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「さて、第一回バンドミーティングだけれども……まず決めなければならないのは、これ!!」
そう言ってはくりちゃんがドンと画用紙をめくって出してきたのは『バンド名を決めよう!』と書かれた文字。
……えっ?
「……まっ、まだバンド名決まってなかったんですか?」
「うん、みちるのこと誘ってから決めようかなって」
りんさんの言葉にはくりちゃんがうんうんと頷く。
皮算用で動きすぎじゃないこの人たち……!? 私が他のバンドに加入してたらどうするつもりだったんだろ……その場合他の人誘うか、普通に。
「ぶっちゃけみちるんが決めていいよ?」
「えっ!? そっ、そんな責任重大な……」
「いやー、アタシら二人ともネーミングセンスが死んでいるからさあ……」
「わたしは、わたしのセンスは良いと思う」
「お前案出した翌日に『なにこのダサい名前……』って絶句してたろ!?」
どや顔で胸を張って言うりんさんにはくりちゃんが嘘だろこいつ!?的な顔をしてツッコむ。二人とも仲がいいなあ……私も前世のバンドではあんな感じに、あんな感じに……いや前世でも普通に陰キャだったな私。今より手がかからないってくらいで。
話に入れなくて黙々とご飯食べてたなあ。あれはあれで話聞いているだけで楽しかったりもしたけれど。
「とっ、とりあえず……ふっ、二人の案を聞いてみたいです。それから決めてもおかしくはないかと……」
「スカーガールズ」
「篝火」
「……うん」
スカーガールズがはくりちゃん、篝火がりんさんの案。
なるほど、なるほど……うん、りんさんのネーミングセンスは私は好きだな。スカーガールズもまあ、嫌いじゃない。嫌いじゃないけど……。
「バンド名、どっちも私該当してないですね……スカーガールズは、まあ、私も喉たまに切りますけど」
「リスカはともかくネクカは駄目だよ!?」
「そういう意味じゃないですよ!? おっ、嘔吐のしすぎで喉を切るってだけで……」
というかリスカはともかくってどういうこと!? してるの!? はくりちゃんしてるの!?
いや、そういえば初めて話した時なんか怪しかったような……今もなんか異様に手首隠すというか、全然肌を見せない感じの服装だし。
……うん、考えないことにしよう! こういうのは実際してても深く触れない方が賢明だって私知ってる!! 深く触れた結果面倒になったバンドメンバーを知ってるから……前世で。
「とまあこんな感じだからみちる、君に決めてほしい」
「あっ、はい。承りました」
バンド名、バンド名……まず重要なのは、新規のメンバーが入ってきやすいことかな。スカーガールズも篝火も、名前自体は良いと思うけどバンド志望者が「ここ入っていいのかな?」とは思いにくい名前だ。
志望しやすくて、それでいて有名になりやすそうなエモい感じの名前……エモいといえば星座ってイメージあるなあ。
「みんなと繋がる、バラバラなのが一つに、バラバラなのに意味を持たせる、……星、星座、星座にちなんで付ける……?」
「おおっ」
「良い感じの出そうだね!」
星座、うん着眼点は良いと思うぞ私。
そこからどうひねり出すか。さあ思い出せ、記憶を引きずり出せ。学校の成績は散々な灰色の脳細胞……!!
星座、星座といえば……黄道十二宮? 12、つまり一年、一年をこのバンドの音楽で塗りつぶす……これだ!!
