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私は今日、自分の教室で一人どうすればいいのか悩んでおりました。
永井さん、谷野さん、角田さんとの話し合いの結果、ライブの開催は約一週間後に決まりましたわ。もう既に私の技術はサポートはともかく十分ライブで通用するレベル……と太鼓判を押されましたが、果たして本当に通用するのか。
……サポートはともかくって通用すると思われているのかしら!?
ま、まあ今は考えないようにしておきましょう。
とにかく、ライブ開催まであと一週間。そしてその一週間で……私の手元にある三枚のチケットを売って、来てもらわなければならない……。
どうすればいいのかしら。とりあえず二枚は、私の友人に売ることができましたわ。……ですが、私、そういった売り込むことには不得手ですので……うぅん、中谷様に一枚、黒川とそのバンドメンバーに……いえそれでは二人に売る事ができませんわね。こういう時ハブかれた方はかなりショックを受けるものですし、そうなっては可哀想……。
黒川をハブる? いえ駄目ですわ。フェアに動かなければ中谷様に悪印象を持たれますし、なにより私の理念に反します。
「お姉さま……本当にライブやるんですね……」
「あれ、お姉さま―。おーい……どうしたんだろ」
……永井さんと一緒に売り込みに行く? 正直それが一番安定していると思います。バンド歴がかなり長いとお見受けしましたから、チケットを売り込む技術の恐らく私より数段上……上なのかしら? 思い返してみたら、うん、ちょっと……。
永井さんには悪いですが、自分から売り込みに行くのが想像できるかと申されますと……正直、全く無理そうですわね。
「……お姉さま、チケットを見つめたまま動きませんね」
「お姉さま、こういった売り込む事経験ないだろうからねえ……どう売ればいいか悩んでるんでしょ」
……もしや、私が永井さんと一緒にチケットを売り込みに行かなければならない? ただでさえ慣れていないというのに?
まあ、一枚千五百円……買ってくれる人は普通にいると思います。
ただ店長さん曰く、チケット代だけでは元を取れないとのこと。ドリンクも買ってくれなければかなり困るとのことですから、出来る限り来てくださる方にお売りしたいところですわ。
……何より、あのライブハウスのある場所が場所ですからね……治安が、治安が著しく悪いところですから、そんなところに来てくださる方なんて……。
……いえ、そういった方を誘い出す方法はありますわね。学園の校門で半路上ライブ、これなら音楽好きな生徒を炙り出すことが可能。
「……アンプ、スピーカーはありますが、皆に聞かせられる、ライブで演奏しない曲は……いえ、この際インストで演奏する? でもそれですと私の力ではなく永井さんの力で手に入れたようなものに……いえそもそも練習用の機材でいいのかしら?」
「お姉さま、ちょっと考えすぎている気がしますね」
「何かと考え込みがちな人ではあるからねえ」
正直、私達が毎日持ち歩いている小型の携帯用スピーカーでは出せる音量に限界がありますわね。練習用に、となるとどこにも持ち運べて便利ではあるのですが、路上ライブで使うとなると効果はあまり期待できませんわ。
かといって家の人に持ってきてもらうのは無理ですわね。趣味の事となると家を頼るな、が家訓ですもの。
ならバンド仲間に持ってきてもらう? 永井さんなら可能でしょうが、私はそこまで交友関係があるという訳でもありませんわ。というかあんなに顔が広いのですから、永井さんはもう少し胸を張っても赦されると思うのですが……。
ん? バンド仲間に持ってきてもらう? 友達に、持ってきてもらう?
「スピーカー……アンプのある場所……軽音部……?」
「お、お姉さま?」
「そうですわ!!」
「うわびっくりしたぁ!? 急にどうしたんですかお姉さま!?」
ありますわね。あるじゃありませんか! 外部の誰の手も借りることなく! 自由に持ち出せる最高のスピーカーが!! 軽音部に!!
少し練習の邪魔をしてしまい迷惑をかけてしまうというのが難点ではありますが……それらを補って余りありますわね。チケットを売れますもの!!
そうと決まったら早速行動あるのみですわ!! ギターを持って、乗り込みますわ軽音部!! ……今は朝ですから放課後に!!
授業を受け、お昼のギター練習を終えた放課後、私は永井さんを連れて軽音部の部室へと訪れましたわ。
「ウェア」
「おう、ひとみと……確か、永井、だったか?」
「ヒャイ」
「ごきげんよう、中谷様。時間があればぜひデートのお誘いをしたいところですが、残念ながら今日はまた別の用事ですの」
「別の用事?」
部室の扉を開けると、中谷様と古川が顔を合わせてギターの練習をしていました。そのことに思わず歯噛みしそうになりましたが、ここは飲み込んで……ええ、淑女ですもの。みっともなく喚き散らしたりなんていたしませんわ。それに今は古川に関わっている暇がありませんもの。
「ええ、私達……一週間後にライブを致しますのですが、チケットを売ることが出来ておらず……そこで宣伝の為に校門前で演奏をしようと思いまして。そこでスピーカーとアンプをお貸しいただければ、と」
「ソデス」
「えっ高橋さんライブするの!? ねえ健司凄くない!?」
「……あっ、ああ。ひとみ、凄いな」
「……あの、高橋さん」
「……何かしら?」
「みちるちゃん、何があったの?」
「ウェア」
痛いところを突かれましたね。どういう訳か軽音部へ近づくにつれ言語能力を失ったみちるさん、普段の吃もりながらも話せる状態と違い、なんというか……なんですのこれ?
表情も居心地悪そうというか、例えるなら日の光を浴びる吸血鬼のような苦しそうな表情をしていますし……。
「……吐きそう?」
「ダイジョブデス」
「あんま無理しちゃ駄目だよ? 保健室行く?」
「キラキラセイシュンオーラニヨッタダケデスノデオカマイナク……」
中谷様のバンドメンバーである木田さんと石田さんが、私の背中で緊張しっぱなしでガチガチになっている永井さんの介護をしておりましたわ。
……永井さん、バンドメンバー以外からも介護される存在でしたのね……。
「えっと、貸すのは大丈夫なんだけど……永井さん大丈夫? 演奏できそう?」
「……永井さんはギターさえ持てば大丈夫ですので、多分……」
くっ……古川の疑問に何も言い返せませんわ……!! 正直、いつもサポートでバンドに入って演奏している姿を見ている私ですら「この人大丈夫かしら……?」と不安が拭えませんもの。
とはいえ、いざやるとなったら決めてくれるのが永井さんですし、ここは私が信じなければならない場面です。ええ、永井さんの分のチケットも売る為にも……!!
「……貸すのはいいけど、ひとつ条件があるよ」
「ええ、構いませんわ」
「私達にもチケット売ってくれる? みんなも行くよね。他のバンドを見ることができるチャンスだし」
「……その日は塾が」
「ごめーん! その日はちょっと予定入ってるから無理!!」
「…………二枚売ってくれる?」
……このバンドメンバー、ウチが言えたものではありませんが……協調性がありませんわね……。
「うぇあ」




