18
どうしてこうなった……いつも通りバイト先に向かい、いつも通りサポートをし……そこからバンドを組むことになり、原作ゲームでライバルである高橋さんにギターを教えることになり……。
高橋さんの権限で私達だけ立ち入り自由になった屋上で思いっきりギターをかき鳴らす。うん、ここまでは理想通りだ。前世も含めて一番輝いていると言える。
ただ問題は……
「凄い、これが永井さんのギター!? もう完全プロレベルじゃん……」
「高橋さんもギター初心者にしては……あれ、俺より上手くね?」
「私、永井さんのファンになっちゃうかも……」
「高橋さん初心者だよな? ギター弾きながら歌えてるのすげぇ……」
……屋上へつながる扉の前から聞こえてくる声と隙間から覗かれる視線、落ち着かないよぉ……!! いやね、ライブで聴かせるんならいいんだけどね、今練習段階だから! 人様に見せられる出来じゃないから今の私のは!!
うぅ、いったいどうしてこんなことに……確かにいずれライブすることになる訳で、今のうちから注目を集めておいた方がチケットノルマはけやすいから有難くはあるんだけど……それはそれとして、恥ずかしい。とても恥ずかしい。
とどこかやりにくいように弾いていると、高橋さんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「申し訳ありませんわ……私が、永井さんとギターの練習していると言ってしまったせいで」
「あっ、えっいえいえそんな……私に用があってのことなんですから、しかっ仕方ないですよ。事故です事故」
「……ですが……」
あぁっ、ああああああ~~~~~~!! 高橋さんがしょんぼりしている……!! どっ、どどどどうすればいいの!? 私こういう、慰めるの苦手なのに……!! 得意だったらコミュ障やってないけども!!
練習に力が入らないのであればここらで切り上げるのも一つの手ではある、変な癖が付いてしまわないように……でも、高橋さんはやる気自体はあるみたいだし、多分ここで切り上げたら我流で練習して、修正しづらい変な癖が付いてしまう危険性もあるし。
それを回避するには私が頑張ってフォローしなきゃいけないんだけど……いや、待てよ永井みちる、落ち着け永井みちる。
逆に考えるんだ、この状況はむしろ……好機なのだと。
高橋さんのお手本として弾いているギターの手をいったん止めて、深呼吸。高橋さんが不安げな目をするけど、大丈夫……私は、音楽の世界では大先輩なんだから。
「なっ、永井さん……?」
「……高橋さん」
「はっ、はい!」
「ちょっ、ちょうどいい機会ですので、みっ、みんなに聞いてもらいましょうか」
「……はい!?」
目を丸くして驚いてる。そんな表情もするんだ、高橋さん……いや、ゲーム内でしてたかもしれない。開発中のちょっと見せてもらった時にそういう差分あったような……。
それはともかく、高橋さんがすっごい狼狽えてる。まあ突然、みんなの前で演奏してみようなんて言われたらそりゃ狼狽えるよね。
「まだ聞かせられるほどの腕前にはなっていませんわよ……!? だのにみんなに聞かせますの?」
「はっ、はい。だからちょうどいい機会ですんで、視線に慣れましょう。らっライブとなると、これ以上に注目されますので」
だって本番と違い金を取っていない、勝手に興味を持って勝手に見に来ているだけだから。つまり失敗したところで責任を負う必要もない。
見られながら演奏する練習にはうってつけ。視線に慣れるってのは、普通練習じゃどうしようもない要素だからね……それをここである程度慣らすことができるのはかなりの僥倖。逃す手はない。
……いや、確かバイオリンでコンサートに出てたんだっけ? じゃあ人前で演奏する練習いらないのかな、いやでも勝手が違うか。
……うぅん、わかんない。ちょっと聞いてみよう。
「あっ、あのっ、もしかしてなんですけど間違ってたら言ってくれていいんですけど、高橋さん、人前で演奏するのって慣れてなかったりしますか?」
「ヘっ? いえ、そんなことは……そうですわね。人前で演奏したのはかなり前というのもありますが……客層が違いすぎて、あの時とはまた別の緊張が……」
バイオリンの演奏とはまた違うんだ、緊張の種類が。
でも考えてみれば当たり前かも。私はバイオリンの演奏なんてしたことないけど、あそこは格式の高い──いわば、日常から大きく剥離した場所。客も奏者もスーツやドレスを着て臨むものだから、自分の中のスイッチが日常から非日常へと切り替えやすい。
それに対してバンドマンの演奏は、奏者も客もほぼ普段着。ヴィジュアル系や売れている人だとライブ専用の服を用意したりするけれどもほとんどのバンドマンは普段着か、その延長線上の服で演奏をする。
だから日常からの切り替えがうまく働かず、バイオリン奏者の時みたいに演者への切り替えがうまくいかない……のかもしれない。まだ練習中だから上達していないものを聞かせたくない、ってのもあるかもだけど。
「えっと、それでしたら……今のうちに慣れておいた方がいいですね。かっ、観客の目に」
「ですが、まだ聞かせられるほどのレベルでは……」
「聞かせられるレベルになってからきっ、本番で緊張で実力を出せなかった方が、悲惨に感じますよ?」
「うっ……そっ、それは……」
タダ聞きしに来た人たちにもちゃんとした音楽を聞かせたい、という心持は立派だと思う。けれど、それだといつまで経っても慣れることはない。
だから完璧じゃないうちから、お金を取らないうちから緊張へ慣らしておいた方が良い。本番でヘマをするとトラウマになりかねないからね……それで辞めたバンドマンを何人か知っているし、前世今世含めて。
「それに……失敗しても殺されたりするわけじゃないですから、気楽にやりましょう」
「……演奏の失敗と生死を同一にするのはどうなんですの?」
「……えっ?」
失敗したら死にたくならない? 死にたくならない……そう……。
まあとにかく、今回はいい機会だから頑張ってもらおう。本番で失敗するより練習で失敗した方が良いしね。
……とはいえ高橋さんはあまり乗り気じゃないから、なんとかして発破をかけないと。
「たっ、高橋さん、軽く一曲フルで弾いてみましょう」
「うぅ、ですが……」
「もっ、もし……もし練習だけで、この場にいる全員魅了させたら、とてもロックだとは思わないですか?」
「ロック……でも、私にできるかしら」
「できます。高橋さんと、私となら」
多分、と最後の付けたい気持ちを抑え込んで、断言する。
実際のところ魅了できるかは分からないけど、高橋さんの腕は指を刺されて嗤われるような酷いものではない。素人基準、学生基準で言えば並くらいはある。
高橋さん、ライブで私やはくりちゃん、りんさんの演奏を見ているせいで自分の腕を低く見積もっちゃってるけど、決して低くはないんだよね。
確かに高橋さんの腕はプロレベルと比べると程遠い。けど高橋さんレベルの演奏義j通でも、普通にライブをこなしているバンドは結構ある。
というか上達速度早すぎないかな高橋さん? チートか、これが悪役令嬢補正というやつか? 才能の塊め……ギター弾き始めてまだ一週間も経ってないよ。どうなってんの。
「……なら、やってみますわ! サポートお願いしますわね?」
「はい。だっ、大丈夫です。だって、高橋さんに教えているのは私なんですから」
これで今のうちからファン数をちょっとでも増やせたら……デビューした時チケットはけやすくなる筈!!




