21 ヒメコ 6 念願のお風呂?
「町に遊びに行っていいですか」
朝食の席でセンカが声を上げた。確かに城の中で訓練ばっかりなんて気がめいっちゃう。
ヒメコや他のメンバーもついて行く。
初めて城壁をくぐりぬけた。広場の向こうに家々がすき間なくぎっちり並んでいる。
(なんか臭い)
「いらっしゃい‥ どちらから来なさった?」
通りのお店を見ていると、何かあやしまれている。
(異世界から来たって言っても信じないよね)
ヒメコが見た店は食料品をあつかっていた。ソーセージに魚の干物や豆が多い。
葉物野菜を見てヒメコはツバを飲みこんでしまった。
城の食事では野菜がほとんど出てこないのだ。
(お金持ってたら絶対買うのに)
夜は念願のお風呂。ルンルン気分で部屋に戻ると水の入ったタライと熱々のヤカンがある。
「タオルはこちらです。終わったら声をかけてくださいね」
それだけ言ってネミさんは出て行った。
「これ‥ どうすればいいの」
ヒメコが途方にくれていると、センカはヤカンからお湯をタライにそそいで温度を確かめている。
「昔の人はタライで体洗ってたんだよ。あたしから入っていい?」
そんなぁ‥ シャワーもバスタブもないなんて、とヒメコはうなだれて部屋を出た。
(異世界って、すごい不便なのね)
センカが行水を終えるとネミさんがタライのお湯を窓から捨てる。
毎朝見ている光景だけど、タライのお湯はダイナミックすぎる。
温かいお湯で体を洗えたのはホッとした。
(生き返る~。これなら明日はルーギルさんにきれいな私を見てもらえるかな)
でも、話しかけるのはできなかった。
いざその時になるとヒメコの足は動かない。
ルーギルはいつも誰かと一緒にいるし、どうやって声をかけたらいいのか分からない。
ルーギルからは声をかけてくれないし。
チャンスがつかめないまま一日が過ぎ去る。
バスタブは高級品。持っているのは王侯貴族のみ。
タライのお湯を窓からか捨てるかどうかは未確認です。
参考にしたのはローラ・インガルス・ワイルダーの小さな家シリーズ。
田舎の平屋住まいはドアから庭に捨てていました。