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「そういえば永井さん、りんのあの顔を見ても表情崩さないんだね」


 みちるとかおる、二人と作曲家同士のミーティングをしていると、不意にかおるがそんなことを口にした。

 その言葉で私はようやく、前髪を全部上げていたことを思い出した。私の顔を醜く汚す火傷の痕、指で触れればざらざらとした感触が異物感を奏でる。


 家の都合、それも両親が経営する会社を支援してもらっている以上、祖父母の信仰する宗教のせいで、手術を行うことができない。

 この顔は呪いであり、支援の担保だ。忌々しい、と吐き捨てたくなる。


 でもはくりは、私を受け入れてくれた。そしてみちるは……


「えっと……今日は可愛いですね。あのいつもの姿は可愛くないとかそういうんじゃなくてですね、いっいつもはどちらかというと恰好いいと言いますか、その……ふ、普段は見られないりんさんを見られて、ちょっ、ちょっと得した気分です」


 そう言ってへにゃりと笑うみちるの顔には、気遣いや哀れみといった優しい嘘のない、本心から言っているような顔だった。

 はくりからの視線は、同じ仲間(・・・・)というものから来るもの。かおるは口でこそああだけど、やっぱりこの顔への同情を感じられる。でもみちるからのは、そういったものを全く感じない。


 それがどこかくすぐったいようで、心地よくて……そして恥ずかしくて、調子を狂わされる。


「みちるってさ……」

「はっ、はい?」

「女たらしだよね」

「はい!?」


 心外な、ともそんなわけない、とも取れるような驚きっぷりに、私も思わず笑ってしまう。隣を見てみなよみちる、かおるも頷いてるから。

 とはいえこうも素直に心の底から言えてしまうんだから、みちるは一体何人誑かしたのか……交友関係が少し気になるところだけど、そこは深く突っ込んでほしくないようだから踏み込みはしない。


「……みちる、作詞、頼んだよ」

「はっ、はい! まっ、任せてください!!」


 胸をどんと叩いて自信満々、とはちょっと言えないけれども……それでも、私を不安にさせまいと気張る様子を見て、私は安心感を得た。

 みちるがいるなら大丈夫だ。きっと、このバンドは大丈夫だ。


 私がそう将来に確信したところで、みちるのスマホが鳴った。


「永井さん、携帯鳴ってるよ。誰から?」

「えっ、あっえっと……足立山さん、家政婦さんから、です。すみません、少し失礼します」


 そう言ってみちるは急ぎ足で私の部屋を出て、家を出た。

 そういえばみちるもお嬢様だった……普段バイトしている姿を見ているから、全く印象に残ってなかった……。


 しばらくはかおると二人きり。思えば、かおると二人になるのは久しぶりな気がする。


「……みちる、良い子でしょ」

「うぅん、良い子……良い子かなあ?」


 私のみちるへの評価に、かおるはどこか懐疑的な様子だった。

 何か引っかかることでもあるんだろうか。


「永井さん、なんというか……優しいとは違う、気がする……?」

「なんで疑問形なの?」

「いや、なんというか……上手く言葉で説明できないんだけどね」


 かおるがどう言語化するか悩んでいる姿を見ながら、煙草に火を付ける。

 できればみちるが帰ってくる前に話してほしいけれども、はたしてそれまでに言葉に出来るのか。


「うぅん……いいや、気のせいかもしれないし。流石に正規メンバーだって言うのに、演奏以外に価値を見出さない人な訳ないだろうし」

「それで合ってるよ」

「そうだよねぇ……合ってるの?」

「うん、合ってる」


 むしろ気付いていなかったのか、かおる……頭抱えちゃってる。


「その……それでいいの? ボクみたいにサポートとして入るってんならそういう動機でも問題ないだろうけど、あの子正規メンバーでしょ?」

「私達も、自分たちのバンドが有名になる為にみちるを利用しているからお互い様」

「歪だなあ……ボク、とんでもないバンドに入っちゃった気がしてきたよ。サポートで本当良かった……」


 演奏ができるかどうかで繋がっている以上、がっぽり稼ぐ目的で活動しているバンドよりは幾らか健全な気がするけど……とはいえ、かおるのような普通の人間からしてみたら、かなり醜く歪に見えてしまうんだろうか。

 ……演奏が好きな友達同士でバンドを組む、じゃなくてわざわざスカウトに赴いているから、そう見えて当たり前か。実際、みちると私は馬が合うかと言うとそうではないし。嫌いではないけれども。


 かおるが、テーブルに置いてある私の煙草を取って咥えたので、火をつけてあげる。


「辞めたんじゃなかったっけ?」

「吸わないと聞いてられないんだよ」


 うんざりしたようにかおるが言う。

 結構苦労して禁煙してたような記憶があるんだけどなあ、そんなに吸わないと聞いちゃいられない話をした覚えも無いんだけど。


 少しばかり私の作ったバンドが狂っていると暗に言われたのにショックを受けていると、みちるがおずおずと帰ってきた。


「あっ、ただいま戻りました……あっ、あれっ? 岡山さん、たっ、煙草吸うんですか……?」

「あー……ちょっとね。ごめん、煙草の臭い無理だった?」

「いっ、いえいえ! 全然、はい! 全然大丈夫です!! むしろ好きですから!!」

「そっ、そうなんだ……変わってるね、永井さん」


 気を使わせないにしてもその返答はどうかと思うよみちる……確かにタバコを吸うのに遠慮しなくていい、と気は楽になるけども。ほら見なさい、かおるの表情。引いちゃってるじゃないか。

 相変わらず面白い女だなあ、みちるは。見ていて飽きない。


「何の電話だったの?」

「今晩は肉じゃがみたいでして、帰りにお使いを頼まれました」

「……永井さん、お嬢様なんだよね? お嬢様にお使いさせるってどうなの……?」

「お、追い出されましたので……」


 追い出されたんだ、実家……さらっと悲惨な過去を語るなあみちるは。

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