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 絶対安静なのに変わりはないけれども、お医者さんが言うには、あと一週間もしたらギプスを外していいとのこと。

 ということで前祝いに、とりんさんとはくりちゃんが、私を『TRITONE』の上にあるお店『テックスメックス』へと連れて来てくれた。


 店長さんが経営を担当している、というか本業でやっているこのお店……思えば入るのは久しぶりな気がする。


 どことなくアメリカンな内装。壁にかけられている星条旗に、モデルガンのショットガン。牛の首のはく製。なんというか、とてつもなくアメリカーンって感じで……。


「ここ本当にTRITONEと同じ人が経営してるの……?」


 はくりちゃんがとても戸惑っていた。

 横を見れば、りんさんも同じように口をあんぐりと上げて茫然としている。


 まあ正直わかる。下のライブハウスとあまりに客層というか、景観が違いすぎるもんね……ここは。


 りんさん、はくりちゃんとぼんやりと突っ立っていると、奥から店員さんがやってきた。


「いらっしゃいませー。何名様で……みちるさん!? 皆さんもどうしてここに!?!?」


 私達の顔を見た瞬間、顔のパーツが外れるんじゃないかってくらい驚いた様子の店員さん。

 カウボーイハットにチェック柄のウェスタンシャツから、下はダメージジーンズとウェスタンブーツとまとめられたがっつりカウボーイの恰好をした店員さん。


「あっ、ひとみん」

「ひとみ……何故ここに……?」


 高橋さんだ。高橋さん……? 高橋さんだぁ!?


「えっあのっなっ、えっ? ……なんで? なんでここに……?」

「ひとみ、三人で」

「あっ普通に客として接してきますのねりんさんは……」

「まあ、とりあえずはみちるん座らせないとだからねぇ」


 そう言って私に目配せしてきたはくりちゃん。

 ああ、そういえば私って怪我人だった……高橋さんもそれに気づいたのか、少しバツが悪そうな顔で目を伏せる。


 大丈夫、ミスすることなんてよくあるから。私も何度も仕事でミスしてきたもん!! そのたびに責められて責められて、後輩にはパワハラしない先輩になろうと心に決めてたなあ……後輩、すぐ仕事に見切りつけて辞めてたけど。


「と、とりあえずお席までご案内いたしますわね!! 三名様入りますわ!!」


 若干焦った様子で案内されたのはテーブル席。足を曲げられない私を考慮してこの席を選んでくれたんだろう。ありがたい……。


 私と向かい合うように、りんさんとはくりちゃんが座る。

 角側の席。今はお昼時から少し外したから店内の客数はまばらだけど……多分、高橋さんが働いている姿をあまり見られたくないから、この席に案内したんだろうなあ。

 

「ご注文が決まりましたら、この銃を撃ってお呼びくださいませ……それでは!!」

「呼び鈴が銃の形ってどうなの?」

「て、店長さんはけっ、結構拘りが強い人ですので……」


 私達に頭を下げて若干速足で厨房に去っていたひとみさんに手を振る私とはくりちゃん。りんさんは呼び鈴……呼び銃が気になっているみたい。


 私も前来た時に聞いたことあるけど「アメリカンっぽいでしょ?」とだけ言われたなあ……店長、銃を撃ってウェイター呼ぶ人は西部開拓時代にもいなかったと思うよ……ってこの世界での中学生時代に思ったりもした。


 さて、とりあえず来たからには何か頼まなきゃ……と、わざわざ羊皮紙で作られたメニューを開く。


「おっコロナビールあるじゃん! これ頼まない?」

「はくり、店では駄目だよ」

「ちぇーっ……法律の野郎めー。あっ、みちるんは何頼むー? あんま高いもんは無理だけど、なんでも頼んでいいよー」

「あっ、でっではサボテンのピクスルサラダを」

「サボテン? そんなものあるわけ……あるんだ」

「えっあるの!? うわ本当だあるんだ!? 食べられるんだ!?」


 りんさんがサイドメニューに目を通して小さく驚きの声をあげる。はくりちゃんもりんさんが見ているメニューを覗き込んで驚きの声を上げた。

 結構美味しいんだよね、あれ。何というか、癖の強いサボテンって感じで。リコッタチーズが結構合うんだ。


 ……ちょっと二人にも分けてあげよう。


「それ以外は……みちるもAランチセットでいい?」

「あっはい、だい、大丈夫です」

「はくりは……同じでいっか」

「オニオンフライとナチョスもお願いー!」

「はいはい……これで呼ぶん、だよね?」

「はっはい、それです」


 注文が決まったので、りんさんが代表して店員さんを呼ぶ……のだけれど、黄金色に塗りたくられたデザートイーグルの呼び銃を震える手で持つ。意外と重いんだよね、本物再現の為に。

 そして意を決してトリガーを弾くと……店内に響き渡る、昭和アニメで流れるような銃声。びくっと肩を震わせる二人。びっくりするよね、呼ぶ音も銃声なの。アメリカを何だと思ってるんだ店長。


 銃声が鳴ってしばらくして、高橋さんが微妙に嫌そうな顔をしてやってきた。


「ご注文はお決まりかしら?」

「タコスセットAランチ三つ、オニオンフライとナチョス、サボテンのピクルスサラダ一つで」

「ご注文、繰り返させていただきますわ。タコスセットAランチが三点、オニオンフライ、ナチョス、サボテンのピクルスサラダが一点で間違いないなくて?」

「OKだよー」

「はあ……それでは、少々お待ちくださいませ」


 高橋さん、結構慣れているというか……スムーズに注文取ってくれた……結構長いのかな、ここで仕事して。そんな訳ないか。

 ちょっと接客雑な感じしたけど、見た目と服装、店の雰囲気に合ってるし……それに友達がバイト先に来たらこういう感じになるよね、そりゃあ。


 高橋さんが注文を伝えに厨房に戻っていった。


 銃声、羊皮紙、銃、カウボーイ……と、色々な要素を目の当たりにしたりんさんはふと呟いた。


「……この店、色々と間違えてる気がする」


 わかる、その気持ちすっごいわかるよ。

 私も始めて来た時思わず足立山さんに言っちゃったもん。これ合ってるの!? コンセプト合ってるの!? アメリカの人来たら怒らない!? って。


 まあ外国の人がここまで来るなんてこと滅多にないから今に至るまで問題にはなってないけど……でも店長、全国チェーン狙ってるんだよなあこれで。


 少し考えこんでいるりんさんに、はくりちゃんがスマホを、みんなに見えるようにテーブルに置いた。


「色々間違ってる感ばかりなのに意外と人来てるっぽいんだよねー。ほら見てレビュー評価」

「えっ、あっ結構高い……!?」

「嘘でしょ……」


 ☆3.6もあるんだ、このお店……まあ料理は文句なしに美味しいけれども。

 りんさんが信じられないものを見る目で絶句してるけど、まあ……話題性だけならバツグンだからね、ここ。


『タコスは本場メキシコ……の隣にあるテキサスのを完全再現! のみならず向こうより頭の悪くジャンクなアレンジをしてくれて最高!! 脳みそにガツンと来る味で常連になるレベルで通ってます!! ただ呼び出し音が銃声なのはビックリするし子供に悪影響を及ぼすしアメリカの友人怒らせそうだから☆3点です』


 あっやっぱ銃声で減点なるんだ……。

 ……他のレビューにも軽く目を通してみたけど、味はともかく銃声の呼び出しベルは評価が悪い……。


 ……うん、でしょうね。

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