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なんとかチケット全部ハケさせることができて一安心……突発的に開催した路上ライブは大成功で納めることができた。路上っていうか校門前ライブだったけど。
りんさんとはくりちゃんも友達とかにチケット全部売ることできたみたいだし、これで後は一週間後に備えて待つだけ……なん……だけど……。
「あっ、あの……」
「いいなぁ、路上ライブやって大反響の中チケット売って完売とか最高にロックじゃん。いいなぁー!!」
「私らもやればよかったね」
本番に備えて練習をしたいものの、エンジンはそう簡単にはかからない。アイスブレイクがてらそういう話をスタジオでしたら、はくりちゃんとりんさんからすっごい羨ましがられていた……なんならはくりちゃん、ちょっと拗ねてるし。
別に演奏したこと自体は問題じゃないしむしろ本番に向けての高橋さんの練習になるからOKらしいけど……ロックな逸話を持つことができた、ってのが羨ましいみたい。
まあ、私も正直……前世でもこういう売り方してなかったからなあ。良い経験できたとホクホク気味だったところはあるけれども……。
「おまけにみちるんの格好いいところ見られたんでしょひとみん」
「いえ、見てはいませんわよ?」
「そうなの?」
「ただ……普段のおどおどとしたのとは違う、自信満々なみちるさんの横で思い切り歌えましたわ」
「いいなぁーーーー!!!!」
高橋さんなんでそんな得意げなのさ!? というかそんな自信満々ではなかったよ!? 普段通りだったと思うよ!?
しかもはくりちゃん、高橋さんの言葉に本気で羨ましがってる……えぇー……そんなに……?
というか……。
「あっ、あのっ……お二人の方が、ふだっ普段演奏している私の事見て、るんじゃないか、と」
「全然違うんだよみちるん、トンカツとかつ丼くらい違うんだよ!!」
「うん。ホームではなくアウェイなところでも自信たっぷりなみちるを私たちは見てないから」
「……母校はホームの筈ですわよね?」
アウェイって程ではないと思います……みんな何かと優しいし。
というか高橋さんからの評価が怖い。過大評価にも程があると思います! いや普段の私がどんなのなのか知らないけどさ。自分の事客観的には知らないけどさ!!
「り、りんさんとはくり、ちゃんはどっ、どういう風にチケットを売ったんですか?」
「うーん、普通に……学校の友達に売ったよ?」
「チケット買ってくれたら抱きしめるサービスやったら売れた」
「そんな売り方でいいんですの!?」
はくりちゃんはともかくりんさん、体張ってると言うか、ある意味体売ってると言うか……そんな自信満々に言う事じゃないと思う……。
でも確かに、この二人と比べると私たちの売り方はかなりロックというか、色々と語れるくらいインパクトがあるというかって感じがする、かな……はくりちゃんが羨ましがるのも分かる気がする。
でも私だけだったら絶対やれなかったからなあ。実際、どう売るかマジで困ってたし……足立山さんに頼んで、友達に売ってもらおうとか考えてたからね。
「はぁー、売り方間違えたなー……。ねえ、ひとみん。初めてのライブどうだった?」
ひとしきり羨ましがった後、りんさんの肩に顎を置きながらはくりちゃんが尋ねる。
そっか。そういえば、高橋さんはサポートに入った事も無いし今までずっと観客目線でしかいたことなかったっけ。思えばあれが初めてのライブか。
高橋さんはその質問に、微笑んで答えた。
「……最高でしたわ。皆が私の音楽の為に集まり、永井さんと私のギターに聞きほれて足を止め、リズムに乗ってくれている。本当に、初めての最高の経験をしたと思います」
「その様子なら、本番でも大丈夫そうだね」
「だねー。ちょっと心配してたからね、このメンバーの中でライブハウスの舞台に立ったことないのひとみんだけだし」
はくりちゃんが安心したように笑う。
一応ヴァイオリン経験者ではあるんだけど、ヴァイオリンの演奏とギターの演奏とではまた勝手が違うところもあるんだろう。実際、上手く言えないけどヴァイオリンとギターの演奏披露では何か決定的な違いがあると思うし。ヴァイオリンの方は詳しくないから何とも言えないけど。
……そう考えると、あの路上ライブも高橋さんにとってはかなりのレベルアップにつながる経験になったんだろう。
そして、その経験を得るために一歩踏み出したのは高橋さん自信という……なんというか、凄いなって思う。最高にロックしている気がする。
私なんて現状維持で精いっぱいだからね、正直。何かを変えたいとは思いつつも、何を変えればいいか分からない状態というか……行動できない状態というか……ただ怠けてるだけですすみません。
「……高橋さんは凄いなあ」
「私が凄いのは当然ですわよ?」
私が呟いた言葉が聞こえていたのか、当然のように言ってのける高橋さん。その自信も凄いよ。どうなってんの自己肯定感。
私絶対自分の事凄いって言えないもん。言われたらすっごく照れながらも否定はしないけど。
「こんな短期間で普通に演奏できるようなったのは実際凄いけど」
「自分で言うねぇ本当……」
「何度も言うようですが、私が知る限り最高のギタリストにギターを教わっているんですから……これで謙遜しては永井さんにも失礼というものですわ」
何度も、もう何回繰り返したか分からない高橋さんの言葉。顔が「まだ理解していませんの……?」という呆れ顔になってきてる。
すみません私自信逆過剰で……というか、私がどれだけ凄かろうと数か月でここまでマスターさせられるのは普通出来ない事だからね高橋さん。あと私の事かい被りすぎだよ高橋さん?
「……このメンバーならプロデビューできそうな気がしてきた」
「だねぇ。この機会逃したらもう一生巡ってこないような気がする」
「……そういえばメンバーで思い出しましたけど、岡村さんは今日はいませんの?」
あっ、そういえば……ウチの正式メンバーではなくあくまでトラという形ではあるけれども、岡村かおるさんの姿が無い……。
本来ならトラも一週間前からライブの練習とか、段取りとかを詰めていくものなんだけど……はくりちゃんもりんさんも普通に当日で即興で合わせてるからすっかり忘れてた。『岡村さんトラってことは私達と同じタイプなのかな~』って思ってた。
なんて業界の常識と私たちの常識のズレに今更ながら気づいていると、勢いよくスパンと扉が開かれる。
「ピャッ」
「ッギリッギリッセーフ!!!!」
びっ、びっくりした……ぜーぜーと息を切らしながら、汗だらっだらで入ってくる岡村さん。背中にはキーボードの入った十字架。運びにくくないのかな、って見るたびに毎回疑問に思う。
「かおる、遅い」
「ギリギリ間に合ったからセーフじゃない? あぁ~……腰が……」
「あっ、あのっ、だい、大丈夫です、か……?」
中にキーボードが入っているとは思えないくらい荒い感じにドン、と十字架を置いて、しかもその上に座って息を整える岡村さん。
いや中に機材入ってるけどいいの!? って思うけど、前触らせてもらっら思いっきり鉄の感触してて……この人、鉄の塊背負ってるんだ……ってちょっとびっくりした。
「少し休憩したら練習しよっかー」
「だから早く来てって言ったのに……」
「いやごめんごめん、ナンパされてて断るのに遅れた……いやぁ、女の子にモテるのは辛いねぇ」
そういって軽い感じで謝る岡村さん。
ナンパされたんだ……岡村さん。しかも女の子に。まあ男の人にしか見えない服装してるけれども……。
「はいはい、もう休んだでしょ? 練習始めるよー!!」




