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二人だけのサイン

「ところでさ」


 スタバでの朝食がほとんど終わりかけた頃、佐々木君が話を振ってきた。


「なあに?」


 残っている冷めてしまったカプチーノを飲み干して、軽く首を傾げると


「俺達の、名前の。呼び方、なんだけど、さ」


 彼が不意に口ごもった。


「名字で呼び合うの、なんかよそよそしいだろ? 何か、こう…二人だけのサイン。……っつーか。呼び方、ないかな」


 その時、初めて見た気がする。

 佐々木君の紅い顔!


「私が。『小野果南子』……オノ・カナコ。佐々木君は、『佐々木直人』……ササキ・ナオト?よね」


 うんうんと彼が頷く。


「私……」

「何?」


 急に俯いた私に、佐々木君が怪訝そうな顔をした。


「私ね。本当は、夢だったの。いつか好きな人から、『果南』……『カナン』、て。呼んでもらうこと」

「果南……カナン! いいよ。それ!」


 佐々木君の瞳が急に輝いた。


果南カナンかあ。いいなあ。ぴったり!だな」


 彼は男の子なのに、ひたすら浪漫シズムに浸っている。いや、本当は男の子の方がずっとロマンティストという話は聞くけれど。

 でも。実を言えば。

 唯一ママだけが、昔からこの呼び方で私を呼んでいるということを、当然彼は知らない。


「ママ以外に『果南』のこと『カナン』って呼ばせていいのは、果南が心から本当に好きになった男の子だけよ」


 て、ママと私、小さい頃からの二人だけの約束だった。

 でも、今はまだそのことは佐々木君には伏せておこう。


「で、俺。俺のことは何て呼んでくれるの?」


 にこにこと彼はそう問いかけてきた。


「えー、私に丸投げ?!」

「だって、俺、そんなネーミングのセンス、ゼロ!だし」


 あっさりと彼は白旗を上げる。

 溜息をつきながら考えてみて


「ンー。……じゃあ。直人……くん」 


「なんだ。まんまじゃん! その上、『くん』付け?」


 すこぶる不服そうな彼に


「もっと。仲良くなったら、直人って呼ぶ」 


 と、小さく呟いた。


「それって、俺とカナンが『夜明けの珈琲』一緒に飲む仲になったら、ってこと?」


 そう切り替えされ、一瞬、絶句する。


「あー、早く果南から「直人」て呼ばれたいよなあ」


 うーんと背伸びすると、彼はひとつアクビをした。


「眠いの?……直人、くん」

「ん。まあ、ちょっとね」


 そう言えば、目が少し赤いような気がする。


「昨夜、よく眠れなかったの?」 

「カナンの心配には及ばないよ。俺が、果南の……寝顔、少しでも長く見ていたかっただけ」

「そんな!」

「大丈夫。心配しなくてもカナン、寝顔もメッチャ可愛かったから」


 どうして。

 そんな台詞がこうもすんなり出てくるんだろう。

 私は、ひょっとして、とんでもない人を好きになってしまったのではないかしら……。


「そんな顔するなよ、カナン。クリスマス的にはイブの方が盛り上がって終わるけど、本来は今日がほんとのクリスマスなんだし。これからどうする? 俺は、もしかしてもしかしたら、果南と一緒に過ごすかもしれないと思って、予定フリーにしてあるんだけど」


 彼が嬉しそうに笑う。


「だったら。私……」

「うん? 何。なんでもいいよ。言ってみなよ」


 私の顔を覗き込む彼に、言った。


「私。直人くんと遊園地に行きたい」



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― 新着の感想 ―
[一言]  佐々木直人——「木直」で「植」になることしかおもいつきませんでした! サッキーナとか、あるにはあっても、恋人呼びっぽくはない(汗)
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