「ご一緒に、永遠の命はいかがですか?」
「ご一緒に、永遠の命はいかがですか?」
今ならセットで、銀色八重歯も付けられますが。
強制的無料極圧笑顔の店員が、丁寧ながらも絶対に拒絶を許さない態度でそう、説明してきた。
――ハッピー・セット。
全国民強制肉体改造計画の通称だ。
その名の通り、ハッピーなセット。
国の人材不足解消政策の、主力だ。
人材不足に陥った国の解決策は、さまざまである。
一つは、人間に代わる機械の利便性を上げること。
これは充分に機能したが、今度は管理する人間が足りなくなった。
管理するための機械を作って、さらに管理する機械を交代させる。それでも、最後は人の手が必要だ。
機械はマニュアルを超えられないからだ。
何百年に一度の異常事態があった際に、最適な答えを出せない。
二つ目は、他の国からの人材確保だ。始めは上手く行った。魅力的な国作りをして、暮らしやすさをアピールした。
しかし、すぐに上手くいかなくなる。
他の国も、人口減少による、人材不足に陥ったからだ。
より、資源が豊かで便利で、暮らしやすい国に、人は移る。また、暮らしやすさの概念は時代と共に変わる。労働者を大事にしない国には、人は寄りつかない。
三つ目がクローン技術だった。倫理観の問題はすぐにクリアされたが、その後、クローンとオリジナルが入れ替わる事件が多発した時代があり、禁止されることになった。
クローンの事件のことがきっかけで、今いる人間の寿命を、長寿化しようと言う考えが広まった、とも言える。
それからは、医療技術とSF、そしてお伽話や伝説の出番だった。
かつて、時の権力者が求めた物――賢者の石、仙丹、人魚の肉。
あるいは、機械人間化、冷凍睡眠、代替臓器。
やがて生まれたのが、人間の長寿命種を作る事。
所謂、バンパイア計画と言う。
幹細胞や血液を自分のクローン培養した若いものに入れ替えること、機械人間化することで、平均寿命を大体三百歳前後に安定させる。
また、銀色の八重歯を付けることで、食事が良く摂れるようになり、消化を助ける。
その頃にはクローン肉以外の肉は、野生は硬いものが多く、八重歯は付けるべきだろう。
「お好みで、瞳を赤くもできますが?」
瞳の定番は赤、他に、金がある。
いかにもらしい、とののことで人気だ。また、夜目も効くようになり、夜勤にはうってつけのようだ。
瞳の色は、ハッピー・セットをしたとのアピールも兼ねているとのことだが、これだけ多様な人間で溢れている昨今、アピールには、あまり意味はない気がしている。
「それでは、ハッピー・セットの国民様、サインをお願いします。」
簡単な虹彩認証と声紋、指紋によるサインを終える。
すると、フロアに店員達が並び揃った。
「「ハッピー、ハッピー、あなたとわたし♪
素敵な人生、みんなの喜び♪
長生きしてね、はたらーこーうー♪
成人の儀、おめでとうございます!」」
フロアに店員達の歌声と拍手が響く。
これにて、成人の儀のハッピー・セットは終了した。
今年で百歳になった。
今まで好きに遊んできた分、しっかり働こうか。
これから先、二百年程の労働に胸を馳せ、大人の階段を昇る気持ちになった。
未来は、明るい。
この瞳には、全てが眩しく感じられた。
fin.