンカは一緒にいる時が多い。


 ヒメコが何も言えないうちに、ルーギルは他の人を選んだのだ。



(告白できなかった私が悪いの?)


 自己嫌悪で胃が痛くなる。

 食欲もわかない。


 せっかく届いた塩を使った料理なのに。

 ヒメコは野菜のスープしか食べられなかった。




「ヒメコ、食事は食べないと体に悪いよ、お腹痛いんだったら薬もらってこようか?」


 センカが心配しているのは分かる。

 でもヒメコは彼女に優しくできなかった。


「ヒメコ、本当に具合悪そうだよ」

「別に何でもない」



 今はセンカとだけは話したくない。

 


 寝室に戻るとヒメコはベッドに入って薄手の毛布を頭からかぶった。


(私やな奴。センカがいい子だからルーギルさんに選ばれたんじゃん)

 

 涙が自然に出てくる。しばらくそのままにした。



 泣くと心は落ち着く。

 センカが部屋に戻ったころには冷静になれた。



「さっきはゴメン。色々嫌になって八つ当たりしちゃった。センカが悪い訳じゃないのに」

「うん」


 ヒメコの隣にセンカは座る。



 ヒメコはこの際、心に溜まった澱を吐き出す。


「もううんざりなの。固いお肉も固いベッドもタライの行水も! シャワーはないしシャンプーはないし化粧水も保湿クリームもないし。アイスクリーム食べたい、お味噌汁飲みたい、お米食べたい!」

 

 だけどルーギルさんのことは話せない。

 自分勝手なヒメコに、センカはうなずいて一緒に作ろうと提案してくる。

 



 だけど、異世界で文明社会の製品を再現するのは思ったより大変。

 まず、作るための道具も材料もない。


 この世界には余分な物資がないから。


 だから、欲しい物を作るための材料を仕入れるための交易を可能にするための馬車が通れる道を作るために、草刈りをすることになった。 [⋆ これはおひさま by谷川俊太郎 を参考]



 センカは優しいより我がまま人間です。ワガママタイプは他人の我がままにも寛容なだけ。

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