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「こちら、お先に出させていただきますわ」


 お昼の時間から少しずらしたからか人の数はまばら、というのもあってか私達が注文したメニューは結構早めに来た。

 まず私が頼んだサボテンのサラダ。小さい器に盛りつけてあって、赤く着色されたカッテージチーズが花のように置かれている。


「おおー……お洒落だ」

「銃声以外は高評価、というのは伊達じゃないね」


 いや本当銃声はなあ……(主に外国人さんからの)評価が低く、外国語のコメントも……うん、銃声についてのがやっぱり付いてる。子供を連れていけないとかそういうのが。

 まあ、あまりメジャーになりすぎたくないとも言ってたしこれでいいのかもしれない。行列が出来たりするとライブハウスの方にも支障が出かねないからとかなんとか。本業どっちなんだろう、店長は。


 それはともかく、次に置かれたのはナチョス。籠にこんもりと盛られたトルティーヤチップスに、ソースポッドに入ったチーズソース、トマトをベースに作られたサルサソース、そしてワカモレの入った小鉢が次々と置かれる。


「……多くない? はくり、食べられそう?」

「……りん、みちるん、食べるの手伝ってくれる?」

「えっ、あっはい。頑張ります」


 はくりちゃんが助けを求めるような目で私を見つめてきたので、頷くしかなかった。

 実際、この量は一人で食べるには少し……タコスセットも含めてとなったらちょっとそこそこキツい。特にはくりちゃんはオニオンフライまで頼んじゃってるから……わあ、テーブル凄いことなってる。


 このお店、テックスメクスでは昨日売れ残ったトルティーヤを加工してナチョスとして出している。他のお店はどうかは知らないけど、このお店では結構残るらしい……毎回作りすぎてしまってるとかで。それでこんなに大盛になってしまっているとかなんとか。


 そんなザルな計算でやっていけるのか不安になるけれど、小麦粉は安いから多少廃棄が多くなっても大丈夫らしい。本当なのかは知らない。


「それでは、タコスセットの方は少々お待ちくださいませ」

「はーい……よし」


 高橋さんがお辞儀をして厨房に戻っていったのを見送ると、はくりちゃんは目の前に置かれた食材たちを相手する為、頬を叩いて気合いを入れる。

 そんなに気合いを入れて食べるようなものではない……というか前菜も前菜なんだけど。大丈夫なんだろうか、タコスが来た時。


 私もちょっとだけ食べるのを手伝う。りんさんに取り分けてもらったオニオンリング、その上に置かれるトルティーヤチップス。

 サルサソースをつけて口の中に放り込む。トマトの酸味と青臭さ、ピリピリとした辛みが丁度よくて美味しい。


 口直しにサボテンのサラダ。ピクルスのように漬けてあるので程よい酸味が、ピーマンのような臭みとものすごく合う。これがカッテージチーズと一緒に食べたら……うん、黄金コンボ。美味しい。


「……みちるって美味しそうに食べるね」

「なんでそれでそんな痩せてんだろ……あれかな、栄養を吸収されない体つきなのかな?」

「吐いてるからだと思う」


 りんさん食事中にゲロの話はどうかと思うよ!? いや吐いてる当人である私が言えたことではないかもしれないけども。

 でも本当、実際にそうなんだよねえ。吐いてるから太れない。なので吐かず我慢しなきゃいけないんだけど……なんかこう、我慢すること自体が無理になってきてるところがあるからなあ。


 なんてことを考えながらナチョスを食べていると、高橋さんがキッチンワゴンを押して、タコスセットを持ってきた。手のひらサイズのトルティーヤが六枚と、サルサソース、チーズ、そしてライムとパクチーが小鉢で分けておぼんの上に載っている。


 それを私とはくりちゃん、りんさんの目の前に置いていく高橋さん。中々手つきが鳴れていて、相当な期間バイトしてるんじゃないかと伺えた。


 ……あれっ、ワゴンに乗ってるの……四つ? と疑問に思っていると、私のタコスセットの隣にどん、とタコスセットのおぼんを置く高橋さん。


「ちょっと詰めてくださいまし」

「あっ、はい」

「今仕事中なんじゃないのー?」

「不良バイトだ」

「休憩貰ったからいいんですわ!! 全く……」


 ……あー、そっか。ここはちょっと寂れているけど、少し行けば会社が結構建っているし、お昼時ってなると稼ぎ時だもんね。となると食事を摂る時間が……こんな時間になっちゃうか。


「ようやく休憩できると思ったら、まさかこの三人が来るなんて予想もしていませんでしたわ……」


 なんて愚痴りながら、高橋さんはトルティーヤにひき肉、サルサ、チーズをのせてライムを絞り、クレープのように丸めて食べる。

 その様子を頬杖をつきながらはくりちゃんが見つめて、口を開いた。


「なんでみちるんでもないのにバイトしてんのさひとみん」

「確かに気になった。ひとみ、バイトしなきゃいけない程お金に困ってなかった筈」


 りんさんもはくりちゃんの言葉に続くように言いながら、一切手元を見ずにタコスをセッティングするプロだなあ。なんのプロだよ。


 私も言葉にこそ出さないけど、二人の意見に頷いた。

 高橋さんは私みたいな半ば勘当された身と違って、ごく普通に愛されているお嬢様の筈。おまけに資産運用もしているからお金にも困っていない……とか聞いたのに。


 そう尋ねられた高橋さんは恥ずかしそうにそっぽを向きながら、小さい声で答えた。


「……寂しかったん、ですわ」


 寂しかった……?

 そう聞き返そうとしたけど、顔を真っ赤にして本気で恥ずかしがっていたので言葉を飲み込んだ。でも高橋さんは言葉を続ける。


「皆さんが働いて、夢に向かって頑張っているのに(わたくし)だけ何もしていないのは、その……仲間外れみたいな、感じがいたしましたの……」

「えっ何その可愛すぎる理由」

「……みちるが気に入る訳だ」


 あー……そういうことか。

 私は(今でこそ怪我をして休ませられているけども)週五でバイトしているし、りんさんもはくりちゃんも同じようにサポートバンド限定だけどバイトしている。

 岡村さんもバイトしている、というかうちのバンドがバイトみたいなものだし……高橋さんだけ、何もしていないという状態だった。のでそれが仲間外れのように感じられて嫌だったと。


「なるほど。それで、音楽関係は出来ないからってのでここでバイトを」

「ひとみんがめっちゃくちゃ可愛く見えてくるねぇ……そんなこと言われるとさあ」

「ああもう! 笑いなさい、こんな子供みたいな私を笑いなさいまし!!」


 顔を真っ赤にして立ち上がってそう叫ぶ高橋さん。でもなんでかな、いつものキッとした近づけさせないような覇気ではなく、年相応の子供らしい感じがして……はくりちゃんじゃないけれども、私も可愛いと思った。


 それ以来高橋さんは拗ねてしまったのか、ぷんぷんと怒りながらタコスを次々と巻いて食べて飲み込んで、厨房に戻ってしまった。


「からかいすぎたかな……」

「後で謝らないとだねー」


 二人の言葉に同意して、私もようやくタコスを巻いて一口食べた。

 ピリ辛に味付けされているひき肉を巻いて食べたっていうのに、不思議と心地いい甘さを感じられた。

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