22 ヒメコ 7
まぶしい。窓の隙間から光がこぼれてくる。
ヒメコは朝焼けで目がさめてしまった。
同室のセンカはまだ寝ている。ヒメコは起こさないようにベッドを抜け出した。
ガウンだけ肩にはおり、部屋を出てみる。
人気がまるでない。廊下から扉の外に出る。
城壁の上にはまだ誰もいない。ヒメコは金色に光る景色を一人じめ。
「きれい」
しばらくウットリして戻ろうと向きを変えたら、視線の先にはルーギルが!
「す、すいません。誰もいないと思って」
(うああああー恥ずかしい、頭ボサボサの寝起き姿見られちゃったよ!)
ルーギルも気まずそうにヒメコから顔をそむけている。眉間にしわが寄っていたし怒ってるみたい。
「確かにこの時間は人が少ないが、もう戻りなさい」
「は、はい」
こんなんじゃ会話なんかとてもできない。
ヒメコは急いで部屋に帰って顔を真っ赤にしながら服を着替えた。
隣でセンカが寝返りをうっている。今日もギリギリまで起きないようだ。
(次からは顔洗って髪とかしてから外に出なくちゃ)
ここは自分の家じゃないから、もっと気をつけなくちゃいけない。
朝食の席ではルーギルの顔なんてまともに見られなかった。
もちろん訓練でも。話しかけるなんて無理無理無理。
結局また疲れただけで一日が終わる。
(こんなんじゃダメだよね。せめてもうちょっと仲良くなれれば話しやすくなるのに)
仲良くなるきっかけは何かないのかしら。
夕食の席でかたい肉をかみしめていたら一つ思いついた。
「あの‥ 台所を使わせてくれませんか?」
おいしい食事で親密度アップ作戦!って思ったのにルーギルたち領主一家はキョトンとしている。
「なぜかしら」
奥様のオルハがたずねてくる。
「えっと、たまにでいいんです。自分でご飯を作りたくて」
ヒメコにとっては単純なお願いなのに、アノールたちにはすごく奇妙な提案をしたらしい。
「食事に不満でしたら、料理人に言いつけておきますが」
そーゆうんじゃない。
「えっと、こちらの食事には慣れていなくて、その」
ヒメコがアタフタしていたら賛同の声が上がった。
「私も自炊したかったところなんです」
「和食食いてー」
日本人組はみんな賛成らしい。
領主がしぶしぶうなずく。
「料理長に申し付けておきましょう。何か必要な食材があれば承ります」
執事っぽいおじいさんが親切に聞いてくれたからとりあえず野菜が欲しい事を伝えた。
訓練の後でヒメコは台所に向った。スズカさんも一緒だ。
「何作りましょうか」
疲れているけれど、やっと自分でご飯が作れるからウキウキする。
(私って意外とくいしんぼキャラだったのね)
まずスープの下ごしらえをする。
鳥ガラを熱湯で洗って大鍋に入れたっぷりの水と一緒に火にかける。
しばらくすると買い出し組が戻って来たから、根菜も足す。
ヒメコは知らない菜っ葉やニンジンっぽいのを包丁できざむ。
料理人たちが不審そうに見守る中、フライパンに油をひいて野菜を入れて火を通した。塩を軽く振って出来上がりだ。
「塩は高いんだからもっと節約してくれよな」
料理長が文句を言ってきた。
「塩って高いんですか」
「そりゃあ交易品だからな。海辺から魔物を倒しながら運ばなきゃいけねえ。費用がかかるったらありゃしねえさ」
だからいつも薄味なんだ。
「あんたらとっとと魔物倒して、塩を運べるようにしてくれよ」
責任の重大さをヒメコは思い知る。
料理はみんなに大好評だった。
「野菜、うめぇ~」
「ほんと久しぶりだね」
ルーギルさんにもほめられちゃった。
「野菜も美味になるのですね」
ちょっとだけニッコリしていた。
(まだ目を見ては話せないな)
相談することが何だったかは、忘れてしまった。
明日センカ視点に戻ります