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 ひとみとかおるのお陰で、ひとまず三曲作ることができた。後はそれをひたすら覚えるだけ。やることは簡単。

 ただもう一つ、最後に決めておかなければならないことが残っていた。


 ライブ衣装の作成。


 ぶっちゃけ制服で演奏してもいいし、かおるなんかはもうあの格好がロック(というよりブラックメタル)の域だ。駄目なところの異性装してるからねあいつ。

 とはいえ、みんなで統一したライブ衣装を着るというのは結束が固くなる、というのもあるが、いわゆる日常生活とライブのスイッチの役割となる。意識の切り替え、これを上手くできないと中々に活動に支障が出る……主にライブ以外の生活に。


 後はまあグッズとかの即物的というか、商品展開に関するのも視野に入れておかないといけない。のでライブ衣装を決めなければならないのだけど……。


「……ねえ、ここって高級住宅街じゃない? 本当にみちるんここに住んでるの?」

「お忘れかもしれませんが、永井さんは私と同じ高校に通うお嬢様なんですわよ?」

「……そういやそうだった」

「アルバイトやってるしお給料の半分家に入れてるしで定期的に忘れるんだよねぇ~」

「確かに普段の行動はお嬢様らしくありませんが……」


 週5でバイト入っておまけにサポートギターのバイトもやってで毎日アルバイトで忙殺されているみちるがお嬢様……やっぱり結び付かないなあ。こうして当然のように三階建て、当然のように庭付き、当然のように外車が止まっている家々を見ても尚、みちるがここに住んでいるとは結び付かない。


 それに今回みちるの家に向かっている理由も「サポートに入っていたバンドが止める際に衣装を譲ってくれたから、それを参考にバンド衣装を考えよう」というみちるからの提案からだったから……。

 お金持ちってお古の服を譲り受けたりしないイメージがある。


「っと、ここ……だ……よね……?」

「……足立山?」

「……苗字が違いますわね」


 表札には【永井】ではなく【足立山】と書かれている。みちるの名前は永井みちる、ということはここの家に住んでいる訳ではないか、もしくは居候しているのか……と考えて、こんな場所に建っている家に居候するってどんな人間だよと冷静に思い直す。


 とりあえず、送られてきた地図をもう一度見る。座標は合ってる。住所、合ってる。表札……書いてない。

 となるとここにみちるがいるかどうかは半々、ということになる。……この家々の中から『永井』を探したくはないなあ。


「とりあえず……押してみよっか」


 はくりが少し怖がりながらインターフォンを押そうとする後ろから、ひとみの人差し指がぽちっと押した 。


『はーい、どちら様っすかー?』


 ひとみは、はくりの背後から顔を出して、インターフォンの声に返答する。


「すみません、永井みちるさんのご自宅は御宅で間違いないでしょうか。私達、みちるさんの友人ですが」

『お嬢のお友達……マジだったんだ……少々お待ちくださいっすー!』


 そう言ってぶっつりと切れた。とりあえず、みちるが送ってきた住所が間違っていなかったと知って一安心。

 これで探し直しじゃー、なんてことになったら……それだけで体力使っちゃって今日はもう解散ってなっちゃうからね。


 ……とはいえ、苗字の違う家に住んでいる、出た人がお嬢って呼んでいた、ってことは……家政婦の家に転がり込んでいる、ってこと?

 それとも、みちるが本当は家政婦だったとか……そっちのがあり得そう、かな? いや、無いか。仕事をちゃんとするかは別として、みちるは住み込みに向いている人間じゃないし。すぐ吐くし。


「っとと、いらっしゃいっすー。さあどうぞ上がって、上がって!」


 そう言って扉を開けて出てきた姿を見て、私たちは固まった。

 クラシカルなメイド服、はまあ……いいとして……茶髪のウルフカット、耳にバッチバチのピアスが大量についている、なんなら唇にもピアスが付いてる。

 おまけに首には鳥らしきタトゥー……。


 うぅん、メイド……メイド……? 正直、メイドらしくはないと思う。ひとみなんて二度見してるし。

 えっ、みちるこの人の家に住んでるの? マジで? 家族でもなさそうなのに?


「お邪魔しますわ。あっ、こちらお土産のプリンです。私たちが帰った後にでも、永井さんと一緒にお召し上がりくださいませ」

「うわあーえっいいんすか!? ありがとうっす!! ……後ろの二人も入っていいっすよー? お嬢……じゃねえやみちるちゃんの部屋は二階のすぐそこの扉っす」

「あっはい、お邪魔しまーす……ほらりん、行くよっ!」

「うん……お邪魔しまーす」


 メイドさんに促されて私達も家の中に入る。「おっ茶菓っ子おっ茶菓っ子♪おっ嬢の友達におっ茶菓っ子♪」と中々ご機嫌な歌を口ずさみながら、スキップで家の奥、多分キッチンの方に向かったメイドさん。


 私達も家に上がって、……ちゃんと靴も揃えて、っと。

 えっと、階段を登って二階……うわあ、綺麗。掃除が行き届いてる。これ一人でこの家全部掃除してるの? 凄いなああのメイドさん……。


「……あれ、みちるさんのメイドさん、ですわよね?」

「多分そうだと思う」

「アタシら家にメイドなんていないからよくわかんないけど、ああいうメイドさんっているもんなの?」

「いえ、普通は……あそこまでパンクな恰好をしたメイドは許されませんわ。品行方正、どこの現場に出しても問題ない恰好をした侍女、それがメイドというものですもの」


 ですよねー。メイドは基本品行方正、例え裏でサボっていたとしても外見だけはきちんとしているってイメージがある。

 とはいえ悪い人ではなさそう……私達がみちるの友達として来たことに嬉しそうだったし。


 とか話しながら階段を上って、すぐに目についた部屋。みちるの部屋と書かれたプレートが下げられている扉をノックする。


「はっ、はーい。あっ、いらっしゃい。えっと、何もないところですが、どうぞ……」

「……いや何その恰好」

「部屋着にしてももう少しなんか、ありますわよね他に!?」

「アタシは良いと思う!」


 でかでかと月世界旅行の月(月面に顔があるやつ)がプリントされた黒のTシャツを着たみちる。どこで買ったのそんなTシャツ……。

 まあとにかく、みちるの部屋に入る私達。


 みちるの部屋は……なんというか、かざりっけが無い、例として床に広げられている衣装以外は、実に殺風景な部屋だった。


 剥き出しのスチールラックにベニヤ板を乗っけて、その上にギター・マガジンやバイブル、CDコンポ、大量のCDが置かれている。ざっと目を通した感じ、インディーズのものばかり……。

 見やすい位置に調整したスチールラックにノートPCが置かれている。閉じたPCの上に座布団と、その上にコードを畳まれたヘッドホン。スチールラックにだけ物が集中している。


 それ以外は一般的に使われていそうなベッド、その横にギタースタンド。箪笥。目に映るものはそれくらい。


 何か観賞用の植物とか、グッズが置いているということもない。この空間には、寝具とライブにかかわるものしか置いていないように感じた。


「……刑務所かしら」

「むっ、無罪ですよ私は!?」


 ……流石に刑務所呼ばわりは、みちるからしてもショックだったみたい。

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