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 私が高橋さんにギターを教えたのは二日間だけ、時間にして五時間も無いくらい。家で自主練もしてたらしいけれど……それでも、はたして弾けるというレベルまで至っているのか。既にバンドメンバー入りは確定しているとはいえ、私は不安でいっぱいだった。


 加入撤回されるかもしれない。弾けない状態で弾かされて、心が折れてしまうかもしれない。そういった漠然とした不安を抱えていた。

 初心者ってのは、どういうので躓いて挫けるか分からないからね……だから私は、結構緊張した状態で、高橋さんの演奏を聴いていた。


 ……聴いていたんだけどさあ。


「さっ、才能の塊……」


 決して上手いという訳ではない。初心者でも簡単に弾けるSmells (スメルズ・)Like (ライク・)Teen (ティーン・)Spiritスピリットとはいえ、流石に、ギターに触れて三日目の初心者が弾けるような曲ではない。


 だというのに高橋さんは、多少ミスしたり詰まったりしたところがあったとはいえ、ちゃんと曲として成り立つように弾いてみせた。

 これには流石のりんさんもはくりちゃんもびっくりしたようで、目を丸くさせている……私も後方師匠面したかったんだけどね、そういうのする余裕もないくらいビックリしてる。


「ど、どうだったかしら……」

「……ギター始めてどれくらいだっけ?」

「大体、三日目くらいですわ」


 その返答に、思わず頭を抱えてしまう私とりんさん……。

 今だけはりんさんと、言いたいが飲み込んだが言葉もなく通じ合っている……。だって、ねぇ? まだ客前に出せる腕ではないとはいえ、ねえ……。


「なっ、何か不味かったかしら……やっぱり下手でしたの?」

「いや、そうじゃない。むしろその逆だよ」

「上達速すぎるってレベルじゃないよひとみん……」


 褒められてるということが分かり、高橋さんは少し恥ずかしそうに笑った。

 実際、高橋さんはもっと自信を持つべきだと思う。私なんかよりもよっぽど才能がある。


 ギター始めて三日目というのは、まだコードの位置を覚えることに集中するような段階。普通ならば、曲として成立させられる訳が無い。

 私でもまともに弾けるというレベル(上手くはない)になるのに三か月くらいはかかったというのに……。


「普通は三日でここまで弾けないんだよ高橋さん」

「三日でこれだからねぇ、いやあ天才っているもんだなあ」

「ふふんっ、当然ですわ! 何度もヴァイオリンのコンクールで入賞いたしましたし、なにより(わたくし)にはみちるさんという最高の講師が就いているんですもの!! このくらいできませんとメンツが立ちませんわ!!」


 ……そっか。そういえば高橋さん、ギターではないけど演奏経験結構あるんだった。それだったら上手く演奏できたのも納得できる。それを差し引いたとしても上達速すぎる気がするけど。

 なんて考えていると、私の隣で演奏を聴いていたはくりちゃんが私の脇腹をつついた。


「どっ、どうしましたか?」

「みちるんの指導のお陰だってさ、やるじゃん」

「褒めて遣わす」


 はくりちゃんとりんさんが微笑みながら私の頭を撫でる。正直私の指導のお陰というより、高橋さんの努力と才能のが比率的には大きいと思うから私の力でというのは、正直あまり実感はないけど……こうして褒められるのは、悪い気はしない。


