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 みちるから『ギタボやってくれるって人見つけました!』と連絡が来たので、面談をしたいと返事を返し、わたしたちはドリンクカウンター前の席で、みちるたちの到着を待っていた。

 営業時間外である今の時間だけ座れるドリンクカウンター前、ライブハウスで演奏をする側の特権……というよりバイトの特権。


 わたしもはくりも、今日は代役(トラ)の依頼が入っている。もっとも、わたしもはくりも出番はもっと後の方なんだけど……どうせハコを使うんだしとのついでで、バンドメンバーの面接に使わさせていただくこととなったわけだ。本当にありがたい。バイト先の紹介然り、こうして場所を提供してもらえたりとみちる様様だ。


 しかし、とはくりが、吸っている煙草の煙を吐き出しながら口を開く。


「まさかみちるんが連れてくるとはねぇ」


 はくりの言葉にわたしは頷いた。

 まさかみちるが連れてくるとは思っていなかった。人と接するのが何よりも苦手で、引っ込み思案という言葉では足りないくらいコミュ障なあの子が連れてくるとは。

 正直今でも信じられないでいる。見栄を張って嘘をついているだけなのではと。


 ……まあ、みちるの場合そんな得のない嘘をつくことはありえないか。とも思うけど。そんな見栄を考えて張るのに時間をかけるくらいなら、ギターの練習をする。あの子はそういうタイプの人間だ。

 ……やはり改めて考えてみても、人付き合いも何もかもをギター最優先にしてそうな人間が、メンバー候補を連れてきたということは相当異常のように思えてしまうな。


「明日は槍が降るかもね」

「りん~、それは言い過ぎだよ~」

「ふふふっ、冗談。でもそれくらい驚いたからね」


 正直天変地異とか疑ったからね、みちるから連絡が来たときは。

 だって、バンドメンバーであるわたしたちとのやり取りもほぼ業務連絡くらいなもので、雑談なんてものは当然しないし。遊びに誘われたりもしないしで……バンドメンバーとしてこれでいいのか? もっとこう、交流とか深めるべきなのでは? いやビジネスライクで貫いているバンドもあるといえばあるけど……。


「みちるん、どんな人連れてくるんだろ……」


 煙を吐きながら言ったはくりの言葉には、期待半分、そして不安も同じくらい感じられた。

 わたしもはくりも、コミュ力が高いという訳ではない。むしろ低い。だがみちるは、そんなわたし達すらも超越するくらいにコミュ力が無い。


 低い、ではなく無い。人間に興味すら持っていないんじゃないかと思うくらい無い。彼女が雄弁なのはギターの音色くらいなものだ。

 そんな人間が選んで連れてくるというメンバー候補、まったくもって想像できない。


「もしみちるんが連れてきたのが悪人だったら、わたしらで守らないとね!」

「ギター壊してまでも友達を守るのはロックンロール」

「あんたら少しはあの子の事信じてやんなよ……」


 いざという時の決意を表明すると、店長さんが苦笑いした様子で紙コップにジュースを注いでくれた。


「ありがとう店長さん!」

「ありがとう」


 本音を言えば緊張を消す為にも酒の一つや二つ口にしたいところだけど、流石に酔った状態で面接はできないからね……。

 人工甘味料のわざとらしいリンゴ味で喉を潤し、煙草の煙で乾燥させる。この瞬間が最高に生きてるって感じがする……!!


「というかぶっちゃけ、あの子が連れてくるのよりあんたらのがよっぽど悪人なのよ」

「えっひどっ、店長さんわたしたちのどこが悪人だって言うんですか!!」

「撤回を要求」

「あんたらが持ってるそれはなんだ未成年共」


 それを言ったら煙草吸うの見逃してる店長さんも同罪じゃないか。と思ったが反論はしない。これで下手に言い返して「じゃあ禁煙な」とかされる方がよっぽど辛いから。

 はくりもそれを察したのだろうか、露骨に表情に不満を感じさせつつも何も言い返さず、ただ八つ当たりのように煙草の灰化を加速させている。


 なんてうだうだ話していると、ハイヒールが鉄を踏みしめる音が響い降りてきた。


 思わず音のした方に目線を向けると、階段の先にある扉の前に、みちるともう一人、見慣れない顔があった。着ている制服からして、みちると同じ学校に通う生徒だろうか。制服がぶかぶかで着られている感じしかしないみちるとは対照的な健康的な体つきに、ひときわ目を引く大きい胸。波のように渦巻かせた、ルビーのように真っ赤な髪。目元はみちるのようにキツそうな印象を受けるツリ目だがなんというか、みちるのとは違って上を向いてる。前向きなツリ目だ。


 なんというか、外見だけで判断するならみちるが最も苦手そうで、関わらなさそうな人間だ。意外にも程がある。


「随分と美人さん連れてきたねみちるん……」

「ありゃヒモに引っ掛かるタイプだね、ツリ目女は一人じゃ生きていけない人間に弱い」

「店長さんそれ偏見凄まじすぎない!?」


 店長がニヤニヤ笑いながら言った言葉に、はくりが思わずツッコむ。

 とひととおり二人の会話が終えたところで、階段の上にいる二人を見上げる。どうも降りてくる様子がない……。


「ってありゃ? 降りてこない……ってか固まってる?」

「ちょっと様子聞いてくる」


 何か不都合でもあったんだろうか、わかんないけど降りてきてもらわなければ話もできない。……あんまり人と話すのは得意ではないし好きじゃないけれど、仕方ない。


 煙草を消そう……としたところでまだ長いことに気が付き、仕方なしに咥えながら階段を登っていく。未成年にとって煙草の一本は金一本だ。

 ……一歩進むごとになんか、お嬢様っぽい人がビクついてるのは気のせいだろうか。

 最上の階段を踏み終えたところで、他人の勘定の動きに鈍いわたしでもわかるくらい、お嬢様の表情がこわばったの見て取れた。


 ……もしかして、見えた? 火傷の跡が。もう遅いかもしれないけど、フードを深く被り直し、火傷の跡がある部分を隠しておこう。見ていて気分のいいものではないし、見られて気分がよくなる訳でもない。わたしの火傷を知るのは、はくりとみちるだけで良い。

 緊張を落ち着かせるため、煙草越しに息を吸い、白い煙ごと息を吐く。うん、少し落ち着いた。


 そうしてわたしが気持ちを落ち着けていると、お嬢様の脇からひょい、と顔を出したみちるがわたしの目からちょっと斜め上辺りを見つめながら口を開いた。


「あっ、谷野さ──」

「ふっ、不良ですわーーーーー!?!?!?」


 みちるを庇うように抱き寄せてお嬢様は、どこまでも透き通るような綺麗な声でそう叫んだ。

 突然叫ばれ思わず煙草を落としてしまうわたし。背後からはくりの「ぶふぁっ!!」という吹き出す声と、変なところが刺激されたのだろう咽る咳が聞こえてきた。

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