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高橋さんの計らいでチケットを売る事ができた私、残るノルマは三枚。高橋さんは二枚……未だ捌けてないチケットが残っている。
これをあと一週間のうちに売り切らなきゃいけないんだけど、その解決策に高橋さんが導き出したのが……校門前でのゲリラライブ……。
……あの、高橋さん? マジでやるんですか? あっマジでやるんですね。
「きょっ、許可とかは……」
「既に取り終えておりますわ」
うわあ許可証までちゃんと発行してる……しかも古川さんたちを手伝わせてアンプやら運ばせてる……行動早いなあ。
……にしても、今日こんな公衆の面前で演奏するつもりなかったからすごく緊張する。今日はサポートの仕事も入っていないし、バイトも休み取らされたから暇ではあったけども。
でも、緊張と同じくらい……ううん、それ以上にワクワクしている自分がいる。前世では何度かやったことあったけど、今世では今日にいたるまでやったことなかったストリートライブ。前世の楽しかった思い出の一つをまた歩めるというのに。多分それが、とても嬉しいんだろう。
そこそこの大きさのスピーカーに、高橋さんが使うマイク。バンドメンバーは私と高橋さんだけではあるけれど、完璧にライブができる環境を揃えてくれた。
腰を叩きながら額に浮かんだ汗をぬぐいながら、古川さんが疲れの息を吐く。
「ふう……疲れたぁ。機材設置を掘れた男にも手伝わ──」
「わっ! わぁー!! ちょっいきなり何をというかなんで知ってますの古川さん!?」
「あーはいはい、ごめんねー」
何の事だとでも言いたげに首をかしげる中谷さんに聞こえないよう大声を出す高橋さん。それを軽くあしらう様はまるで高橋さんの心中を知っているようにしか見えない。
……まあ、どうでもいいか。今の私たちにとってはチケットを買ってくれたお客様で、機材を快く貸してくれた恩人だし。今はそれだけで十分。
「こほん……中谷様、そして古川さん、機材の貸し出し及び設営にご協力いただき、感謝の言葉もありませんわ」
「いいっていいって。永井さんの助けにもなることだしねー」
「……まあ、あいつの為ってんならな」
「……永井さんの?」
えっなんでそこで私の名前が出るの? いやいやいやいや、私関係ないよ? 確かにちょっと顔見知りではあるけれども、ちょっと話したけれどもそのくらいの関係でしかないよ?
あの、高橋さんその恋敵かって疑う目やめて? 狙ってないから。私中谷さん狙ってないから。原作キャラ狙ってないから。
「何かと死にそうな雰囲気漂ってるからねぇ、これをきっかけに永井さんが少しでも明るくなれるんなら……」
「流石に言いすぎじゃねえか?」
「……否定はできませんわね」
「あのっ、えっ? なっ、なっえっ?」
ねえ三人の中の私の印象どうなってるの!? 死にそうってなに!? 私そんな自殺しそうな人だって思われ……おも……思われてるなあ。古川さんとの最初の会話思い出したら。
いやでも高橋さん!? そこそこ長い付き合いなのにそう思われてるの!? 私希死念慮そこまで持ってないよ!?