「えっ、えへへ……高橋さんが努力したからですよ。わっ、私は少しお手伝いしただけで」

「謙遜も過ぎれば嫌味となりますわよ。私がここまで早くに上達できたのはみちるさんのお陰ですわ。誇りなさい」


 別に謙遜している訳ではないんだけど、その努力をした高橋さんが言うのなら……うん、自分の事を褒めてもいいのかもしれない。地震を持っても良いのかもしれない。


「うぇっ、へへっ……私はギターの神……!!」

「1と1000しかありませんの!?」


 そう思って少し自惚れが過ぎるかなと自己を極限まで肯定した評価を口にしてみたら、流石にそれは盛り過ぎと窘められた。

 程よく自惚れるのって難しいね。


「この調子で練習を続けたら、今年中には活動開始できそうだね」

「で、ですね……」


 高橋さんの上達が凄まじく速いのは嬉しい誤算だ。これなら、もしかしたら今年中に活動開始できるかもしれない。


 そうなれば……スタジオを借りる頻度も高くなるだろうし、チケット代とかノルマ達成できなかった時のこと考えたらお金が……バイトを増やすべき? いやでもこれ以上増やしたら学業──はともかくギター練習の方に支障が……。


「……この際過労死覚悟で働くべき?」

「みちるさんなに物騒なこと言ってますの!?」

「あっ、えっと……今後の事考えたら、すっスタジオ代とかチケットノルマとかでお金が、ちょっと……」

「まだ活動開始はできないから今そこを心配しなくてもいいよー」


 はくりちゃんが私物のメトロノームを鞄から出しながら言った。なんか血みたいなのが付いてる気がしたけど、それには目を逸らしておこう。

 ……そして目を逸らした先に、少ししょげている高橋さんがいたという。クソッ、これはどこへ逸らせばいいんだ。


「そう、ですわよね……私がまともに弾けるようになるまで、まだまだかかりますもの……早く皆さんの力になれるようより一層頑張りますわ!!」

「そうじゃなくて、メンバーがもう一人必要ってこと。曲を作るとなったらキーボードも欲しいし」

「そだねえ……」

「既存の曲をカバーするんじゃ駄目ですの?」

「オリジナル曲で勝負した方がロックじゃん!!」

「CDや配信の売り上げとかも欲しい」


 てっきり4人組(4ピース)で行くものだと思っていたけど、あと一人必要なんだ……。

 とはいえはくりちゃん達が欲しがるのも頷ける。鍵盤(キーボード)の重要性は高い。弾ける人が一人いるだけで、扱える楽器の数が倍くらいに増える。ギターの音だってキーボードがあれば出せてしまうのだ。


 とはいえ高橋さんはその重要性をあまり理解できていないのか(こうしたバンド活動に入ったばかりだから仕方ないが)首を傾げていた。


「ところで……キーボード……? ライブにパソコンを持ち込むんですの?」

「あっ、えっとあの、高橋さん……そっちじゃないです。えっと、鍵盤と言いますか、電子ピアノと言いますか……」


 高橋さんの思い浮かべてたのそっちかぁ……!! とはいえ私もあまり詳しくはない。だからなんとも言えないのだけれど……ギターとベースだけでやってきた人間ですので。実質ギターしかやってねぇ。


「ざっくり言うといろんな音を出せるピアノ。ギターやベース、オルガンの音もキーボードで出せるようになる」

「そんな楽器がありますの!?」

「全部使いこなせるとは限らないのがネックだけどねー、道具自体は万能でも人間は万能じゃないから」


 そう、はくりちゃんの言うようにすべての楽器の音を出せるということは、決してイコール使いこなせるというわけではない。

 人間は万能ではない。あらゆる楽器を音だけに限定したとはいえ、使いこなすのは不可能なのだ。もしそんな人間がいたら、それこそ天才という他にない。


 まあ単純に、ピアノの音を使えるというだけで作曲の自由度は相当大きくなるからピアノ限定のキーボード奏者でも問題ないのだけれど。ギター使える人は辞めてください私のアイデンティティが……!!


「まっキーボードはウチらがなんとかするからみちるんもひとみんも気にしなくて大丈夫だよ! さあそれより練習練習!! ひとみんの弾ける曲で良い感じに合わせていくよー!!」


 はくりちゃんの号令を聞き、私と高橋さんは慌ててギターを構えた。

 はくりちゃんがドラムスティックを四回鳴らし、私達だけのライブが始まった。

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