34 ヒメコ 8
ヒメコは気がつくとついついルーギルさんを見ていた。
(だってきれいなんだもん。でも迷惑かな?迷惑だって思われてたら‥ やだな)
話してみたいのに、ルーギルさんが近くにいると恥ずかしい気持ちが勝っちゃって何にも聞けない。
(彼女とかいるのかな‥)
まぁ毎日会えるんだけど。
(訓練じゃなくて遊びに出かけるとか、したいなぁ)
たまたま廊下ですれ違ったから勇気をふりしぼって聞いてみた。
「ルーギルさんも一緒に町まで買い物に行きませんか」
「今日は用事があるので」
部下の誰かに同行するよう命令するだけ。
(隊長って忙しいんだよね)
あきらめる。
そんなホワホワ時間はすぐに終わる。
「明後日の夜は満月です。みなさまがいらしてからちょうど一月になります」
ルーギルさんが重々しく口を開いた。
「二日後、実践に向かいます」
みんな息を飲んだ。もちろんヒメコも。
心が重い。
戦うことは分かっていたけど分かっていなかった。
暗闇の中、初めて魔獣を見たヒメコは恐怖で動けなくなった。
混乱するヒメコの腕をルーギルさんがつかまえてくれる。
だけど魔獣を倒したその後で、一人動かなくなった兵士にヒメコの頭は真っ白になった。
「もうやだ、こんな所にいたくない! 帰りたいよ!」
泣きじゃくるヒメコの手を、誰かがそっと握った。ルーギルさんだ。
心臓がドクンと動いて何とか泣き止む。
(ああ、私たち本当に全滅するかもしれないんだ)
センカの忠告を、今さらながら思い出す。
しかし、そのセンカがいなくなった。
気がついた瞬間、ヒメコは気を失う。
ヒメコは寝室で目を覚ました。誰かが運んでくれたみたい。
窓の光はまだ早朝だ。
(センカ、生きてて)
急いで服を着替える。
「ヒメコ様、センカ様がお戻りです!」
ネミさんが足早に伝えてくれた。
センカは無事見つかった。しかし足に大きな怪我があり発熱もしている。
ルーギルが寝台にそっとセンカを横たえた。
意識を失っているセンカを見て、ヒメコの顔は真っ青になる。
(お願い、魔法があるんならセンカを治して! 友達を助けて!)
ヒメコは必死に治癒を願った。
特に光ったりもしなかったけれど、センカは無事目を覚ました。
魔法は、効いたのだ。