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「えっと、申し訳ありません永井さん少し整理させてくださいまし」
あの後、私のご学友の皆さまと分かれ、いつものライブハウス『TRITONE』に赴いた私と……永井さん。
どのような会話をして別れたのかも、道中にどのような話をしたのかも全く覚えておりませんが……それだけ衝撃的だったと申しますか、あまりに荒唐無稽な話すぎて頭に入って来なかったと申しますか、というか本人も理解していない様子なのが気になってしまって仕方がないと申しますか……
とにかく、私とりんさんはお互いに隣り合って座り、向かい側に座っていた永井さんの話をかみ砕いて要約いたしますわ。
「私達の住んでいる世界は元々はゲームの世界で……永井さんはそのゲームの続編の攻略対象、を未亡人にする為の当て馬的なキャラ……で、合ってまして?」
「はっ、はい……多分……私もプレイしたことないので確証は持てませんが……」
「……未亡人?」
「はっ、はい……その、こ、恋人がいる男性キャラは人妻?属性が付与されるとか……? なの、なので恋人がなく、無くなった場合は未亡人でしょ……って古川さんがい、言ってました」
「ちょっと待ってくださいまし情報の洪水を垂れ流さないでくださいませんこと」
えっと……まあ、未亡人ってのは別に、男女どちらかを指定しているという訳でもありませんわね。男性が残された場合は逆やもめと言う、とは聞いたことがありますが……別に女性を指定する言葉がある訳でもありませんし。
でも人妻? えっと、人妻ってどういうことですの? ああもう私達がゲームのキャラだったとかそんなんどうでもよくなることを言わないで欲しいですわ!!
それとも、そういった界隈では恋人持ちや許嫁持ちはそういった扱いですの!?
と情報量に混乱している私でしたが、隣で腕を組んで聞いていた谷野さんがゆっくりと口を開きましたわ。
「みちるは、その妄言にしか聞こえないものを信じたの?」
「ひっ……あ、その、あの」
「……怒ってないから。信じる信じないは一端置いておいて、素直に言ってくれない?」
「えっと、しっ信じたといいますかその……私も、でして……」
「……みちるも?」
谷野さんの疑問の言葉に、若干涙目になりながらも永井さんはこくんと頷きましたわ。
私達の世界がゲームの世界で私達が作られた存在だった、というのは一端置いておきまして……永井さんが前世の記憶を持った生まれ変わり、というのは……不思議な程納得ができました。
……永井さんの抱えているものと、永井財閥の環境を考えたら、割に合わないと申しますか……感情の採算が合いませんもの。
「……私達が、ゲームのキャラとして作られた存在だった、なんて信じられないけど……」
「あっ、りんさんとはくりちゃん、あとかお、かおるさんは……確か、ゲームにはいなかった、と思います……」
「私はゲームのキャラとしても作られなかった存在だったとは……」
「そこ言い直す必要ありまして?」
永井さんの訂正に対する反応に、思わずツッコミが入ってしまいましたわ。そこ言い直す必要絶対ありませんもの。
とはいえ、永井さんの口ぶりですと……私はゲームに存在していた、ということになりますわね。まあ実際、舞台が顕花高校と考えたら当然と言えば当然ですもの。
……と思ったところで、私の中でふと疑問が産まれましたわ。
「……永井さん。いくつか質問したいことがあるのですが、よろしくて?」
「あっ、えっ、あっはい。大丈夫です。その、おぼっ覚えている範囲でよければ……」
「まず、このライブハウス『TRITONE』とその上、私がバイトさせていただいている『テックスメックス』は、そのゲームに登場いたしまして?」
「いえ……確か、ぜ、全部学園内でかい、解決していたので……で、出なかったと思います」
「……となると店長さんも登場いたしませんわよね。次に、ゾディアック・クラスタのメンバーは、ゲーム内で登場いたしましたの?」
「た、高橋さん以外はかげ、影も形もなかったかと……」
「……永井さん自身も?」
「えっと、どう、同性同名はいたんですが……確か生徒会長か、ふう、風紀委員長、だったかで……せい、成績優秀で文武両道で、だれ、誰からも慕われる、みんなから尊敬される人物だった……と思います、はい。ぎ、ギターも……確か原作だと、さわ触ったのはすう、かげつくらい……?」
私からの質問に永井さんは(詰まり方はいつも通りなので)すらすらと答えてくれましたわ。
仮に、私達の世界が本当にゲームだったとしても……何と申しますか……。
「……多分だけど、その古川さん? って人の認識が間違っている可能性があるね」
私の隣で話を聞いていた谷野さんが煙草から紫煙を登らせながら、私と同じ推理を口に致しましたわ。
やはり、そういう結論に至りますわよね……永井さんは少しピンと来ていない様子ですが。
私もその言葉に頷きます。そのせいで永井さんの頭に「?」が増えたような気がしますが、構わず谷野さんが言葉を続けますわ。
「もし仮に、本当にこの世界がゲームで、古川さん? とみちる以外が全てゲーム通りの世界だったとしたら……二人の影響で干渉して多少ストーリーやキャラの性格言動が変化することはあっても、完全に無いものが産まれるとは考えづらい」
「えっと、どういう……」
「……私やはくりみたいなスキルを持ったモブなんて、存在すると思う?」
そう。もしこの世界がゲームだとしたら……谷野さんも角田さんも、存在しない筈がありませんわ。このような演奏スキルを持ったキャラクターなんて、モブに設定するのは勿体ない。確実にどなたかのライバルとして立ちふさがるべき存在と言えますわね。
それが影も形もない、なんてことはまずあり得ませんわ。
まあ、そもそも永井さんの認識が、というか記憶が信用ならないもの、というのは少々ありますが……。
「えっと、つまり……」
「古川さんの妄執、で片づけられたら楽だけど……ゲーム世界だとみちるが死んでしまう、ってのが無視するにはネックな要素だね」
「……原作ゲームとはまた違う世界線な可能性、とかありますかしら」
私の言葉に、永井さんが「あー」と頷きました。
原作と全く違う展開に原作には全く登場しないキャラ、それらを考慮すると……そもそもがこの世界がゲームである、という古川さんの仮説を一旦受け入れなければなりませんが、違う世界線、と考えるとあれこれの要素が納得いく気がしますわね。
「可能性はあるね。ただ、大筋が殆どゲームと変わらないとしたら……みちるは将来、若いうちに確実に死ぬ……?」
「分からない分厄介度が増しましたわね。まあ、私は全く信じておりませんが」
「荒唐無稽すぎるもんね、いくらなんでも」
谷野さんの言葉に私は苦笑しながら頷きましたわ。
永井さんを疑っているという訳ではありませんが、原作にいないキャラに原作に存在しない施設にとあって「この世界はゲームの世界なんです!」なんて言われたところで信じられるかと申しますと、全く信じられませんもの。
「……みちる」
「はっ、はい!?」
「騙されないよう気を付けてね。お金に関する話を持ち掛けられたら、まず私達に相談すること、いい?」
「あっ、はい。……あれっ、私詐欺に遭いやすい人間だと思われてる?」
「宗教などの勧誘にもホイホイ誘われそうとも疑ってますわ」
そんな心外だという顔をされましても……ふと、私と谷野さんの視線が合います。
そして同時にため息をつき、永井さんの方を見て……左右に首を振りましたわ。
……仮に生まれ変わったとして、学生である私よりも騙されやすそうなのはどうなのか、と思いますわ……。




