26 提案
ほぼ一日中横になっていたセンカは夜になっても眠くない。
ちょっとでも動こうとすると体が痛むのだから退屈極まりない。
(昨夜は散々だったな)
何もすることがないと、頭の中でひたすら独り言が続く。
(魔物って何だったんだろう。他の動物とは違うのかな)
センカは動物が好きだ。小さい頃は動物園にも良く行っていたし、今も野鳥観察や近所の猫は欠かせない。住宅地にまぎれこんだタヌキにエサをやった時だってある。
しかし魔物はセンカの知っている動物とは何が違うんだろう。
魔力を持った動物だろうか?
(私が、殺したんだ)
今さらながら恐怖と罪悪感に襲われる。
(怖い。もう二度とやりたくないよぉ)
でも襲われたら、たぶんまた撃退してしまう。
(何で魔物は人間を襲うんだろう? 襲ってこなければいいのに)
まあセンカ達の世界だって、熊の被害はあった。
(しょっちゅう来るんだったら、せめて毎回城から出撃、は止めてほしいよ)
もっと戦いが楽になるやり方はないのか、とセンカは思索した。
次の日にはやっと痛みも通常の筋肉痛に戻ったけれど、大事をとってその日も休んだ。
ヒメコもセンカの近くでブラブラしている。
訓練自体はあったけれど参加する気にならないらしい。
夕食はみんなと一緒に食べた。
「もう動けるんだ、良かった」
「傷はどう? 痛くない?」
みんなセンカの体は気遣ってくれたけど、あの夜何があったかは聞いてこない。
聞くのを怖がっているみたいだ。
「ルーギルさん、ちょっといいですか」
夕飯時にセンカは声をかけた。
「魔物討伐のことなんですけど」
穏やかだった周りの空気が変わる。
(多分みんな意図的にその話題はさけてるよね)
でも必要なことだ。いつまでも黙っているのは違う、とセンカは思う。
「次はいつになるんですか」
「それは‥正直いつでも。皆さんさえよろしければ明日からでもお願いしたいのですが」
(うわマジか)
乗り気のルーギルにちょっとセンカは引いちゃったけど、何とか会話は続ける。
「だったら相談があるんですけど、えっとまた馬に乗って現地まで行くんでしょうか」
「ああ、討伐はいつもそうだが」
「それ、何とかなりません? えっと前線基地とか作れば移動に体力や時間が取られなくて済みますよね」
「ゼンセンキチ? とは何でしょうか」
そこでサラリーマンのタジリさんがメガネをキランッとさせる。
「前線基地とは敵と対峙しやすくするため戦場近くに造る拠点のことです」
「出城のような物か」
アノールが納得したように声を上げる。
「しかし砦を建造するには時間も人手も物資も足りない」
「ちゃんと造らなければいいと思います」
ん、と周りが首をかしげる。
「森の近くに家を建てるくらいで、あの、何人か寝泊りできるくらいに。見回りとか交代制にしたらどうかなって‥あぁ勝手にすみません」
センカの声は段々小さくなる。みんなが怪しげな顔でセンカを見るから。
(何を言ってもどうせ無駄なのに)
みんな、の前でセンカの意見が採用されることは今までなかった。小学校でも中学校でも一度も。
だから今回もそうなるんだろうなとセンカは天井を見る。
「なるほど」
ルーギルの力強いうなずきにセンカは目をパチパチさせた。
「確かに敵が魔物であれば、そこまで堅牢な構造でなくともかまわないでしょう」
「寝泊り出来るだけの小屋なら可能だろう。数日おきの交代制なら見回りの効率も良くなるな」
アノールさんも賛成してくれる。
「簡易砦に使えそうな場所には心当たりがあります。まずは下見ですね」
討伐の話が先送りになって、異世界組は全員ホッとした。