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センカはギョッとした。隣に少年がいる。
この雰囲気は‥ 暗闇で会った男の子だ。
「こ‥こんにちは」
あいさつはしたけど、センカはその後だまってしまった。
何を話せばいいのか分からない。
元の世界だって男子と二人でしゃべるなんて、十年くらい無いのに。
「灰色の森は見えないよ。ここはまだ人の領域だ」
男の子はセンカの心を読んだように語りかける。
「あの‥あなたは誰?」
センカはこの城の中で領主の一族と召使と兵士に会ったけど、彼はそのどれにも似ていない。
「さあ。誰だったら君は満足するのかな」
ふざけた答えだ。センカは言葉につまる。
「自分が何者かなんて誰にも分からないさ。ボクならそんな事に悩むより、ご飯に何が出るかって考えるね」
「それはそうだけど」
不満顔のセンカに少年はフッと笑った。
「じゃ、またね」
彼は名前も告げずに立ち去って行く。
午後の授業で広間に向かうと、クアモが厳しい顔で待っていた。
「午前の訓練で身体強化を試したそうですね」
茶髪さんが許可は取ったと急いで伝えたけど、怖い顔は治らない。
「今日は魔法の副作用を講義します」
みんな神妙な顔で席に着く。
「魔法史にはときどき身体強化をしすぎた話が登場します。筋肉をつけすぎた兵士は心臓が止まってしまうそうですし、腰回りを細くしようとして内臓を傷つけた話もあります」
耳が痛い。
「筋肉強化はこちらの兵士でも三日に一度までと決められております。みなさまも同じ基準でお願いいたします。もし極端に筋肉がついた場合、魔法石は没収ですから」
クアモはニッコリ続ける。
「特に女性の方、やせる魔法は禁止です。忘れないで下さい」
「魔法があるからって上手くは行かないのね。向こうと変わらないみたい」
看護師をやっているって言うニシカワさんがうなずいていた。
センカはため息をついちゃうけど。