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いつも通りの朝の教室。いつも通りクラスメイト達が和気藹々と交流を深めている、代り映えの無かった平和な世界。そんな中、いつもと違うのは……私のロッカーに、ギターの入ったケースが入っていることですわ。
そんな”今まで”とは少し違う教室の自席で、ため息を一つこぼしていましたわ。
眼を閉じれば鮮明に思い起こされる、昨日のライブ……様々なバンドを拝見拝聴した筈ですのに……私の心に残っているのは、永井さんのギターばかり。
ギターテク、というのがどういうものかはあまり分かりませんでしたが……とても楽しそうに、夢中になって弾いているあの姿に、どうもどうしても、私は心を囚われてしまったようで。まさか健司様のギター以上に、ここまで私が魅了されるとは。
いやいやいけませんわよ高橋ひとみ! あなたが好きなのは中谷健司様!! 永井みちるさんのことは……いや嫌いではありませんわよ? 友達として、師匠として、とても素敵な方だと思いますわよ?
ただ魅了され、心奪われるには……でも難しいことに、演奏している時の格好いい区分が中谷様と同じところに区分けされますのよね……。
「どうしたんですかお姉さま、物憂げに外を眺めて……ハッ、まさか永井さんのバンドに入れてもらえなかったとか……?」
「やっぱりギター初めて三日くらいで突入は不味かったんじゃ……」
「いやそれに関しては問題なく入れましたわ」
「入れたんですか!? 三日で!?」
私の事を”お姉さま”と慕ってくれる友人、加賀理が思わずといったように大声で言いましたわ……そうですけれども、そうですけれども大声で言う事はないのではなくて?
とはいえ、その驚きもまた当然ですわね。永井さんとの二人で練習している時は気づきませんでしたが、バンドメンバー(まだ一人加入させる予定らしいですが)との練習で自分の無力さを痛感いたしましたもの。私はまだ三日しかギターを弾けていないずぶの素人。本来であれば、あんなプロレベルの集団に入るような余地なんてありません。
……それもまた悩みなんですわよねぇ。上達していってはいるんですが、今の時点ではやはり足を引っ張るのが現状ですもの。
「今の時点じゃ簡単な曲しか弾けませんわ……」
「えっお姉さまもう弾けるようになったんですか?」
「早くない……? まだ初めて三日っすよね?」
「初心者向けの曲をちょっと程度ですわよ? そんなに早くありませんわ」
加賀理も犬鳴も私の事を褒めてくださいますが、お二人には申し訳の無い話ではありますが、上を知っている今の私にとっては……あまり心に響きませんわね……この内心を察知されてしまったら、驕りと罵られても仕方のないとは思いますが。
確かに、最初にギターに触れた日よりは弾けるようになっていますが、だからといって未だ足を引っ張る初心者であることには変わりはありませんわ。
それに、私が努力をしたところで、永井さん達は私を待っていてくれるわけではありませんもの。この程度の上達で喜んでいてはいけませんわ。
……10分でも5分でもいいから、練習いたしませんと。
「……朝礼まであと15分はありますわね。永井さん、どのクラスにいるのかしら」
「永井さんのクラスは1-Cですね」
「よし、じゃあ行きますわよ!! 1-Cへ!!」
思い立ったが吉時、私は二人を連れて、永井さんのいる1-Cへと向かいましたわ。
教室のドアを開けて開幕一番、胸を張り笑顔を浮かべて挨拶を決めますわ!!
「ごきげんよう!」
「うぇっ!? A組の高橋さん!? なんでこんなクラスに!?」
「永井みちるさんはいるかしら!?」
「永井……さん……?」
私の質問に、永井さんのクラスメイトは首をかしげましたわ。
そしてしばし考え込んだかと思うと、私を睨みつけながら口を開きましたわ。
あっ、あら……? もしかして、警戒されてますの……?
「……あの子、なんかやらかした?」
「いえ、そういう訳ではなくてですわね……少し練習に付き合っていただきたいので、そのお話を」
「お姉さまは今、バンドをやっているからね! 永井さんと!!」
「まあ初めて三日ですけどねまだ」
「そこは言わないでよろしいんですわ」
余計な茶々を入れてくる加賀理と犬鳴を制しながらこのクラスに訪れた目的を言いますと、クラスメイトの方が口元に手を当てくすくすと笑っていらっしゃいましたわ。
最初に顔を合わせた時に感じさせていた警戒心は、もう全く見られないですわ。
「永井さんだったらまだ来てないよ。いつも時間ギリギリに来るからね……にしてもギターか、あの子に教わってるの?」
「ええ。何事もトップクラスを目指す私を指導するのに相応しいのは、永井さんしかいませんもの」
「あの子、そんなに上手いんだ……へえ、少し聞いてみたいかも」
「ええ、永井さんの演奏は本当に素晴らしいものですわ! ぜひライブハウスに来てくださいまし、絶対度肝抜かれますもの!」
「なんであんたが自慢げなのさ……」
永井さんが胸を張って誇らないから、私が代わりに誇りに思うんですわ!! なんて言っても、ただの虎の威を借りているのと同じですわね……なので心の内で、それはもう、それはもう自慢いたしますわ。
とはいえ、とりあえず今は永井さんは不在と……でしたら仕方ありませんわね、帰って実用書を熟読いたしませんと……。
「あっ、ちょっと待って」
「なんですの?」
そう思いとぼとぼと自分の教室への帰路に付こうと思ったら、クラスメイトの方が私に声をかけてきましたわ。
「……練習、頑張ってね。あと永井さんのこと、よろしく」
「ええ、当然。永井さんの時間を使わせるんですもの、全力で取り組みますわ」




