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ゲーム世界……転生者……主人公の子の中に入ってるのも転生者……多少なりとも悪役令嬢ものの小説を読んでいたら、ここから導き出される公式は分かるだろう。私にだってわかるもん。
これ敵対する奴だあ……私が読んだの、大体がそうだったから。敵対して、露骨に悪役令嬢に転生した主人公を蹴落として、そして悪役令嬢に転生した主人公が原作のに転生した主人公に対してざまあする奴だ……私知ってるよ。
でも私にはそんな力無いよ。やり返すなんて気力あったらこんな性格育ってないよ!!
どどどどうしよう……ぶっちゃけ古川さんが変な仕込みしなくても私を追い詰めることなんて簡単、赤子の手をひねるよりも簡単な事だから……ここは、ダメージコントロールをするしか……ない……!!
あのニコニコ顔がいつ変貌するか分からない。勝負は一瞬、速攻が求められる。取り出したるはわが財布、中から抜き取る一万円……バイトしていなかったので正直かなり痛い出費だけど、背に腹は代えられない……!!
「……永井さん?」
ベンチを飛び出し、空中で回転。着地は両膝! 痛い!! だがその痛みをこらえて……両手を付き、人差し指と中指で一万円札が飛ばない様に固定し、額が床に付くまで頭を下げる!!
「永井さん!?」
ジャパニーズ土下座スタイル! とりあえずこれさえやっておけば、基本的に相手はこれ以上責めては来ない……!! 来るようなら、まあ服従スタイルでお腹にダメージを集中させるしかないかな。
「あのっ、どうかイジメるのだけはお許しください。原作の、あの攻略対象に手を出そうとかそういう気持ちは一切ありませんので、どうかご容赦を……少ないですがこれにてご容赦を……!!」
「いややらないよ! 立って! お金戻して!! 私の事なんだと思ってるの永井さん!?」
「だっ、だだだだって悪役令嬢に転生したのと原作主人公に転生したのが揃ったとなれば……はい、ひっ、はい排除しに来るのが相場ってものではない、ですか!?」
「確かにそういう作品多いけども!! そうじゃないから! そうじゃないからね!? 永井さんのこと友達だと思ってるから!! そんなことしないよ!! ほら立って、服汚れちゃうから」
「は、はい! 殴らないでください!!」
「殴らないから! 永井さんの中の私どうなってるの!?」
「優しくて良い匂いのするいい子から原作主人公に転生して悪役令嬢イジメる人」
「いったん忘れて悪役令嬢ものの知識は」
古川さんに肩から持ち上げられ、椅子に座らされる私。完全に猫ちゃんみたいな扱い……。服についたちりとかを手でぱっぱって振り落としてくれる古川さん。完全に幼児みたいな扱いに……。
とりあえずイジメはしない、と言質取ったので……言質取ったところでイジメる人はイジメるのでは、と思いつつも、古川さんは私の事を友達だと言ってくれてたので、ひとまず信じる事にしよう。
……でも、そうだとしたら一体全体私に何の用なんだろう? 原作の攻略対象は狙っていないどころか近付いてすらいない(ゲロの処理させちゃったけど)し、ゲーム内で舞台となっていた学園で目立つなんて……まあ、ライブをきっかけでファンが増えてくれたから多少はあるけれども、原作程ではない筈。
未プレイだからわからないけど、確か原作の私は生徒会長だったか風紀委員長だったかの役職に付いてたし、文武両道でしかも相談にも親身に乗ってくれるような人って設定だった記憶があるので人望も厚かった、気がする。確か。
私? 帰宅部だし治安ちょっと悪いところでバイトしてるし愛され方もどっちかというとペット枠だしで影も形もありゃせんよ。ヘイト創作言われるわ私みたいなのにしたら。
えっ、でも待って……色々並べ立てた結果、なんで古川さんが私に声を掛けたのかわかんないんだけど。なんで? 接点無いじゃん! やっぱり、カツアゲか? イジメか?
「とりあえず、大人しく聞いてね。それと、私の質問に答えてくれる?」
「は、はい! 暗証番号も答えますので指だけは!!」
「聞かないから!! ……まず、永井さんは転生者だよね? 私の知っている永井みちるは、もっとしっかりとした、凛って感じの人。……正直、同姓同名なだけの赤の他人の線としか思えないんだけど、永井さんって本当に『永井みちる』……なんだよね?」
ううっ、古川さんから聞いてきたくせに疑い半分って感じが伝わってくる……ここで古川さんが言った永井みちる、の名前は決して私の事ではなく、私が転生する前の、原作のキャラの事を指しているんだと思う。
……原作キャラの設定なんて覚えてないんだけど、多分そう。うん。永井財閥とかいう、なんかでっかい会社だった気がする。うろ覚えだけど。
「た、多分……? なんか、ざ、財閥の社長だったよう……な……?」
「いや多分って……」
「か、勘当されてますので……がく、学費と、家政婦さんのお給料以外は全部……はい、自腹で……」
私の置かれている状況を軽く説明すると、古川さんは目を大きく見開いた。
なんか、古川さん? の知っている設定と齟齬があったんだろう。そりゃそうだわ、私に原作要素一個も残ってないもん。何だよ勘当される生徒会長って。あれ風紀委員長だっけ?
「……ここまで原作ルートから離れていたら、心配しなくてもいいかもしれないけど……永井さん」
「は、はい」
「一応、一応だけどね……私が知っている限りの知識、というか……永井みちるの設定を、今後の未来を話しておこうと思う」
私の……未来? いや私のってより、原作の私がたどった未来……と言う事だろうか。
いやでもそんなの、主人公チームにライブで負けて、主人公たちが音楽で食べていくのを認める……で終わりじゃないの?
「いい、永井さん? 永井みちる、というキャラクターはね……元々は『ラブソングを止まらせない』の続編、『ラブソングは鳴り止まない』に出てくる攻略対象キャラクター、矢口まさきの元恋人として作られたキャラだったんだ」
へー……確かに、悪役令嬢というには相手なんて全然いないし、男の影も形も無いし、そもそもDLCコンテンツって奴だったからぽっと出なキャラではあったけども……続編の攻略対象の為に作られたキャラクターだったんだ……。
……ん? 元恋人? ライバルキャラってのなら、ルートによっては恋は成就する訳だから元恋人、なんて付けない筈なのに……なんでそんな設定を?
「……あの、げっ原作の私っていったい……どう、なっているんですか……?」
「……原作開始前に死んでる」
原作開始前に死んでる……原作開始前に死んでる!?
いやいやいやいや、えっ? なにその、えっ!? ラブソングを止まらせないのDLCとして出された、攻略できないのにユーザーからも大人気だったキャラクターが……原作前に死んでる!?
「えっ、いったい、えっどう……えっ!?」
「人気を出す為には仕方なかったんだよ、永井さん……そう、未亡人キャラを付ける為に」
「えっ、あっ、はい? ……はい!?」
えっ未亡人? えっ? 未亡人ってあれだよね……旦那さんを亡くした妻の事で……えっ男性キャラだよね? 攻略対象男なんだよね? そんな要素入れる必要あるの?
「えな、なんでそんなことを……」
「……あのね永井さん。既に結婚している男は人妻だし、婚約していた相手を失った男は未亡人なんだよ。つまり人気が出るんだよ」
「わっ、分からない……分からないよぉ……!!」
怖い! 古川さんが何を言っているのかわからなくて怖い!!




