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 手足を捻挫してしまい早一か月。その間はギターが弾けないので曲と歌詞を延々作り続け、ライブを通して出来たファンやりんさん、ひとみさんに慰められながら過ごしていた訳ですが……。


「私、このままでいいのかな……」


 足立山さんが買ってきて足立山さんが作ってくれた肉じゃがを食べながら、ふと私は現状に疑問を抱いた。

 お世話されっぱなしというか、甘えっぱなしというか……果たしてこんなんで良い歌詞を作れるのだろうか、と。良い曲を作れるのだろうか、と。


 ただ、私が「今、筆がノリに乗ってる……!!」ってなった状態になったら、りんさんが心配して凸してきたからなあ……不満と絶望が良い原動力になるんだけど、私の友達……いや知り合いの、死ぬんじゃないかゲージがグングン上がってしまう。


 ……なので創作の頻度をこれ以上上げることは出来ない。じゃあどうするべきか。どうするべきなんだろう。


 というか知り合いに甘えまくってるのはいいんだ。実際私のメンタルとしても助かっているし、向こうがそれを求めてきているしだから。


 ただ、このままずぶずぶとそのまま過ごし続けたら……なんというか、治った後も駄目なまま、変わらず過ごしてしまいそうなのが怖い……。


「よし……足立山さん」

「ん、どうしたっすかーお嬢? 美味しくなかったっすか?」

「いっいえ、とっても、とってもおい、美味しいです……あの、私になに、何か出来ることはあ、ありますでしょうか……? その、かい、お買い物も、りょう、料理も全部やってもらってて、もっ申し訳ないと言いますか……」

「病人は体を治すことにだけ集中していればいいんすよー」


 あう……取り付く島も無し。自己肯定感上げようもなし。

 実際のところ、今の私の状況って飼われている、んだよね……。働きもせずに足立山さんからも、知り合いからも。慰められて、ご飯食べさせられて、って感じで一日過ごしているから。


 掃除だけでもやった方が良いのかもしれないけど、足立山さんが自分でやった方が絶対綺麗になるし……買い物と料理くらいなら今の状態でも出来なくはないんだけどなあ。すごい痛むけど。


「どうしたんすかお嬢。もしかして……まーた自分には価値が無いーとか考えてんじゃないっすよね?」

「いっ、いえ! 決してそのような事は……なっ無いと、おも、思います、けど」

「そこは言い切ってほしかったっすねー。まあお嬢だから仕方ないっすけど」


 呆れたような、でもどこか愛おしそうな目で私の頭を撫でる足立山さん。

 足立山さんの手だけは、怯えることなく受け入れられるようになった……二年前からだけど。


 あの家で、足立山さんだけはこういう風に頭を撫でてくれた。だから私は足立山さんの手が好きだ。


 今となってはクラスメイトも、高橋さんの友達も、りんさんもはくりちゃんも撫でてくれるけど。なんというか、贅沢になったなあ私。


「……悩みあるならウチが聞くっすよ? ウチはお嬢の味方っすから」


 撫でながら、優しい声でそう言ってくれる足立山さん。

 足立山さんにだけは隠し事はできないなあ……って思ったけど前世の事がっつり隠してたわ。何が隠し事できないだよ信じられるだよ全然信じられてないじゃないか私。


 ……まあ、今の時点で抱えている悩みに関しては言ってもいいかな。


「えっと、なや、悩みって程ではないんですけど……あの、いっ今って、わた、私……働けてないじゃないですか? なのでバイ、バイト代も貰えない状態で……ここにいて良いのかな、って」

「あー……大丈夫っすよお嬢。今みたいな生活を続けるのであれば、お嬢を養うだけの蓄えはちゃーんとありますし。お嬢を養う為にこの家に連れて来たってところあるっすから!!」

「えっやしな、えっ?」

「それに、今更お嬢を放って見捨てる事なんて出来ないっすからね。生活能力低いっすからお嬢」


 私を養うだけの蓄えがある、ってのはありがたい。いや子供の頃からお世話になってるってだけで赤の他人であるのにいいのかって気はするけど! 疑問は浮かぶけど! 私を養うために連れて来たってどういうこと!?


 というか、あれっえっ生活能力低いって思われてるの私? なぜぇ!?


「えっと、あの……い、一応ひと、一通りの家事はできま、できますよ……?」


 洗濯は……今の時代、ぽちっとボタンを押すだけですぐにできる。掃除だって別に汚すとか、ゴミでいっぱいにするような性格じゃない。ちゃんとゴミは捨てるし、掃除機だって雑巾だってかける。


 少なくとも、これらができるし出来るところ見せているのに……足立山さんが風邪ひいた時はおじや作ってあげたりしたのに……家事出来ないと思われてる!?


「お嬢、生活ってのは家事ができるってだけじゃないんすよ? 食事と睡眠をちゃんと摂れるかってのも含まれているっす」

「……あー」

「全く寝ないしその状態で学校にもバイトにも行くし、おまけに食事だって全然摂らない毎日吐いてしまう……これのどこが生活能力あるっていうんすか?」


 くっ、おっしゃる通りです……睡眠時間は基本二時間でそれ以外は立ち眩みするまでギター弾く生活が私の理想の生活です……。

 なんてこった生活能力というか、生きる能力が無いじゃないか私。足立山さんが拾ってくれなかったら死んでたんじゃないか私?


「それに、お嬢を迎え入れた一番の理由はお嬢のギターを聞くことなんすから、早く治してくれないと寂しいっす。なので今のお嬢は治すのが仕事っすよー!!」

「……けっ、結局そこに帰結するんですね」


 はあ、と肩を落としため息を吐く。

 最終的にはこの、今となっては全く使い物にならなくなってしまっている手足が動かなければ、足立山さんへの家賃を支払うことはできないという事だ。……ぶっちゃけバイト代程度じゃ賄えないくらいの家だしここ。気になって土地の相場とか見てみたら気絶するかと思ったもん。


 でもギター……ギター、かあ。


 足立山さんはそう言って私のギターのメロディを求めてくれているみたいだけど、正直、前みたいに弾ける自信は無い。

 三十年、四十年くらいかな? そのくらい積み重ねた腕も、今日に至るまで全然弾けていない今となっては相当劣化しているだろう。それこそ初心者レベルに。


 ……そうなると、楽しかったはずのギターを弾くのが少し怖い。ヘタクソになってて、足立山さんが私を捨てるんじゃないかって。

 リハビリまでどれくらいかかるか分からないけど、出来るだけ早く取り戻さなきゃなあ。


「……今考えてもしょうがないか」


 そもそも腕が治るかもわからないし、もしかしたら下手になってないかも……はあり得ないか。

 ギターの腕が下手になっているかもしれないという不安を更なる不安でかき消して、その不安を誤魔化すように私はPCを開き、曲作りを再開させた。


 どうしようもないものは、ギターを弾けない不満と絶望は、こうして誤魔化すに限る。

 ……手、使い物にならなくなってもいいから弾きたいなあ。

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