「んじゃ私ら見てるから、演奏頑張ってね」
「どんな曲を奏でるか聞かせてもらうぜ、ひとみ」
「はっ、はい……!! ええ、中谷様、永井さんが鍛えてくださった技術をお聞きくださいませ!!」
「えっ、あっはい。頑張ります……」
演奏する曲は……お二人に機材を設置してもらっている間に二人で決めておいた。
『いきたくない』のインスト版。ベースもドラムもピアノも無いからちょっと寂しいけれども、試曲としては十分だろう。
古川さんと中谷さんも、他の生徒達が見やすいよう少し距離を取ってくれる。ライブハウスとチケットの値段を書いたスケッチブックを立てて、私と高橋さんの目線が合い、同時に頷く。
音響も糞も無い野外ライブ。しかも私と二人きり。最初のライブにしてはかなり状況は悪いけれども、私は何のためらいもなくギターをかき鳴らした。
「……高橋さん、いける?」
「ええ、いつでも」
ドラムもベースもいないから私がリードしなきゃいけない。いつもとは勝手が違う環境。何が始まるかと立ち止まる生徒達。
視線が私達に集まる。ライブハウスとは違う、聞きに来ている訳ではない人たちの前での演奏。でも緊張は無い。だって私はギターを持って、ギターを弾けるのだから。
「……行くよ」
「はい!」
足でワン・ツー・スリーとリズムを刻み、高橋さんをリードするようまずイントロから。
昨今じゃイントロ無しで即始まる曲が流行ってるらしいけど、流石に初心者には厳しいからね……でも、ちゃんと私の演奏に付いてきている。ギターを始めてまだ半年も経っていないというのにこの腕前、というのは少し嫉妬してしまうかも。
古川さんと中谷さんも乗ってくれている。足を止めて聞いてくれる人が増えてきた。まあ、当然かな。だって高橋さんの声、どこまでも届くかのように透き通っているもん。
「……あいつに引き抜かれなかったの、後悔してねぇか?」
「それはしてないけど……ウチに入れればよかったかなって後悔はしてる。すごく」
古川さんと中谷さんが何か言ってるようだけど、集まってきたみんなの歓声にかき消されて聞こえない。
気が付けば凄い数の人が私たちの演奏を聴いていた。視線の雨が向けられる。普段であれば注目どころか一瞥すらされないだろう私にまで。
でもやっぱり、一番注目されているのは高橋さんだ。力強い声とギターの音色に乗って、私の書いた詩がこうして音楽という形になっている……ふふっ、ニヤけるのが止まらない。
高橋さん、最高に気持ちのいい顔をしている。今この世界の中心にいるのは高橋さんなんだから。
熱狂的な音色もやがて終幕を迎える。人の数はちょっとしたクラス分くらいはある。息の上がった私と高橋さんとで目線が合い、互いに親指を立て合った。
「最高のライブでした」
「……ええ、永井さんのお陰で」
満面の笑みでそう返されて、私は少し気恥ずかしくなり鼻を掻いた。
肩で息をしあいながら、思わず二人で笑う。今私達、最高に青春しているな……と。
「二人ともさあ、忘れてない? チケットの販促」
「あっ、えっあっそうでした。あのっ、今度らいっ、ライブやりますので……よろしければ、ちっチケットを購入してくださると……」
「……さっきまであんなに格好よかったのに、勿体ないですわねぇ」
しっ、仕方ないでしょ!? もう染み付いちゃってるんだから! こびりついちゃってるんだから!!
うう……さっきまでかっこよく決められてたのに笑われちゃってる……。
「高橋さん、こんな凄い演奏できるなんて知らなかったよ。チケット、買わしてくれる?」
「あっ私も! 絶対ライブ行くから!!」
「永井さん……普段はああなのに、こんなギャップ魅せられたら……!!」
あっ、うわっ凄い……チケットが、チケットが売れていく……!!
正直「売れても二枚くらいかなー?」なんて思ってたのに、気が付いたら私たちの手元からチケットは無くなっていた。
そればかりか当日券で行くと言ってくれた子がいっぱいいて……まさかここまで上手く行くとは。
「……やりましたわね永井さん! 私達、路上ライブ成功させましたわ!!」
「あっ、はっはい。たかっ高橋さんが頑張ったから、です……」
「永井さんの指導が完璧だったからですわ!! うふふ、これからもよろしくお願いしますわね!!」
あっ、はいそれはもうこちらこそ。こちらこそなのですが……感極まってくれて嬉しいのですが、抱きしめる力が強いといいますか。
あのっ、おっぱいがね……! 私の鼻を塞いで……ちょっ、くるしっ、息苦しい……!! しっ、死ぬ……!?




