悪戯な風が運命を吹き飛ばす――第1話 モブ悪役の覚醒
挿絵機能でAI様の絵を挿入してみました!
よろしくお願いします。
風纏う美少年と炎纏う美少女が舞台上で肉弾戦をしている。
少女の纏う炎に照らされて踊るのは、爛々と輝く金糸の長髪。強い意志に輝く碧い目は、纏う炎と同じく戦意に燃えている。
身に纏う炎が少女の均整の取れた肉体を包む制服を舐めるが、完全に制御されている為に焦げ一つ付くことはない。
彼女の燃え上がるような攻めに、浅黒い肌で黒髪の少年は風で受け流すのに精一杯の防戦一方であった。
「クッ!」
自らの不利を悟った少年が、距離をとっての仕切り直しを狙い拳に集めた風を地面へ叩き付ける。
解放された暴風により少年は後方へ吹き飛び、辺りは砂煙に包まれた。
「甘いっ! 一気に行くわよ!」
少年の行動を見切っていた少女が畳みかけようと、纏っていた炎を爆発させて砂煙を吹き飛ばす。
得意げな少女が一足飛びに焦る少年の元へ飛び込んでくると、悪戯な風が彼女の着ている丈の短いスカートを一瞬持ち上げてしまった。
まず露わになったのは普段は日に当たらない為に雪のように白い少女の太股。そして次に露わになったのは、更に奥の太股に縁取られて強調された赤。
少女の赤が、少年の目に焼き付いた。
現状打破に全力を尽くしていた為、風属性特有の知覚能力で以ってパンチラの瞬間を凝視してしまった少年は固まる。
「うむぅ」
「何よ?」
様子のおかしい対戦相手に罠を疑った少女。彼女が再び炎を纏いつつ警戒していると、顔を赤くした少年が一言。
「鮮烈なる赤であった」
「変態!」
少年の返答とチラチラとした視線により導かれた答えに、戦闘中の集中力でもって素早く辿り着いた少女。彼女は怒りと恥辱で顔を真っ赤にしながら、火属性特有の身体能力で少年に強烈なビンタをお見舞いした。
戦いの舞台に快音が鳴り響く!
「打点を! ずらすな!」
「一体何を、怒っている!? 聞かれたから、答えただけ、ではないか」
「模擬戦中に、スカートを、覗く、変態は、ボコボコに、されるのが! お似合いよ!」
「理不尽な!?」
怒りで単調になった代わりに破壊力が明らかに増している少女の連撃を少年はなんとか捌いていく。
少女が繰り出す怒りの連撃で戦いの舞台は破壊されていくが、単調な攻撃に慣れてきた少年は余裕を取り戻し始めた。
彼は名門クリシュナ家の嫡男ヴィッシュ。
戦士階級の家柄故の才能に傲り努力を怠っているが、神力と戦闘のセンスに関しては紛れもない天才なのだ。
激しい連撃を捌きつつ余裕が出たことで、ヴィッシュの思考は先程の光景に回帰する。
ヴィッシュは自らの脳裏に焼き付いた鮮烈なる赤に、胸の中から神力以外の熱いモノがグツグツと沸き立ち、彼の父が過去に語った言葉を思い出した。
『ヴィッシュよ。素晴しきモノを見た時、胸に熱き紳士の心が宿るのだ』
『アナタ? 少しお話があります』
語った後、彼の母に悟ったような顔で引きずられていった父の真意を今こそ理解したヴィッシュは、美しい金髪を振り乱して怒りの連撃を繰り出してくる対戦相手、ルドラへの認識を改めた。
ヴィッシュは彼女の事を階級外という出身で毛嫌いしていたが、胸の内に沸き立つ父曰く熱き紳士の心は誤魔化せない。
故に真剣な顔をした少年は、美少女に抱いた好意を飾ることなく告白する。
「ルドラ」
「何よ? 今更謝っても絶対にボコボコにしてやるから」
真剣な顔で自分を呼ぶ褐色美少年にちょっとドキッとした少女は、続く言葉に身に纏う炎を巨大化させて怒髪天を突いた。
「君の鮮烈なる赤は素晴らしい」
「変態ッ! 変態ッ! 変態ッ!」
最低な告白の後、あまりの恥辱に血統兵装である炎の三叉矛トリシェーラに覚醒したルドラが、三叉の槍先から全てを焼き溶かす三本の閃光を放ち――
「滅びろ! 変態! 血統兵装! 焼き払え!」
「なんの! これしき! 血統兵装! 吹き飛ばせ!」
――負けじと、煮えたぎる紳士の心で同じく血統兵装である風の巨鳥ガルーダに覚醒したヴィッシュは、風の巨鳥に全てを削り取る緑光の竜巻で迎撃させた。
三本の閃光と緑光の竜巻が衝突すると、強大な神力のぶつかり合いにより大爆発が引き起こされ、模擬戦の舞台は崩壊。
優劣を競うための模擬戦は引き分けとなった。
ボコボコにされるはずだったヴィッシュ君、覚醒したことで引き分けに……!
全部で二十話ほどのお話を毎日六時半に投稿予定です。
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