31 隊商
センカが部屋から出ると、城の中が騒がしい。
「何かあったんですか?」
通りすがりの召使に聞くと、隊商が到着したのだそうだ。
「やっと買い物ができますよ」
その人はうれしそうに廊下を走って行った。
午後の授業にはセンカも参加した。
「魔獣の正体はまだ分かりません。今日はミカツキ国の歴史を勉強しましょう」
この国は多くの諸侯が集まってできた国らしい。
最南端の町がここセタカ。
「灰色の森の勢力が増したせいで東西の領地とも交流が停滞しています。以前は西の丘陵が通れたので交易が容易かったのですが、今残された道は北のみ」
「では今日到着した商人は北からなのですね」
元サラリーマンのタジリさんが発言する。
「はい。商人が来訪する頻度は西ルートと比べても問題はないのですが‥ 西の町より塩が手に入りづらく高価になります」
(ああだから料理が薄味なんだ)
センカにも内陸地では塩が貴重だ、くらいの知識はある。
(武田信玄の本だったかな)
「我が町は廃れる一方なので、ぜひ異世界からの来訪者であるあなた方に力をお貸しいただきたいのですよ。文献では魔法や文明を進歩させたらしいので」
内政面でも力が必要とされているらしい。
「でも、ない物を取り出すのは難しいんですよね。私、空気中から水蒸気を集めて水にすることは成功しましたけど、ゼロから生み出すことには失敗しましたよ」
サクマさんが声を上げる。
リケジョはすでに実験済みだった。さすが、とセンカは感心する。
「塩化ナトリウムを生成するなら、酢酸と水酸化ナトリウムを中和させればいいのですが」
サクマさんが言いよどむ。
「酢酸はお酢に含まれるけど‥ 水酸化ナトリウムの材料って‥ 塩なんですよ‥」
(ワオ詰んでる)
みんな遠くを見た。
「えっと西への街道は残ってますか?」
手を上げたのはオオチ君。こっちに来たばっかりはガリガリだったけど、今はまあまあ筋肉がついている。
「何とか」
クアモはうなずいた。
「じゃあ街道の両脇を整備すれば通れるんじゃ‥」
おお、とセンカは声を上げた。
「確かにそうですが、隣の町まで馬でも二日はかかります。野宿は到底できませんね」
クアモの言葉にオオチ君も残念そうだ。
「だったらさ、そこにも拠点を置けないかな?」
センカは体を乗り出して発言する。
「そこ?」
ヒメコが首をかしげる。
「野宿できそうなスポットに、魔獣が入れない家を建てるの」
「う~ん、町はずれまでならともかく、物資の搬入が問題ですね」
センカは考えこんだ。
(じゃあ、拠点を作るための拠点をさらに造る? 物資を運んで拠点を造るとなると、馬で行っても時間が足りない?)
何か答えを知っていそうなのに出て来ない。
「道の両脇を壁で囲むのは?」
「さすがに物資が足りません」
とりあえずその日の夕飯に、街道の周りの間伐も進言した。
少しなら進むだろう。
ヒメコはヒメオドリコソウ オオチ君はオオクチバス クアモはセアカゴケグモ ミカツキ国はカミツキガメから名前を取っています。 元を忘れたのもあります。