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 なるほど、りんさんとはくりちゃんのスーツはこんな感じか……ネクタイを自分のパーソナルカラーにして印象付ける、と。

 となるとひとみさんは赤色のネクタイをビシっと決めたスーツ……似合うだろうなあ。

 で、私は……私、は……。


「黒のスーツに黒のネクタイ……?」

「喪服っすねそれ」

「で、ですよね……」


 私は今、足立山さんと一緒にスーツを見に来ている。

 バンド衣装、スーツに決まったよと足立山さんに報告するとそれはもうノリノリで私を連れて車を走らせ、こうして買いに来たという訳だ。スーツ代の為銀行寄りたい言っても無視された辺りもしかして足立山さん、私に貢ごうとしてない?


 まあ、それならそれでいいか。たまには足立山さんに甘えても……いいのか? いいだろう。奢ってもらうのであれば着せ替え人形になるのも受け入れようじゃないか。待ってどこから持ってきたのその全身緑色のスーツ。せめて白にしてせめて。


「うぅん……」


 バンド衣装としてバッチリ合うスーツを探す為、というより足立山さんが私を着せ替え人形として遊びながらも真面目にスーツを選んで一時間と数分……ここで思わぬトラブルが発生した。


「どのスーツも……なんというか、着られてる感が凄いっすね」

「や、やっぱりそう思いますか……」


 正直鏡で私の姿を見て私が思った感想もそれだった。なんというか、子供が親のスーツを着ているような感じというか……おかしいな、コラボ企画かなんかでちらっと見た際はかっちきっかり決まってたんだけどな……。


 いや駄目だ体格からして別人から似合わんわ。前世の記憶の永井みちるはちゃんと健康的に肉ついてるわ。それに比べたら私ってホネホネだからね……そりゃ似合わんわ。似合えんわ。


「お嬢って身長高いのがネックなんすよねぇ……それに合わせるってなるとどうしても生地が大きくなるものしかないっすから。でそうなると体が細いのでどうしてもぶかぶかって感じになってしまって……」

「うぅ、すみません……」


 足立山さんの時間をここまで浪費させてしまい本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる……おまけに痩せている原因が原因だから申し訳なさ倍プッシュだよ。

 何せ足立山さんが作ってくれた料理、ほぼ毎日吐いて無駄にしちゃってるからね……小説とかだとブラック企業時代に培った忍耐力~とかいう展開がよくあるけど、私の場合逆適応されたからね……できるだけ逃げるようになりました、はい。トラウマから逃げきれてないから吐いてます、はい。


 毎日吐きまくったお陰で腕とか足とか骨に触れるよ! あばら浮き出てるよ!! どうすればいいのでしょうか……!?


「ただ切り詰めるってのじゃ合わせられないレベルっすからねぇ……もうオーダーメイドした方が安く済むんじゃ」

「おっ、オーダーメイドはさすっ流石にやりすぎじゃ……? あのっ、高すぎるときっ着るのが怖くて……」

「……なーんで貧乏性なんすかねお嬢は。永井家の娘だってのに。かなりデカい家っすよあっこ」


 いや……なんででしょうね。全く活かされない前世の記憶があるからでしょうね。まあ理由は癒えないんだけど。

 だって絶対頭おかしいって思われるから。長いことお世話してくれてる人を信じられないのかって? 人間はみんな信じられないよ私は。常に疑って御機嫌窺うよ、ギターを弾くために。


 それはともかく、ここまでスーツが似合わないのはちょっと想定外だった。抱える気持ち悪さもそこまで……なのも想定外だったけど。ちょっとはメンタル癒されたってことなのかな? 癒されてこれかあ……。


「うぅん……でも、そうっすねぇ……オーダーメイドは嫌と言われても、ウチ流石に切り詰める……というかもうほぼ作るようなものになるっすね。流石にそれは無理っすよ?」

「あ、ああ……そうじゃん。私っ、私本当馬鹿っ」

「ぶっちゃけ今後も使うことなるっすしオーダーメイド作っちゃってもいいと思うっすよ? というかウチが切り詰めようとして失敗するを繰り返すより、そっちのが確実に安く済むっす」


 足立山さんに言われて確かに、と納得した。確かにオーダーメイドのスーツは高い。でも足立山さんは服飾に関しては素人だ。そんな人にオーダーメイドのスーツを作らせると、かえってそっちのが高く付く。

 ……いやなんで普通に自分が作る想定なの? いや私にオーダーメイドで作れと言われてもそれはそれで困るけども。


 ……にしても、今後? どういう事だろう。


「あっ、あのっ、今後も使うというのは……やはり、しゅっ就職活動をしなければ……?」

「いやそっちはいざとなったら養うから大丈夫っす。そうじゃなくて……冠婚葬祭とかで着ていくのが一着あった方がいいじゃないっすか?」


 ああ、確かに……頭からすっぽり抜け落ちてた。ギタリストとして、バンドマンとして今後やっていくにあたり、音楽プロデューサーとか、スポンサーとか、ライバルのバンドのみならずそういった人との付き合いも増えていくことになる。なんならパーティーに呼ばれたりすることもある、かもしれない。捕らぬ狸の皮算用にも程があるけども。


 そうなった時にダサい服しか無いってなったら、それは失礼というもの。

 ……なら今のうちからスーツを作っておく、というのもアリかもしれない。


「イージーオーダーならそこまでかからないっすし、ちょっと作るのに面倒がかかるっすけど……でもお嬢、絶対損はしないと思うっすよ!!」

「そっ、そうですかね……でっ、ででででも私みたいなのが、そっそんな、そんな服着て……へっ、変に思われませんか……?」

「バンドで飯食っていこうって時点で変っすから大丈夫っす」


 それ大丈夫じゃないですよね!? いや一般論的にはそうなんだけどさ……本気で音楽でご飯食べていこうなんて、普通は思わないものだけどさ!?

 ただまあ、私には本当これしかないってのが人生の難点で……難しい問題だよ本当。まともな会社は確実に務められないし、じゃあ裏の社会で生きていけるかって言うと無理で……なんてこった、バンドマンが一番安定してる。そんなことあるぅ?


 足立山さんの熱弁で、私の中でオーダーメイドでスーツを仕立てる、というのが現実的な視野に入ってきた。そこまでかからないって話なら恐怖心もそこまで抱かず着られるだろうし……スーツだと色々な場所で使えるってのは盲点だったし。


 ただひとつ、気になることがある。それは……値段だ。


「とっ、ところでいっ、イージーオーダーって……おい、おいくらくらいかかっちゃうんですか……?」

「市販のとこでやるってなると、大体……五万から二十万ってとこっす」


 ごまっ、にじゅうっ!? 高くない!? いや、高くない!? 最高額なんか私の使ってるギターより高いよ!? 高橋さんのギターよりは安いけど!!

 ええ~……そんなの払える額あるかな私。それなりに貯金はしてあるんだけど、ここまで高いものとなると……ギター関連のは切り詰めたくないし、となると食事とかの方を詰めていくのを視野に……。


 …………ん? 足立山さん、私を養うとか言ってなかった?

 ……………………気のせいか。

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