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 はくりちゃん、りんさんの二人と向かい合うように私と高橋さんが席に座っている。店長さんはバーカウンターの席に座りながら、私達を面白そうな目で見ていた。私は緊張で吐きそうになっていた。


 と、いうのも、端的に言いますと……不味いことになっちゃった。

 開幕一番高橋さんがバンドメンバーのみんなに不良のレッテルを張ってしまった……そこまではまだいい。同年代っぽい少女が煙草吸ってたら、そういう反応が出るのは自然なことだと思うし。私がそういうのに見慣れてただけで、高橋さんの反応が一番普通で正常なのかもしれない。


 ただ問題は……バンドメンバーと説明したはいいものの、どうも高橋さんの表情から察するに、警戒が未だ色濃く残っているということ。他人の表情に疎い私でも察せられるって相当だよ高橋さん。ちょっとは隠そうよ高橋さん……!!

 店長、助けて店長……!! と念を送るも、苦笑いで手を振るだけで動こうとする様子はなし。いや違うなあからさまに面白がってるな!!


 私は一体どうしたら……あぁっ、こういうの本当苦手なのに! 他人同士の揉め事なんて私の身に余る手に余るというのに!! 自分と他人の揉め事ですらうまくいった試しないのに!! あっ過去のやらかし思い出したら辛くなってきた……無理やり我慢して抑え込んで倒れてた過去を……あの時は辛かったなあ。


「……みちるさん、さっきからころころ表情変えてどうしたのかしら」

「こういうところが見てて面白いよねぇみちるんは」

「おもしれー女」


 あっなんでみんなして私の方見るの、怖いよぉ……ただひたすら純粋に怖いよお……ギター持ってない時の私なんて見られたもんじゃないから。もうひたすらに怖い、この視線が怖い。

 ううっ、弾きたい……ギター弾いて音楽の世界にトリップしたい……私の世界に引きこもりたい……。


 って、そんなこと願ってる場合じゃない! なんとかして高橋さんの警戒心を解いて、うちのバンドに入ってもらわないと!! インストバンドでも良いっちゃ良いんだけど、はくりちゃんもりんさんもやりたいのはボーカル有りのバンドらしいし……できればとは言っていたけれど。それでも、私みたいなのをバンドに入れてくれたんだから、できるだけみんなの要望は叶えたいから……なんとかこう、頑張らないと! 何を頑張ればいいんですかね私は!?


「あなた達が……本当に、永井さんのバンドメンバーですの……?」

「警戒されちゃってるねーりん」

「……はくりも同じくらい警戒されてると思うよ」

「ウッソォ!?」


 りんさんの指摘にちょっとオーバー気味に驚くはくりちゃん。

 りんさんの言うように、高橋さんが警戒しているのははくりちゃんも含まれている……と、なんとなく思う。というのもやはり、未成年が煙草を吸うというだけで印象はかなり悪くなってしまうもの……らしい。

 私は別に、昔から吸っていようがいまいがどうでもいいとしか思わなかったけど……別にギター弾くのに支障が出るとか、そんなんも無い訳だしね。


 でもそっかぁ、普通は警戒するかぁ……確かに不良が吸ってるものってイメージあるもんね。煙草。未成年なら特に。


「とりあえず、軽く自己紹介でもしよっか。わたしは谷野りん。そして横のこいつが」

「こいつって言うなあと頭押さえんな!! 角田はくりだよー、よろしくー!」


 頭を乱暴に撫でながら安心させるように笑うりんさんと、それにうがーっと怒りながらも私達の方には笑顔を向けて自己紹介をするはくりちゃん。

 高橋さんはりんさんとはくりちゃんの名前を何度か小声でつぶやいてから、自己紹介を始めた。


(わたくし)はひとみ、高橋ひとみと申しますわ」

「んじゃひとみんだねー、よろしく!!」

「ひっ、ひとみん!?」


 早速あだ名を付けられたことに少し狼狽えている高橋さん。気持ちはわかるよ……はくりちゃん、ぐいぐい距離を詰めてくるから。

 私の名前はみんな知ってるから省略して、りんさんは煙草の灰を落として厳かに口を開いた。


「さて、それじゃ本題に入ろうか」


 りんさんが煙草を灰に変えながら、高橋さんの目をじっと見つめる。

 その視線に気付いたらしいはくりちゃんが私に煙草を差し出してきたが、流石に謹んでお断りした。あっ高橋さんの視線が鋭くなった。吸いませんから、今のところは吸いませんから!! 流石に未成年で煙草をするのはね……。