「ゾディアック!」
「おおっ、なんかオシャレ!」
「ロシアのポピュラー音楽バンドだね」
「もうあったかー!!」
ぎゃふん。もう存在していたぁ……。
ううっ、こういうバンドの顔とも言える名前を決めるのは私には向いてない気がする……そういえば私の提案する曲タイトルが採用されたことなかったなあ、一度しか。
私もそこまでネーミングセンスある訳じゃないんですよルルルララ~……。
「でもゾディアックって良い名前だよね、バラバラの星たちが集まって意味のある形になる星座から取ってるっての好きだし」
私もそういう意味を持たせて結構いい名前だなーと思ったんだけどなあ、誰かが言っていたけれど素人が考えたものなんてもう先人が既にやっていたりするっていうけれど、名づけもまさにそれと同じなんだなあ……。
「だからさ、後ろになにか足したら既存のと被らないんじゃないかな?」
「……なるほど、アイディアの再利用」
「あっ、でしたら……クラスター、なんてどうですかね? ぞ、ゾディアック・クラスター……とか?」
星座の集団。我ながらかなり良いんじゃないだろうか。さて反応は……。
はくりちゃんは「おぉーっ」目を輝かせながらパチパチ拍手している。よし、反応良い感じ……! ではりんさんはというと、顎に手を当てて何かを考えている様子……。
なっ、なんだろう……名前気に食わなかったかな……?
「伸ばさない方がしっくり来る」
「あっ、確かに」
ゾディアック・クラスタ……うん、良い感じにまとまりが良い気がする。
凄い、りんさん天才……!! なんて尊敬のまなざしを向けていると、それに気づいたのかりんさんはふふんと胸を張った。褒められる視線に敏感に反応しているところは年相応って感じがして可愛いなあ。……視線、向けられても怖くならないようになりたいなあ。
「……良い名前だね、殺人鬼の集団……わたし好みの名前」
「えへへ、気に入っていただけてよかったです……星座の集まり……」
気のせいかなにかすれ違っているような気がしなくもないけど、まあいいか。多分小さいことだろうし。
それに言葉って色々な解釈できるのが楽しいしね!
「さて、バンド名はゾディアック・クラスタに決まったことで……次どうしよっか? まだ本格的な活動も練習もできないし」
「ボーカルがいない、みちるできそう?」
「あっ、無理ですね……のっ、喉に傷がありますので」
「病院行こう?」
「もっ問題はメンタルの方ですので……親が行くの許してくれないので、はい」
へへへっ、精神が病んでる人を永井家から出したくないらしいんですよねうちの親……だからどうしようもないという。流石に高校中退の学歴で終わるのは避けたいところ。
表情で察したのかりんさんはそれ以上何も言ってくることはなかった。ごめんなさい気を遣わせて……。
「おっ、お二人はボーカルできないんですか……?」
「ギターならともかくベースはちょっと難しい……やれなくはないけれど」
「リズム隊はボーカルまでやるとねえ、リズム崩せないのがきっついから……あとアタシが前いたバンド、ボーカルやってたのがクビになった理由だし」
「あれは水芸やったはくりが悪い」
りんさんの言葉にはくりちゃんは何も言い返さずへへへっ、と私みたいに笑った。
なっ、何やらかしたんだろ……バンドで水芸……? 精密機器溢れる空間で? よっ、よくわからないけど触れないでおこう……。
「とりあえず今後の課題はボーカル! という訳でみちるんも、うん、そうだね、できる限りでいいからボーカル探しててくれると嬉しいな。できればギタボ」
「あっはい、力になれるかはわからないですけど頑張ります……!!」
「こっちでも探しておくから、そこまで気負わなくていい」
「最悪見つからなかったらインストバンドでもいいしねー!!」
インストバンド、歌声がなく楽器のみで演奏を行うバンドのこと……確かにそれもまた音楽の在り方の一つではある。あるけれど、私はやっぱりなんだか寂しく思えてしまう。
がっ、頑張ろう……!! とにかく、良い感じのボーカルの人を探して……頑張ろう!!
ちょっとこのバンド、今後大丈夫かなって不安になってきているけど……!!
「よし、今後やることも決まったことだし時間までスタジオで練習しよっか!! いくらくらいかかる?」
「あっ、30分1,680円なんですけど私が一応バイトしてるので……従業員割引適応されるので1,596円です。一応長時間練習するんだと長い方がお得にはなりますけど……」
「急に事務的になるじゃん……三人で割り勘して532円」
「今回はお互いの実力見るのが目的だし30分コースで」
「はっ、はい。承りました」
さて、私自身はギターそれなりに上手いけど……この二人の実力や、どれほどのものか……。




