23 初陣
センカ視点です。
そんなこんなでセンカも異世界ライフにも慣れて来た。
服装もシンプルな男装やワンピースが用意されるようになったし、野菜不足も解決した。
訓練もそこまで大変じゃなくなってくる。
そんなある日、訓練でルーギルが物々しく口を開いた。
「明後日の夜は満月だ。異世界からの召喚からちょうど一月になる」
へぇそんなにたったのか、とセンカが思い返すと同時にルーギルの言葉が続く。
「二日後、実戦に向かう」
みんな息を飲んだ。
そうだこの世界には戦いのため呼ばれたのだと。ほとんど忘れていたけど。
(とうとう来たか)
二日間みんなは真面目に剣をふった。
そしてその日は来た。
いつもよりずっと遅い時間に起きて夜の戦いに備える。
敵の魔獣は夜行性だ。一晩中戦うかもしれない。
いつもなら講義を受けている時間に装備を整えて、馬に乗り町を出る。
馬のわきには歩兵がそれぞれ3・4人ついた。
馬上の戦士が体中に鎧を着こんでいるのに対して歩兵達は腕や足が無防備。
馬で行くのはセンカ達を含めても二十騎だから、総勢七十人ほどだ。
日が傾く中畑の中の道を進む。百姓家で一度休憩になり食事を取る。
夕暮れに一行は雑木林の手前で止まった。
「みな周囲に注意!いつ敵襲が来てもおかしくないぞ」
ルーギルが声を張る。
ここからは左に向きを変え、林にそってパトロールだ。
こうやって毎晩交代で見回りをしているらしい。
どんどん暗くなり、センカの手前の歩兵が明かりを灯し、馬の足元を照らす。
(お尻痛い)
馬上でセンカは必死に姿勢を保った。
こんなに長時間馬上で揺られているとは思わなかった。
(次からは途中まで馬車にしてほしいな。これ後何時間続くんだろう)
自分勝手な考えはすぐ破られた。
「出たぞ」
後ろで声がする。練習した通り馬の首を後ろに向けさせる。
闇の中光る眼がいくつもあった。
大型犬ほどの獣が群れを作っているのだ。腐ったようなにおいがセンカの鼻に届く。
「突撃!」
ルーギルの叫びに合わせて周りの騎馬が群れに飛び込んでいく。
センカは動けなかった。
農作物を守るためだと分かっていても、放っておくと人が襲われると聞いていても。殺すなんてできない!
「うぉオオおおー」
誰かの攻撃が当たったのだろう。遠くでギャイと鳴き声がする。
馬が戻ってきた。騎士たちの槍はどす黒く汚れている。
「二匹しとめました」
「良くやった」
兵士たちはほめあっている。
首を横に向けると、動けなかったのはセンカだけじゃないのが分かった。
異世界メンバー全員が顔をこわばらせている。
みんな無言で見合った。自分にはできないって顔に書いてある。
「では見回りを続ける」
ルーギルの声がして一同はまた進みだした。
また体が痛み出す。今日は疲れにくくなる呪文をかけてきたのに。
(効いている感じが全然無いよ)
二時間ほどしてやっと休憩になった。魔獣は明るいのが苦手なのでたき火をたく。
センカは馬から下りて水袋の水を飲んだ。
みんなに硬いパンとチーズが一切れずつ配られる。緊張と疲れで味なんて分からない。
休憩はすぐ終わった。重装兵は馬にまたがる。センカは馬に乗りたくなかったけれど周りの兵士がセンカの体を馬上に押し上げた。
(もうケ下半身が限界なのに)
手綱を握ると馬は歩き出す。姿勢を保つのが精一杯の状態で魔獣となんて会いたくない。
(襲撃があれば誰かの声ですぐ分かるよね)
だから周りは見ていなかった。甘かった。
馬車は馬車で辛いことをセンカはまだ知りません。