「君が何故バンドを始めたいのか、簡単にで良いから教えてくれるかな」

「それはですわね……私の愛する人が、にっくき私の恋敵のバンドに入ってしまってるからですわ!!」

「ふむふむ……ふむ? どゆこと?」


 私もはくりちゃんも、りんさんも、どうしてそれがバンドを始めたい理由になったのか分からず首を傾げた。

 いや、だって……関係ないじゃん。お近づきになりたいのなら古川さんとこのバンドは入ればいいだけだし……。

 そう疑問を抱いた私たちの雰囲気を感じ取ったのか、高橋さんの言葉は続く。


「皆様の言いたいことは分かりますわ。『ならそのバンド入って近づいた方がいいだろう』と……ですが、演奏が全くの初心者である私では、彼との時間を作ることはできない……必然的に、私の愛する人の時間も今日も、私の恋敵の方に多くなってしまいますの」

「初心者に指導するという形で二人っきりに慣れる時間もあるだろうけど……バンドメンバーを優先することが多くなるだろうね」

「ならば! 私があのバンドのライバルとなって!! 彼を振り向かせればいい!! あの女よりギターの腕も、歌声も私の方が勝っていると見せつければ……私の方を見てくれるはずですわ!! 多分!!!!」

「いやそこは自信持ててないと駄目でしょ!!!!」


 最後まで黙って聞いていたはくりちゃんが思わずツッコミを入れた。結構熱く語ってたけど、その……恋人? 片思い? の人を振り向かせるにしても、なんと遠回りかつ不確定な……。


 でも、高橋さんの目は本気だ。まだ教え始めて三日しか経ってないけれど、その熱意に嘘はない。不確定だからこそ、全力を注いでいるのだろう。失敗した原因を努力不足にしない為に。……努力の方向性とか、色々と若干暴走しているような気もするけど


「後、永井さんを放っておいたら心配で眠れなくなりそうってのもありますわ」

「それはわかる」

 

 最後に付け加えるように言った言葉に二人とも……いや店長さんも含めた三人ともが頷いてる……。

 何故……? 私一応一度成人経験のあるしっかりとした大人だよ……? そんな、放っておけない扱いなんてそんな……!!

 いや精神的に成長したかと問われるとちょっと微妙だけど……精神年齢は退行するからね……。


「とりあえず高橋さん、一緒にバンド活動頑張ろっか」


 りんさんがフィルターだけになった煙草を消しながらさらっと、ゾディアック・クラスタへの加入を認めた。私と高橋さんの二人で立てたアピールの手段を切ることもなく。

 あまりにあっさりと行ったので私も高橋さんも呆然としていると、りんさんが首を傾げながら口を開いた。


「……嬉しくないの?」

「えっと……ギター初めて三日の私を、こんなあっさりと受け入れてくれるとは思わなくてですわね……一応色々説得の手札を揃えてきたのですが」

「最初から決まっていたからねー、高橋さんをウチに入れるの」


 高橋さん私の方見ないで、私も初耳だから。最初から決まってたんだったら面接なんてしなくてもよかったんじゃ……対策も立てる必要なかったじゃん!

 まあ、ここは徒労に終わっただけと考えよう。損は全然してないしね。


 はくりちゃんは煙草を灰皿に押し当てて消し、りんさんと同じタイミングで立ち上がった。


「とりあえず、ギターどれくらい弾けるか聞かしてくれる? みちる、レンタル」

「えっ、あっはい。わっ私も入りますので、1,596円で……えっと、それを四等分だから……ひっ、一人頭399円ですね」

「割り勘するんですわね」


 高橋さんがものすごく意外そうに言った。

 私も含めてみんなお金無いからねぇ……誰か一人にだけ出させるのも気が引けるし……。

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